第2話 現状、花嫁のおれ

 あれは地元の祭り『狐の嫁入り行列』なるもので、おれの役割が『花嫁』だったと知ったのは、小学生になってから。

 男の自分が『花嫁』役だったってことには、かなり衝撃を受けたものだ。

 でもまあ、チビの頃の話だからなって、自分を納得させていたのだが。


 が!

 現状、おれは再び『狐の嫁入り行列』で、『花嫁』をさせられております。

 何故だ!

 解せぬ。

 解せんだろう!

 なあ、誰か教えてくれないか。

 五歳の頃ならいざ知らず、何故三十六歳になった今、男のおれが『狐の花嫁』なんだ?


 夏の終わりの夕暮れ時。

 先導の幟がひらめき、その後ろを露払いの鐘太鼓が続いて、介添え人に手を引かれたおれが続く。

 おれの後ろは、嫁入り道具やら付き添いの小姓やらが続いて、最後にまた幟がいるはず。

 おれの衣装、黒染めの文金高島田ですってよ。

 細身とはいっても、おれの身長は成人男子の平均を超えているので、被り物込みでかなりでかいはず。

 なのに、何故に道行く見物人は「キレイねえ花嫁さん」なんて、言っているのかな?

 しかも顔半分は狐面で、しっかりと見えてないと思うんだけど?

 どこを見て「キレイ」なのか、知りたいもんだ。

 『花嫁行列』は鐘と太鼓の音だけが響く中、しずしずと進む。

 準備を整えられた会所を出て、集落の外周をぐるっと回ってから、参道を上って神社に向かう。

 チビの頃は誰かに抱かれて連れ回されたけど、今回はいい大人なので、自分の足で歩きますとも。

 重たい重たい裾に綿の入った絹の着物、左手で裾を持ち上げて右手は介添え人に預けて、慣れない草履でそろりそろりになるけどな。

 被り物が重くて頭が下がるから、自然と伏し目がちになる。

 目に入る衣装を見ながら、これの値段を考えた。

 高いんだろうなあ……おれ、自分の嫁にこんないい花嫁衣装、着せてやれたっけなあ、なんて。

 まあ、元嫁だけど。

 考えれば考えるほど訳が分からなくなる。

 こういう神事ってやつは、処女性とやらが大事だとか言わないか?

 未婚の女性がどうこうってよく聞いた気がするんだけど、おれの勘違いかな?

 おれ、『花嫁』役は二回目で、男で、三十六歳で、バツイチって、めっちゃくちゃかけ離れている気がするんだけどな。

 解せん。

 被り物で狭くなった視界の隅を、するっと何かが横切った。



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