第一部 09
昭和四十六年
ほんの少し前に、
「おめでとう」
と、言われたけれど、私の気分は舞い上がることなく底まで沈んでいました。もう緑一色になった桜の木の下を歩きながら、これからどうなるんだろう、それしか頭に浮かんできません。
帰ってくるまで出掛けずに待っている、マサさんはそう言って私を送り出した。なので戻ると同時にマサさんに結果を伝えないといけない。そうするとその場で、これから、の結論が出るかも知れない。悪い結論しか思い浮かばない。覚悟する時間が欲しい、そんな思いから帰り道の足が遅くなっていきました。
マサさんと暮らし始めて二年が過ぎました。たまにだけど、怖い、と感じるときもある。時々他所に泊まってくるマサさんに腹を立て、どんな女の所で寝ているのかと気になって眠れなくなる時もある。でも、ずっと続く、ずっと続いて欲しい、そう願うようになった暮らし、十分幸せな二年でした。
昨夜、こと、が終わったあとマサさんがこう聞いてきました。
「お前、この前の生理いつだった?」
「えっ?」
「ずっとないんじゃないか?」
「……」
そう言えば、と思いながら記憶を探りました。一か月、いえ、二か月以上ないかも。
「出来たんじゃないだろな」
「えっ? まさか」
時々避妊具をつけないことがあるから可能性はあるけれど、まさか。私が妊娠する、私に子供が出来る、そんなこと、私自身に一番実感が湧かない。私みたいな子供が、って思いで。
マサさんは枕の先に手を伸ばしてタバコを取ると吸い始めます。
「明日、医者行って来い」
そしてそう言いました。
「……出来てたらどうしよう」
どうしたらいい? と言う気持ちでそう言ってました。マサさんとの子供、本当なら嬉しいのは嬉しい。でも、歓迎出来ない。なぜなら、それはこの生活の終わりを意味するから。
まず産ませてはもらえないだろう。そして私は捨てられる。ここまでで済めばいい方。さらに悪く考えるとお店を辞めさせられる。また無職の宿無しになってしまう。
「まあ、店は辞めるしかないな」
いきなり最悪の返事が返って来ました。私はもうこれからのことが怖くのしかかって来て何も言えませんでした。
マサさんがタバコを消すまで長い時間に感じました。消しながらマサさんがこう言います。
「明日、朝から医者行って来い、それからだ」
そして背中を向けて寝てしまいました。私はマサさんの背中の絵を見つめながら、なかなか寝つけませんでした。
帰って来て玄関を開けると、ただいま、を言う前に、
「どうだった?」
と、居間の方からマサさんの声がします。そして居間への扉が開くと廊下にマサさんが出てきました。私は顔を上げれません。
「その、出来てました」
そう言うしかありませんでした。
「そうか」
なんとなく機嫌の良さそうな返事に聞こえたけど、私はマサさんの顔を見れませんでした。
「おい、どうした、入って来いよ」
そう言ってマサさんは居間の方へ。
「はい」
私は返事して続きました。
居間へ入るとマサさんは背広の上着を着ているところ。
「あの」
その背中に声を掛けました。
「店はもう行かなくていい、俺から話しとく」
「……はい」
やっぱりこうなるんだ。
「なんだ? まだ働く気か?」
私の返事が暗かったから不満があるように聞こえたかも。
「い、いえ」
「酒は良くないんだろ、ダメだぞ、家でも飲むなよ」
「えっ?」
「取り敢えずゆっくりしてろ、ちゃんと飯食えよ、じゃあな」
そう言ってマサさんは出て行ってしまいました。なんだか期待してはいけない希望が湧いてきました。今のマサさんの雰囲気、ひょっとして産ませてくれる? 喜んでくれてる? そう感じました。
タクシーのドアが開くと寒い空気が一気にまとわりついてきました。車外に出ると、
「おい、寒いからさっさとうち入れ。紘一達が来てるから鍵は開いてる」
と、マサさんがお金を払いながら車内からそう言います。
「でも荷物」
私がそう言うと、
「恵子が風邪ひいたらどうすんだ、早く行け」
と、怒鳴られました。まあ、出産した産婦人科は歩いて十分も掛からないところなのに、寒い風に恵子を晒せるか、と、タクシーを呼んだマサさん、そう怒鳴るのは当然のことかも。なので私はマンションの階段へ急ぎ足で向かいます。
臨月になってから引っ越したので、まだ一か月も暮らしていない新しい部屋。ここは会社の人間が出入りするから子供はまずい、と言ってマサさんが新しく借りたところ。その新しい我が家へ、二日前の十二月十四日に生まれた恵子を抱いて帰ってきました。どんな時にも恵みがあるように、と、マサさんがつけた名前。早速父親の愛に恵まれて私の腕の中で眠っています。
玄関を開けると、
「おかえり」
と、サキちゃんが出迎えてくれる。この新しい部屋はサキちゃんの所とご近所。これからはしょっちゅう会える。
「ただいま」
そう返すと、
「あんたに言ったんじゃないよ、ケイちゃんに言ったの。ねっ、恵子ちゃん」
と、私の腕の中の恵子の頬を突っつく。せっかく寝てるんだから起こさないで。
「この子はここ初めてなんだから、おかえりじゃないんじゃないの?」
と言いながら居間に入りました。
「ああ、ほんとにかわいい」
恵子の顔を覗き込みながらそう言うサキちゃん。聞いてないし歩きにくいっての。あんた昨日も病室で恵子とにらめっこしてたでしょ。
抱かせて、と言うサキちゃんに恵子を預けて私はオーバーを脱ぎました。部屋の中はストーブがついていて暑かったです。居間とつながる寝室に可愛いベッドが置いてある。入院前にはまだ届いていなかったもの。それに、それ以外の家具や電化製品も全部新品。引っ越す時にマサさんが買い揃えた物だから。ここで親子三人の暮らしが始まるんだ。
妊娠したと分かったすぐ後に、私とマサさんは結婚しました。結婚式なんてやっていないけど、ちゃんと入籍はしました。そう、私にはまた、家族、と呼べる人が出来たのでした。
紘一さんが、俺にも抱かせて、とサキちゃんに言ってるところへ、荷物を抱えたマサさんが入って来ました。
「オラ、落っことしたらどうするつもりだ。おい、シズ、サキにも抱かすな、危ないだろ」
マサさんにそう言われて紘一さんが手を引っ込めます。そしてサキちゃんは、
「ひどい、落としたりしませんよ」
と言いながら、私に恵子を返してくれます。
「ダメだ、首がどうとかなるまでは注意しろとか言ってやがったから、それまでは静だけだ」
