第5話 認めて堕ちる
「婚姻年齢には達してるから、ゆかりちゃんが捕まることはありません」
「そういう問題じゃねえ!」
「じゃ、どういう問題?」
「……う」
じっと見つめられて困惑する。
「ねえ、なにが問題?」
「や、だから……付き合ってねえし……いきなりとか」
「ダメ? オレはゆかりちゃんが好きだよ。だから、抱きたい。いい機会だと思ったんだ。神事だけじゃなくて、ほんとに結婚したい」
「おれは……」
「ゆかりちゃんも、オレのこと好きでしょ?」
「決めつけるな!」
「違うの?」
ああ、もう、捨てられた子犬みたいな目で、おれを見るな!
だから、お前が『花婿』だって聞いたときに、これはヤバいって思ったんだよ!
既婚者だったころからかわいいと思ってました!
でもお互いに男だし!
おれは既婚者だからって、自分で自分にストップかけてました!
「……違わない」
「じゃあ、問題ないよね」
恐ろしく嬉しそうで、びっくりするほどにきれいな笑顔を見せられた。
ああ、はい。
悪あがきしてすいませんでした。
認めます。
ホントは、おれも、この年下の男に懐かれて、ほだされていました。
着物エッチって、実はめっちゃエロいんじゃね? なんてことをのんきに考えていられたのは、キスまで。
「すごいね、この着物……誘ってる?」
「誘ってねえわ……女物だからだろ……ンん……あ、ちょ、まて……あァ、あ……」
「ゆかりちゃん……かわい……」
おれはホントは、自分の名前が好きじゃない。
よく女の子と間違えられるし、読み間違いも多いし。
チビのころ、ここで会った誰かに『ゆかりとはえにしよ。お前によく似合う』そう言われてからは少しだけ好きになったけど、基本的にはあんまり人に下の名前では呼ばせない。
家族と、チビのころから知っている人たちは『ゆかち』と呼ぶ。
あとは元嫁含めて『縁くん』だった。
『ゆかりちゃん』だなんて、かわいく呼ぶのは……呼ぶことを許したのは、こいつだけ。
身長はそう変わらないのに、年齢の割にしっかりとした体つきの慎也は、おれを抱え上げて部屋を移る。
本殿の奥にある、それ用に整えられた部屋。
大きな白い布団が引かれている。
本殿で重たい着物やら被り物を脱ぎ去って、一番下の白い着物になって連れていかれた。
布団に下ろされるとき、慎也の向こうにふさふさと影が走った。
「ゆかりちゃん?」
「初夜はいいけど、風呂ぐらい入らせろ……こんだけ準備されてるんだ、あるんだろ?」
「後じゃダメ?」
「エッチするにはそれなりのマナーってもんがあるだろうよ、童貞小僧」
苦し紛れにそう言ってやったら、慎也の目つきが変わった。
「童貞だけど、イメトレはばっちりだからね」
はい、すいませんでした。
++++++++++
次回、視点が変わります。
慎也視点でどうぞ。
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