「大丈夫ですってば」
サキちゃんは私の腕に戻した恵子を覗き込みながら言い返します。
「そんなに抱きたきゃ自分で産め」
マサさんがそう言う。そうそう、サキちゃんも早く産みな、紘一さんの子供。
イーっと歯を見せてマサさんを睨むサキちゃんを押しのけるようにして、ソファーに座った私の膝の上の恵子を覗き込むマサさん。
「こいつは美人になるぞ」
と、恵子の頬に手を伸ばすけれどギリギリで触れません。そう、マサさんはまだ一度も恵子に触れていない。当然抱いたこともありません。俺が触ると壊れそうだ、なんて言って。怖い顔して何を怖がってるんだろ、と、私はずっと笑いをこらえています。
「晩御飯、シチュー作っといたけど、作ったの私だからまずくても勘弁してね」
と、サキちゃん。
「ううん、ありがと」
私とサキちゃんがそんな会話をしていると、
「マサさん、テレビ、カラーなんすね、いいなぁ。いくらしました?」
と、紘一さんがマサさんに話し掛けます。マサさんは私の前に跪いた格好で恵子を覗き込んだまま、
「覚えてねぇ」
と、気のない一言。
「コウちゃん、テレビもだけどここのお風呂、シャワーついてるんだよ」
と、今度はサキちゃん。
「うそ、どれどれ」
と、紘一さんが風呂場へ行こうとします。するとマサさんが首だけ二人の方へ向けてこう言います。
「ああ、お前らもういいぞ、帰れ」
「ええっ、ひっどい。ちゃんと部屋温めて、ご飯まで作って待ってたのに」
サキちゃんが言い返します。
「ああ、ありがと、助かった。でももういいぞ」
「そんな、もう少しいいじゃないですか」
マサさんが立ち上がりました。二人が一歩下がります。
「あのなぁ、お前らもう店行く時間だろ、さっさと帰れ」
「分かりました」
サキちゃんが不満そうにそう言います。そして、
「でも、マサさんもでしょ」
と、続けました。するとマサさんはこう返します。
「いや、俺は今日休みだ」
そしてまた私の前に、いえ、恵子の前にかな、跪きます。
「えっ?」
「マネージャーに電話した、体調悪いって。だからお前ら余計なこと言うなよ」
信じらんない、マサさん仮病使って休むんだ。
先に玄関に向かった紘一さん(途中で風呂場を覗いていた)を追うように玄関に向かいかけたサキちゃんが振り返ります。
「でも、しーちゃんが子供連れて帰ったって聞いたらバレちゃうんじゃないですか?」
「はあ?」
マサさんがサキちゃんを見ます。
「赤ちゃんと一緒にいたいから休んだって」
「そんなんじゃねえよ」
「そうなんですか? なんか今日のマサさんずっとデレデレした顔してるけど」
「サキッ!」
「はいはい、余計なこと言いませんよ」
そしてサキちゃんも帰っていきました。
最後のマサさんの声に驚いたのか、恵子が目を覚まして泣き出しました。すると私より早くマサさんが恵子に顔を近づけます。
「おー、悪い悪い、起こしちゃったか、大丈夫だぞ、寝てていいぞ」
そしてそう恵子に話し掛けます。こんな優しい声が出せたんだと、私はおかしくなりました。
泣き止まない恵子をあやし続けるマサさん。やがて、
「おい、何とかしろ」
と、私に言います。
「大丈夫ですよ、泣くのが仕事だから心配するなって言われましたから」
「ダメだ、せっかく美人顔なのに泣き顔になったらどうするんだ」
また言ってる。産まれたばかりで美人顔かどうかなんてわかるはずないのに、と、私はまたおかしくなりました。
「はいはい、お腹すいたのかな。お乳やってみましょうか」
おむつは病院を出るときに替えたばかり。なのでそう言いました。
「おお、やれ、早くやれ」
私は急かされるように胸をはだけて恵子の口を乳首に付けました。すると吸い始める恵子、ほんとにおっぱいが欲しかったんだ。
マサさんが顔をよせてお乳を飲んでいる恵子を見ています。息をするのも忘れているかのように凝視してる。
「ちょっと、そんなに見ないでくださいよ」
「あっ、ああ、悪い」
照れたような顔でマサさんが顔を離します。私は、一生懸命私のおっぱいを吸っている恵子を見ていました。私のお乳の出が悪いのでほんとに一生懸命吸っている。なんだかかわいそうに思うけど、吸われているうちに沢山出るようになるって言われた。頑張って、恵子。私はその姿を見てほんとに幸せな気持ちになる。妊娠してからの色んな不安がすべて消えていくよう、そう、ほんとに全ての不安が消えていくようでした。
昭和四十七年
恵子はよく泣く子でした。一時間静かでいることがほとんどないくらい。最初から、オギャー、オギャーと大泣きすることはあまりないけれど、グズグズと笑ってるかのように泣き始めます。なので泣き始めたことに気付かず大泣きさせてしまうことがしばしば。
ほとんどはおっぱいの催促。私のおっぱいの出が悪いので満足する前に疲れて吸うのをやめているのかも。それで回数が多いのかな、なんて心配になってお医者さんに相談したけど、何も問題ないと言われました。
夜中もおっぱいを催促してくる恵子。夜中は大泣きするまで気付かないことが多いので、マサさんも起こしてしまいます。なので最近はそうやって起こされて眠れないのが辛いのか、マサさんが帰って来ないことが増えました。私も眠れないのは辛いんだけど、マサさんが帰って来ないのも辛い。
そんなマサさんが最近はよく家にいます。夜はお店に行くけれど、昼間に家にいます。理由は軽井沢で起きた立てこもり事件。テレビでずっとそれをやっているから。
そして今日、一週間以上続いた事件が動きます。警察がいよいよ突入するって言ってる。サキちゃん達までうちにやってきました、カラーで見たいからと。十時前、中継が始まりました。全員がテレビに釘付け。でも私は、
「始まったぞ」
と、マサさんが興奮した声を出した十時過ぎ、恵子とテレビに目をやりながらお昼ご飯を作り始めていました。今日は月曜日、マサさんが必ず事務所に行く日だから。
あまり動きがないのか、テレビのチャンネルをガチャガチャ変えているマサさん達。そのうち、クレーンで吊り下げた大きな鉄の球で建物を壊し始めました。マサさんたち三人がテレビに身を乗り出しています。そんな十時半過ぎ、マサさん達の前に昼食を出しました。サキちゃん達もいたので今日は親子丼。まあ、私の好物なのでこれを作ることが多いんだけど。
「もう昼か?」
と、マサさんが私を見ます。
「今日、月曜ですよ、事務所行かなくていいんですか?」
「ああ? くっそ、しょうがねえな」
そう言いながらマサさんは食べ始めました、テレビを睨みつけたまま。サキちゃん達も、ありがとう、と言って手を付けますが進まない。みんなテレビに注目しています。
私が食べ始めた頃、恵子が動いた気配。覗きに行くと正に泣き始めるところでした。おむつに異常はなさそう、この子もご飯かな、と、お乳をやると吸い始めます。
恵子にお乳を飲ませながらマサさんを急かして食べさせます。親子揃って手が掛かる。食べ終えたマサさんに一服させず、そのまま着替えるように急かします。機嫌の悪い声を出しながらだけど、事務所には行かないといけないのでしぶしぶ着替えてくれます。
おっぱいから口を離した恵子を寝かせようとしたら不機嫌な顔をして泣き出しそう。しょうがないので胸に抱えていました。するとマサさんの方を見ていた恵子が、アー、とか、ウー、とか、声を出しました。マサさんが気付いて恵子を見ます。そして私に目を移すと、
「しゃべったのか? 今」
と、驚きと嬉しさが混ざった顔。
「まだですよ、声を出しただけです」
「いやいや、しゃべったんだぞ」
だから違うってば。それに、マサさんが知らないだけで少し前から声は出してますよ、と言いそうになってやめました。
「ほら、もう一回、お父さんって言ってみろ」
恵子に顔を寄せてそう言うマサさん。さっきのが、お父さん、って聞こえたのかな。
「ほら、言ってみろ」
恵子の小さな手を取ってマサさんがまたそう言います。恵子に触るようにはなったけど、まだ抱こうとはしないマサさん。
恵子がマサさんのあやしに応えてアーとか声を出すもんだから、マサさんが動かなくなりました。
「ほら、もう一回、お と う さ ん だ」
なんて、マサさんは一生懸命恵子にしゃべらそうとしています。
「マサさん、遅れますよ」
しばらく付き合ってからそう声を掛けました。
「大丈夫だ、タクシー捕まえる」
そう言って、恵子を構い続けるマサさん。
時計の針が十一時を完全に過ぎて、私の方が気が気でなくなりました。
「マサさん、もう二十分過ぎますよ、いいんですか?」
もう一度急かしました。
「くっそ、しょうがねえな」
やっと恵子から顔を離してくれました。
上着を着て、コートも着て、マサさんがやっと玄関に向かいかけました。紘一さんが、
「代わりにしっかり観ときますから」
と、声を掛けます。いらんこと言わないで。
「おお、じゃあな」
良かった、マサさんはそう返しただけで玄関への扉を開けます。その時、
「えっ! 誰か撃たれたって」
と、テレビを観続けていたサキちゃんが声を上げました。途端にマサさんがテレビの方へ戻ってきます。
「誰が? 警察か?」
「機動隊とか言ってましたけど」
そしてまた座り込もうとします。
「マサさん」
大き目の声で呼びかけました。するとマサさんより先に恵子が反応して泣き始めちゃいます。下ろし掛けた腰を上げてマサさんが、
「大きな声出すな」
と言います、テレビに顔を向けたまま。
「すみません、でも会社、早く行かないと」
腕の中の恵子を揺すりながらそう言いました。
「分かった、しゃあねえな」
マサさんはテレビに顔を向けたまま戸口へ、そして最後に恵子の顔を覗いてから、
「じゃあな」
と、やっと出掛けていきました。
泣き止んだ恵子を寝かせた頃、また警察官が撃たれた、とテレビが言い始めました。私はそんな中継を観ながら、冷めた親子丼を食べ始めました。その冷たさは、テレビの中の寒さを味わっているようでした。テレビの中の、観ているだけで凍えそうな景色。あんなところで怪我したらさぞ痛いだろうな。お仕事とはいえ警察官の人達は大変だな。と思いながら膨らんだ冷たいご飯を食べながらも、私の心の中はもう春の日差しが指していました。マサさんの本当に嬉しそうな顔が見られたから。
本物の春の日差しの中、干していたお布団を取り込みながら裏の公園を見降ろしました。よちよち歩きの子供達の後ろをついて歩いているお母さん達が見える。
敷布団を取り込んだまま畳の上に広げる。そしてベッドの柵の中で手をフリフリしている恵子の所へ。抱え上げて広げたお布団の上に寝かせる。すると今度はコロコロと転げ始める恵子。寝返りはもう上手に出来るようになりました。もう少しするとズリズリ這い回るようになって、そしてハイハイを始めるとか。楽しみ。でも、下のお母さん達の仲間入りをするのはもう少し先かな。
そんな嬉しい恵子の成長の反面、最近は悩み事も出来ています。それは恵子の夜泣き。今までのようにお乳をねだってとか、おむつが汚れてむずかるように泣いていたのとは違い、本格的にギャアギャア泣きます。抱き抱えて話し掛けながら部屋の中を歩き回っているとすぐに泣き止んで眠ってくれる。けれど寝直した私が寝付くころにまた泣き始める。毎回こうではないけれど、このパターンが続くとほんとに辛い。そして時々、何をやっても泣き止まないことがあります。ご近所に申し訳ないのであの手この手で泣き止まそうとするのだけれどダメです。そう言う時は恵子自身が疲れて泣くのをやめるのを待つしかない、って感じです。
恵子の本格的な夜泣きが始まってから、マサさんは本格的に夜は帰って来なくなりました。毎晩パープルの寮で寝て、朝帰ってきます。でもお昼前には事務所へ出掛けてしまい、夜はまたパープルの部屋へ。マサさんが眠れないのは申し訳ないから他所で寝るのはしょうがない、とは思うけど、あの部屋で一人で寝てるはずない。泣いている恵子を抱きながら、イライラすることが増えました。
そんな状態が一か月ほど続いた頃、扉のワカバさんがうちに来ました。扉に勤めていた時、ワカバさんとは親しくなりました。恵子が産まれるとワカバさんはとても喜んでくれて何度か会いに来てくれています。
でも、ほんの数日前にも来てくれたばかり。今日は何だろう、と思っていたら、持ってきた紙袋を手渡してくれます。
「この前、眠れないとか言ってたでしょ」
そう言われて中を見るとお薬が沢山入っていました。
「これは?」
「睡眠薬。私、最近使わなくなったから全部持ってきた。良かったら使って」
「ありがとうございます」
「でも、それ強い薬だから一回一錠ね。効かないと思っても二錠まで」
「あっ、はい」
「沢山飲むと目が覚めなくなるみたいだから気を付けてね」
「えっ?」
「死んじゃうってこと」
「あっ、ああ、分かりました」
死んじゃう、って言葉に驚いている私をよそにワカバさんは、
「ケイちゃ~ん、ケイちゃんにはこれね~」
と、鞄から何か取り出します。そして布団の上でコロコロしていた恵子にしゃがんで近付くと、
「イルカさんだよ~」
と、白いイルカのおもちゃを振って見せます。恵子は機嫌のいい声を出しながらイルカに手を伸ばしてる。眠れないからって薬飲んで寝ちゃったら恵子が泣いても起きれないよね、と思いながら私は受け取った薬を水屋の引き出しへ。そしてワカバさんと並んで恵子の傍にしゃがみました。
ベランダで物干しざおにズラっとおむつを並べて干していたら、裏の公園で子供たちが遊んでいました。小学生くらいの子達、もう夏休みに入ったんだ。恵子はもう七か月を過ぎました。でも夜泣きは頻度が減ったけれど相変わらず。お医者さんが言うには、恵子は夜泣きを始めたのが早かったから、しなくなるのも早いかもとのこと。でも、一歳半ぐらいまでは続くものだからそう思っておいた方がいいよ、とも言われました。まだ一年続くのか、と、気が重くなります。そんな恵子は子供達の大きな声が響く中ですやすや寝ている。昨夜は私を眠らせてくれないくらいたっぷり泣いたから疲れているのかも。昼夜逆転してくれたらいいのに、と、少し腹が立っちゃう。でも、寝顔を見ているとそんな気持ちもどこかへ行ってしまう。恵子の横に寝転んで、私も眠りの中へ。と、寝付く前に起こされる。いきなり最大級の泣き方、これはおむつとご飯の両方だ。
おむつを替えておっぱいを口に。少し吸ったかと思うと口を離します。でも私がおっぱいを隠すとむずかる素振り。食べたいのかな? 今朝はお粥を食べさせようとしたら嫌がっておっぱいだったのに。そう、一か月くらい前から離乳食を食べさせています。お粥だけど、米粒も潰しているのでドロッとしたスープみたいなもの。お出汁を取るとお腹を下すと言われたので味付けはほんの少しのお塩だけ。ハッキリ言って私には食べられたものじゃないけれど。
今日はさつまいもを潰して混ぜました。それが気に入らなかったのかな。一口目を吐き出しました。でもそれしかないので温めてもう一度口へ。食べてます、機嫌のいい顔で食べてます。もう一口食べるかな? と思っていたら、
「サー、サー」
と、私の方に手を伸ばして催促してきます。なので二口目を口へ。また機嫌のいい顔。ところで、恵子が私を呼んでいると思われる仕草と共に、サー、とか、マーと、最近声を出します。でも、サー、マー、って、いったい何を言おうとしているのか分かりません。マーはママかな? なんて思うけど、ママなんて言葉、誰もここでは使わないし、意味不明です。
機嫌がいいので三口目を口に持って行くと、イヤイヤ、でした。もう食事はいいらしいです。口の周りを拭いて前掛けを外してやると腕の中で暴れ始めます。抱かれているのが嫌みたい。寝室の布団の上におろすとすぐにひっくり返って四つん這いに。そしてスタスタと這い回ります。ハイハイも上達しました。
恵子は運動能力の発達が早いようです。お医者さんにそう言われたとマサさんに言うとすごい喜びよう。将来は東洋の魔女だな、なんて言い出します。バレーボールさせる気かな。マサさんは背が高いけど、私は低い方。私に似ちゃったら無理だね。
恵子が居間の方に行かないようにガードしながら遊んでいました。居間は板張りで寝室は畳。なので畳の厚み分くらい居間の方が低いのです。そこへハイハイで恵子が行ってしまうと段差でつんのめります。もう二回ほど居間の床におでこをぶつけて大泣きしています。なので要注意なんです。
最近お気に入りの子鹿のぬいぐるみ(律子さんが持ってきてくれた)で恵子と遊んでいるとサキちゃんが来ました。サキちゃんの顔を見て、
「シー」
と呼びかける恵子。サキちゃんのことは、シー、と呼びます、なんでだろ。ちなみに、マサさんのことも恵子は、シー、と呼びます。ほんとに理解不能です。
サキちゃんも交えて恵子と遊んでいたらマサさんが帰ってきました。今朝は帰って来たと思ったら着替えだけしてすぐに出て行ったマサさん、どうしたんだろ、と思ったら、
「昼食わしてくれ」
と、一言言って恵子の傍に滑り込むようにしゃがみ込みます。恵子はご機嫌、シー、シー、と、マサさんに手を振ります。そんな恵子を抱きかかえてマサさんもご機嫌な様子。そう、恵子がハイハイをするようになって、やっとマサさんは恵子を抱くようになりました。
私とサキちゃんは追い払われるように台所へ。お素麺にしようか、なんて言いながら昼食の用意を始めました。するとしばらくして、恵子を抱えてソファーでテレビを観ていたマサさんの腕の中から恵子が、
「サー」
と言って台所の方へ手を伸ばしました。
「今、サキを呼んだのか?」
マサさんが恵子の顔を覗き込みながらそう言います。
「サー」
恵子がまたそう言います。
「なんでサキなんだ」
いえ、多分そのサーは私のことだと思うけど。
「ケイちゃんは私のことが好きなんだよね」
と、サキちゃんが嬉しそうな顔で応えます。
「嘘だろ、俺まだお父さんって呼ばれてないんだぞ」
そんな長い言葉、まだしゃべれませんよ。
「マサさんあんまり家にいないからですよ」
サキちゃんがマサさんにそう返します。
「ああ? そう言うことなのか?」
そう言ってマサさんは恵子の顔を覗くけれど、恵子は、
「サー」
と言って台所の方に手を伸ばします。
「やっぱりサキなのか。おいシズ、お前は? お前は恵子に呼ばれたことあるのか?」
だから今、サーって呼んでるのは私のことですよ。と思っていたら、
恵子がマサさんの顔を見て、
「シ」
と言いながらマサさんの顔を触ります。
「シ、ってシズのことか。おい、俺は? おとうさん、だぞ」
そう恵子に言っているマサさんにサキちゃんがまたこう言います。
「だからマサさんあんまり家にいないから覚えられてないんですよ」
「そうなのか? だったらサキ、お前もう帰れ」
「ええっ? 何でですか?」
「俺が覚えられてないのにお前がっておかしいだろ」
「そんな」
「うるさい、俺がお父さんって呼ばれるまでお前出入り禁止だ」
「ええーっ」
と、二人がやり取りしているところに割り込みました。さっきの恵子の反応を見ていて気付いたので。
「マサさん、さっき恵子がシって言ってマサさんの顔触ったでしょ? それ多分マサさんのことをシって呼んだんですよ」
「なんで俺がシなんだ」
「私のことをいつもシズって呼ぶから、そのシが耳に残ってるんですよ」
「そうなのか?」
「多分。私はよくマサさんとかサキちゃんって言うから、マーとかサーって呼ばれますから。さっきのサーも多分私のことですよ」
するとサキちゃんもこう言います。
「そっか、私はしーちゃんってよく言うからシーって呼ばれるんだ」
「多分ね」
マサさんは、シ、シ、と言いながらマサさんにじゃれる恵子とにらめっこ。そしてこう言いました。
「分かった、シズ、これから名前はやめだ。お父さんって呼べ」
そしたら私のことをお父さんって言いそうだけど、まいっか。
「じゃあ私のことはお母さんって呼んでくださいね」
「はあ? ああ、分かった」
「じゃあ私は? お姉ちゃん?」
サキちゃんがそう言います。
「バカかお前、お前はサキだろ。いや、おばさんだ、ババアって呼んでやる」
「ひっどい、じゃあマサさんのこと、じじいって教えてやる」
「サキ! そんなこと覚えさせたらお前どうなるか分かってんだろな」
マサさんが大きな声でそう言いました。それにサキちゃんは何か返そうとしましたが、その前に恵子が大声で泣きだしたので何も言えず。
「もう、お父さんが大きな声出すから」
私は早速、お父さん、と言ってみました。なんだかちょっと変な気分。でも、慌てて恵子をあやすマサさんを見て笑っていました。
昭和四十八年
花はみんな散ってしまい緑一色となった桜の木の下、大きな犬の後ろを恵子がヨタヨタと追い掛け回している。少し前に何とかテリアって小さな犬にかまれた恵子。嫌がっている犬を無理矢理抱こうとしたからなんだけど。それ以来小さな犬には近付かない。お散歩中に見掛けたら抱っこをせがんでくるくらい苦手になりました。でも家の裏の公園に時々現れるこのコリーって大きな犬は平気みたい。なんだか変、だって、コリーは恵子の二倍、いえ、三倍くらい大きな体。恵子の体の大きさからしたら、馬の横に立っているみたい。そんな大きな相手に、全然怖がらずに寄っていきます。まあ、マリア、と飼い主の男性が呼ぶこのコリーは、とてもおとなしいからなんだろうけど。
さすがに抱きつかれ過ぎて恵子を避けるように離れようとするマリア。でも走って逃げたりせず、恵子を振り返りつつゆっくり歩きまわっています。そして時々恵子が追いついて体に触れると、頭を恵子に寄せて恵子の顔を舐めます。顔を舐められるのは嫌がる恵子。小さな手でマリアの頭を払いのけると、マリアはまた恵子から離れようとする。すると恵子がまたその後を追いかける。ずっとこれの繰り返し。
「マリ」
と恵子が言いながら追いかけている。マリア、とはまだ言えないみたい。恵子がマリ、と呼んだ時、何度か反応しそうになりました。だって、三年ほどそう呼ばれていたから。
そのうちマリアを追いかける恵子に仲間が加わりました。洋一君と清美ちゃん。清美ちゃんは恵子より半年早く産まれているので、恵子よりしっかり歩きます。洋一君は恵子と同学年にはなるけれど、翌年の三月生まれ。まだ一歳と一か月ほど、掴まり歩きを卒業しきれていません。二人にはついて行けず転んでばかり。すると二人が洋一君のもとへ、マリアも振り返って洋一君の所へ行きます。そんな三人と一匹を見守りながら、私は二人のお母さん達とおしゃべり。穏やかな時間です。でも、家庭内は最近雲行きが怪しいです。
一か月ほど前に、高速道路の予算が止められた、と、ニュースで見ました。マサさんに、中止になるの? って聞いたら、今更中止はないけどしばらく止まるだろう、と、渋い顔で言います。もうずっとこう、今年になった辺りから高速道路の話ではいつも機嫌が悪い状態です。
高速道路の反対派を仕切る側についていたマサさんの仲間の会社は外され、敵対している会社がついたそうです。そしてその会社で動き回っているのは、なんと以前マサさんがパープルから、会社から追い出した後藤さんだそうです。それが分かった去年の秋くらいからマサさんの機嫌は悪くなりがちでした。
反対派は的確に勢力を強めて推進派を潰して取り込んでいく。それに対抗しようとマサさんの会社は動くけど、勢いに押されて推進派の方の動きが鈍い。マサさんは苛立っていました。
中止はもう有り得ない、といつも言ってるマサさん。じゃあ反対派がいくら強くなっても関係ないんじゃないですか? って聞いたら、反対派を動かしている金が全部後藤の所を通ってるんだぞ、と言います。後藤さんの会社がそれで儲かっているから腹が立つの? と聞くと、そうだ、と言います。でもそんな簡単な話ではなかったみたい。
後藤さんの所の動きに対抗して推進派の方も動いたら、そのお金はマサさんの会社を通るんだけど、その動きが鈍いからマサさんの所ではそんなにお金が動かない。それに加えて、その少ないお金の動きでは反対派の勢いが全然弱まらない。なのでマサさんの会社に仕切りを任せている推進派の方からマサさんの会社は不信を買い、話がどんどん減っている、と言う状態だったようです。実際は不信を買ったのではなく、推進派の作戦変更。桜井さんのいる商社を含めた推進派側が、無駄に争わずに一度反対派に勝たせよう、と方針転換したようです。反対派が勝ったところでもう止まりっこないんだから、延々と揉めているよりその方が早くて安上がり、と。そして名古屋の議会は反対派が多勢となり、工事の予算が凍結されました。それから一か月ほど経った数日前の市長選挙。私は初めて行った選挙で、推進派の木戸市長に入れました。でも、反対派の先山さんが当選しました。
「反対派の市長になっても大丈夫なんですか?」
選挙の翌日、マサさんに聞きました。
「大丈夫じゃねえよ」
「高速道路、中止になっちゃうの?」
「ならねえよ」
じゃあなんで機嫌が悪いんだろう。反対派の人が市長になっても中止にならないと言うのも疑問。なのでもう一度聞きました。
「反対派の人が市長になったのに中止にならないの?」
「名古屋高速って言っても県や国も絡んでんだよ、それでもう着工してるだろ、今更市長が反対したって止まんねえんだよ」
「だったら別にいいんじゃないですか?」
「良かねえよ」
私には分かんない。
「なんでなんですか?」
「あのなあ、これからはもう反対派が勝手に自滅してくだけなんだよ」
「自滅?」
「ああ、もう造っちまったもんは壊せねえし、買収しちまったもんは返せねえ、約束しちまってるもんも無しには出来ねえことがあるしな」
「……」
「中止しようとすればするほど出来ないってことがどんどん湧いてくるってことだ。中止するにもとんでもない金が掛かるしな。で、結局造るしかないってことになる。推進派はそれを待つだけだ」
「それはダメなんですか?」
「待ってればいいだけのことに金出すバカはいねえだろ。そしたらうちは仕事になんねえんだよ」
「どうするんですか?」
「どうもこうもうちはもうこの話は終わりだ」
「そうなんですか」
「あとは工事やってるとこの反対住民煽って、小銭稼ぐくらいしかやることねえ」
そう言ってマサさんは出掛けたのでこの話は終わりました。私には結局、マサさんの、マサさんの会社の、仕事、って言うのが何なのか分かりませんでした。
そのあと、先山市長は何か月もしないうちに工事中止を断念。工事推進へと方向転換しました。より良い形に計画変更するとかって言ってはいたけど、高速道路を造るってことには違いない。私のような無知な一般人は、結局造るんだ、としか思いませんでした。そして反対派が多勢を占めた議会も、一年も経っていないその年の年末には予算を再承認したとか。ほんとに、偉い人達って何やっているんだろう。
こうして高速道路は建設される方向になったんだけど、マサさんは仕事を外され、会社の中で面白くない立場になっちゃったようです。つまり、ずっと機嫌が悪い状態。救いは、恵子にだけは笑顔を見せることでした。
昭和五十一年
白のブラウスに控えめなデザインのグレーのスカート。どちらもあまり着ていないきれいな物。でもこの格好じゃ少し寒い。何か上着を、と思ったけれど、お店に着て行っていたブレザーはちょっと派手かな。と言うわけで上着はお散歩に使ってるジャンパーにしました。でも、派手な上着を着て来ても問題なかったかも。だって、皆さんそのまま夜のお店に出勤できるくらい気合の入った格好だったから。まあ、私のような服装の方も見えたのでいいんだけど。あっ、今日は恵子の幼稚園入園式です。
あっという間に恵子は四歳、今年五歳になります。大病も大怪我もなく元気に育ってくれてます。そしてとうとう幼稚園に入るような年。やっと母親って自覚が落ち着いてきたところなのに、子供が幼稚園に通うとなると、またまたなんだか別の感慨が湧いてきます。興奮気味に新入園の子供たちに混ざって行った恵子とは反対に、保護者の方、なんて呼ばれて私は緊張していました。自分が保護者だなんて。
恵子の通う幼稚園は家から東にちょっと離れたところ。徳川さんの菩提寺だったお寺の近く。大きな国道を横切らないといけないので一人で通わせるのは無理。毎日行き帰り付き合うしかないかな。そう思いながら幼稚園で渡された荷物を持っての帰り道、幼稚園からすぐのところでなんだか懐かしい景色を見つけました。
古い木造の二階建ての建物。大きな建物で、一階にはお店が四軒並んでいます。律子さん達のお店のある建物に似ている。遠い方からスナック、金物屋、韓国の物産店、そして喫茶店。スナックと韓国の物産店に覚えはないけれど、金物屋さんと喫茶店には覚えがあります。特に喫茶店。看板には、すみれ、と書いてあります。お店の名前までは覚えてなかったけど。
「ケイちゃん、お昼食べて帰ろうか」
お昼には早いんだけど、幼稚園のスモッグ姿で横を歩く恵子にそう声を掛けました。
「うん」
その返事を聞いて喫茶店に向かいました。
扉を開けて中に入ると記憶のままのお店でした。入ってすぐの両脇のテーブルにはお客さんがいました。
「いらっしゃい、こっちどうぞ」
と、カウンターから声が掛かる。これも一緒。でも、うん? 記憶と違うかも。右側の壁沿いにも二人掛けのテーブル席が二つ並んでいる。これはなかったような気がします。でも、声を掛けてくれたママさんの声と顔は記憶通り。やっぱりあの時のお店だ。
記憶にはなかったカウンター前の二人掛けの席につきました。カウンターの席ではカウンターが高くて恵子が食べれそうになかったから。座ってから、ママさんにどう声を掛けようか、どうお礼を言おうか考えていたら、
「いらっしゃい」
と、お水とおしぼりをママさんが持って来てくれました。恵子がすぐに手を伸ばしてお水のコップを取ろうとします。なので慌てて手助け。でも恵子はお水をスモッグに垂らしてしまいます。しまった、食べて帰るつもりなんてなかったから恵子の前掛け持って来てない。新品のスモッグを早速汚しちゃいそう。幼稚園でもらった荷物の中に前掛けが入っているなんて頭にありませんでした。すると、
「あらあら、ちょっと待っててね」
と、ママさんが奥に行きます。そして戻ってくると、腰から下用のエプロンを持っていました。
「この子ならこれで前全部隠せるかな」
ママさんがそう言います。私は席を立って、
「すみません、いいんですか?」
と、差し出されたエプロンを受け取りながら聞きます。
「もちろん、それならいくら汚してくれてもいいから」
「ほんとにすみません」
「せっかくきれいなお洋服着てるのに、汚したら嫌だもんね」
と、ママさんは恵子に話し掛けます。恵子は緊張しているのか返事をしない。でも首からエプロンを下げてやると、それは気に入ったようでエプロンの裾をひらひらさせます。
「ひょっとして今日から?」
ママさんが私にそう聞きます。
「はい、入園式だったんです」
「そう、じゃあ、もう五歳だ」
ママさんはまた恵子に話しかけます。すると今度は恵子が応えました。ブン、ブン、と首を振ってから、
「四歳」
と一言、右手を広げて見せながら。でも、親指がちゃんと曲がってないからそれだと五歳だよ。
「そっか、まだ四歳か。ごめんね、お名前教えてくれる?」
「かとりけいこ」
俯き加減で応える恵子。人見知りする子じゃないんだけど、なんでか緊張してるみたい。
「そっか、ケイコちゃんか。よろしくね」
頷く恵子。でも私の手を握ってきました。変な子。
「さあ、ケイちゃん、何食べる?」
私は恵子の横にしゃがみながら、カウンター奥の壁に貼られたメニューに目をやりました。そしてメニューを恵子に読み上げようとしたら、先に恵子がこう言います、入り口横の男性のお客さんを指さして。
「あれ、スパゲティ」
「こら、人を指さしたらダメって言ったでしょ」
と恵子に言いながら、恵子が指した人を見るとナポリタンを食べていました。うわ、思いっきりケチャップだ。汚していいとは言ってくれたけど、これはほんとに盛大に汚しちゃうぞ。と思っていたら、
「ケイコちゃんはナポリタンね。お母さんは?」
と、ママさん。
「私は、……コーヒーとトーストで」
「それでいいの?」
「はい、多分この子、全部食べれないんで、残ったの食べますから」
「なるほど、さすがお母さんね。ちょっと待っててね」
「ケーちゃんはジュース」
ママさんが傍を離れると恵子がそう言い出す。ケー、と言っているように聞いているけど、実際はちょっと発音が悪くて、エー、と言っているように聞こえます。
「ジュースがいい? アイスクリームもあるみたいよ」
私は向かい合った位置から恵子の横にイスを移動させながらそう言いました。
「ああ、ウエアーがいい」
ウエアーじゃないでしょ、と、私が言い直す。
「ウエハース」
どこかで一度食べたアイスクリームについていたウエハースが恵子はお気に入り。
「ウエハー」
と言う恵子に続いて、
「ス」
と、私が言う。すると、
「スーー」
と、両手を上げて恵子が繰り返す。なんだかご機嫌な様子に私も嬉しくなる、ちょっと恥ずかしいけど。
恵子とおしゃべりしながら待っていると、
「うちは鉄板なんだけど、それだとケイコちゃんには危ないかもしれないからお皿にさせてもらったわよ」
と、ママさんがお皿に載ったナポリタンを持って来てくれました。上に載っている目玉焼きを見て恵子の機嫌が更によくなる。
「すみません、ありがとうございます」
恵子は早速フォークを手に取って目玉焼きに突き刺している。切らないとお口に入らないでしょ、と言う私の思いに関係なく、恵子は目玉焼きを頬張ろうとする。案の定、恵子の口には白身の一部が入っただけ、大半は恵子の口元に添えた私の手の上に落ちてきました。熱い、慌ててスパゲッティーの上に戻しました。
ママさんが私のトーストやコーヒーを持って来てくれたけど、私は恵子の口元で食べこぼしのキャッチに専念。トーストではなく、掌に落ちて来るスパゲッティーやピーマンを食べていました。その恵子は、
「パンも食べる」
と、私のトーストにも目をつける。一口サイズにちぎってやりました。
なんだか今日の恵子は食欲旺盛。スパゲッティーもトーストも半分くらい食べちゃいました。そして、
「もういい」
と言ったのを聞いて私は小さくため息、ベタベタの手で残りを食べ始めました。すると、
「ウエアー」
と、恵子が言い出します。もう忘れていると思ったのに覚えてたか。
「まだ食べれるの? ポンポン大丈夫?」
「食べる」
ダメだ、食べる気満々だ。しょうがないのでアイスクリームも頼みました。
白いおしぼり、厚手の物なので多分業者の物ではなく、このお店で用意しているもの。ケチャップで汚すと落ちないので申し訳ない。業者の貸しおしぼりなら気にしないけど。なのでバッグに入れていたタオルのハンカチで恵子の顔や手を拭きました。拭き終わった頃アイスクリームが出てきました。すると小さな事件が起こりました。
「ウエアーない」
そう言って不満気な泣きそうな顔をする恵子。このお店のアイスクリームにはサクランボが載っていたけど、ウエハースはついていませんでした。
「サクランボがあるからいいでしょ。好きでしょ、サクランボ」
「ウエアーがいいの」
そう言って手を付けようとしない恵子、スプーンはもう握っているけど。ウエハースだけでアイスクリームいらなかった?
「ウエアー?」
傍で聞いていたママさんが私に聞いてきます。
「すみません、ウエハースのことです」
「ああ、うちは置いてないなあ。ごめんね」
「いえいえ、ほら、恵子、アイスクリーム溶けちゃうよ」
申し訳なさ気なママさんに頭を下げて恵子にそう言うけど、
「イヤ、ウエアーないからイヤ」
と、怒った顔をします。もう、どうしよう。と思った私は残ったトーストを見て思いつきました。トーストの耳をちぎって恵子に見せます。
「ほら、これ、ウエハースとおんなじよ」
横目で私の手元を見て、
「ちがう」
と、恵子。
「そう?」
私はそう言いながらパンの耳にアイスクリームをつけて自分の口に。
「うん、おいしい」
そしてそう言うと、恵子が私の手からパンの耳を取ります。そして私がしたのと同じようにしてアイスクリームを食べる。
「どう? おいしいでしょ」
「うん」
笑顔に戻って頷く恵子。はあ、良かった。
私が残りのパンの耳をちぎっていると、
「ねえ、違ってたらごめんなさい。あなた、前に会ったことない? なんか私、覚えがあるのよね」
と、ママさんが私に言います。すごい、一回来ただけなのに、それもずいぶん前に、覚えてくれてたんだ。
「すみません、お店に入った時にすぐに言おうと思ってたんですけど。昔、その、雨宿りさせて頂きました」
「雨宿り?」
首を傾げるママさん。さすがにそこまでは覚えてなかったかな。
「はい。え~っと、もう八年くらい前です。急に雨が降って来た時に雨宿りしようと思って入ったら、いろいろご馳走して頂いて。その、あの時はありがとうございました」
記憶をたどっている顔のママさん。やがて、
「ああ、仕事探してるとかって家出の子?」
と、私の反応を窺うように聞いてきます。家出ではないんだけど。
「そうです」
「そうか、そうなの。ええっ? で、もうお母さんになってるんだ」
「はい」
「そうか~、良かった。ちゃんといいようになったのね」
「はい」
いいようにって言うのがどういうことか分かんないけど。
「いえね、高校生くらいだったわよね、あなた」
「はい」
「そんな子があてもなく仕事探したって、って思ってたの。変なところに引っ掛かって、ひどい目に合わないかなって。だからあなたが出て行ってから、行かせるべきじゃなかったかなって思ってたの」
変なとこには行っちゃったし、普通の人からしたらひどい目にもあったけど。
「でもちゃんとお母さんになって、良かった」
「ありがとうございます」
「ううん、そっか~、ええっ? もう八年も経つの? そうよね、あなたの子供がこんなに大きいんだもんね」
そう言われて、脇目もふらずにアイスクリームを食べている恵子を見ました。ママさんの目が潤んできたから見ていられなくて。
その後お昼のお客さんが入って来始めてお店は忙しくなりそうでした。私は残りをさっさと食べて席を立ちます。お勘定をしてお店を出るとき、
「また来てね」
と、ママさんに言われ、
「はい、この子とまた」
と、答えました。
私が一番心細く悩んでいた時に優しくしてくれたママさんと再会した。そんないい気分で寝ていたその日の深夜、ガタガタと言う音で目が覚めました。居間への襖を開けると、台所の電気だけついた状態でマサさんがソファーにいました。瓶ビールをラッパ飲みしています。最近はよくこんな姿を見ます。
「おかえりなさい」
と、声を掛けながら時計を見ると三時過ぎ。マサさんは返事をせずにタバコに火をつけます。機嫌が悪そう。
高速道路の仕事を外された後、マサさんは他の仕事で見返そうとしていました。でもうまくいかなかった様子。何をしていたのかは分からないけれど、まともな仕事ではないのは確か。まあ、そう言う会社だからしょうがないんだけど。でも、去年の夏に本当に悪い仕事をしていたみたい。そして失敗したみたい。捕まりはしなかったけれど警察には連れていかれたから。そしてマサさんは会社から追い出されました。追い出されて弟分の会社に移りました。前の会社よりもっとガラの悪い会社。
そこは那古野の繁華街の一角を仕切っている会社。ほんの一角を仕切っているだけの弱小勢力。あがり、とマサさんが言う儲けはそんなに無いようで、マサさんの収入も激減。家賃や光熱費は払ってくれているみたいだけど、うちにはお金を入れてくれないことが多くなりました。なので生活費は私の預金から出すようになりました。両親が残してくれた物に叔母さんが足してくれていた預金。そこに私がお店に勤めていた時のお金も足してある。沢山あるけどいつまでもは続かない。お店勤めしていた時のお金と言えば積立金、かなりあったはずだけど行方不明。マサさんが受け取ったはずだけど、私の手元には来ていないから。
そっと台所の方に行って、
「何か食べます?」
と、声を掛けました。
「いらん」
はあ、どうしよう。
しばらく無言の時間が続いた後、マサさんが口を開きます。
「恵子、どうだった?」
入園式だったことは覚えてるみたい。
「はしゃいでました」
「そうか」
「同い年の子があんなにいっぱいいるなんて、恵子には初めてのことだったから」
「そうか」
「お父さんも来たらよかったのに」
「……そうだな」
そしてまた沈黙。
マサさんがタバコを消しながらまた口を開きます。
「幼稚園は金が要るんだろ」
「はい」
「大丈夫なのか?」
「……いえ、苦しいです」
私に預金があることはマサさんに言ってません。なのでマサさんは、これまで自分が私に渡したお金が残っていると思っているはず。実際そのお金を使っていましたがもう残っていません。
「そうか」
まさか今更幼稚園行かすのやめるとか言い出さないよね、と、少し心配になりました。すると、
「上着取ってくれ」
と、マサさんが言います。マサさんの上着は台所のテーブルのイスに掛かっていました。それを持ってマサさんの所へ行きます。マサさんは上着を受け取ると内ポケットから札入れを取り出します。札入れの中にはお金が沢山。そんなに持ってるの? と思っていたら、
「これでしばらく何とかしてくれ」
と、一万円札を何枚か取り出して差し出してきます。受け取って数えると五枚ありました。
「いいんですか?」
「ああ、ただ、次はいつ渡せるか分からんからな」
「分かりました。ありがとうございます」
そう言ってお札を二つに折っていたら、
「それでどのくらいもつ?」
と、マサさんが聞いてきます。
「食費だけなら二か月か三か月は」
「そんなにか? 幼稚園、いくらなんだ」
幼稚園のお金は散々話したじゃない、覚えてないの? と思いながら、
「幼稚園は半年払いだから九月までは大丈夫ですよ」
と答えました。
「そうか、九月か」
マサさんはそう言うと、札入れを上着に戻して上着を私に差し出します。私がそれを受け取ると、そのままソファーに寝転びます。そして眠ってしまいました。
小学校よりは短いけれど、恵子の通う幼稚園も八月の一か月間は夏休み。その夏休みに入って数日経ちました。朝の家事を終えてから、居間で恵子のお絵かきに付き合っていたら呼び鈴が鳴りました。
続けて何度も鳴る呼び鈴。そしてドアを叩く、ドンドンドン、と言う音。私は何か嫌な予感がして恵子を寝室へ。そして、
「静かにしてるのよ」
と、何かを感じ取って怯えた顔をしている恵子に言って襖を閉めました。
玄関へ行くと、
「おい、誰かいるだろ、出て来い」
と言う声と共に、ドンドン、とドアが叩かれています。
「はい、どちら様ですか?」
扉越しにそう言いました。
「どちら様? おめえこそ誰だ」
怖い、正直、怖い。マサさんの関係者だよね、でも、絶対仲間じゃないよね、なんて考えていたら、
「とにかく開けろ、ぶっ壊すぞ」
と、聞こえてくる。そしてドアノブがガチャガチャ回されます。
「わ、分かりました、開けますから待って」
ほんとに壊されそう、しょうがないです。
鍵を開けた時、チェーンを、と思ったけど手遅れでした。すぐにノブが回って、勢いよく玄関が開きます。
「おめえ誰だ?」
玄関を開けた男性がそう言います。私と同じくらいの若い人。
「そちらこそ誰ですか?」
怯えながらもそう言いました。でも、
「どけ、中見せろ」
と、その人は私を押しのけて玄関を入ろうとします。でも中には恵子がいる、こんなわけのわからないままこの人を入れるわけにはいかない。
「待って、何なんですか一体」
私はそう言いながら力いっぱいその人を押し戻しました。そして玄関の外に踏み出してドアノブに手を掛けました、当然閉めるつもりで。でもその時もう一人いるのに気付きました。二人もいるなんて、と、その人を見ると、知っている人でした。
その人の顔を見てなんだか力が抜けました。理由もなく、大丈夫、と思ってました。その人は前の部屋に何度か来たことのある人。マサさんが、兄貴、と呼んで親しくしていた人。
「寺嶋さん。ご、ご無沙汰してます」
そう言って頭を下げました。いえ、厳密には頭は下げれませんでした、押し戻した男性に胸倉を掴まれていたから。寺嶋さんは一瞬だけ怖い顔で私を睨みました。でもすぐに、意外なことに表情を崩して、
「そうか、お前をここに入れてたんだった」
と、言います。
「知り合いっすか?」
若い男性が寺嶋さんにそう聞きます。
「おい、手ぇ離せ、そいつ、俺のこれだ」
寺嶋さんはそう言って小指を立てます。
「えっ、すんません」
若い男性はすぐに手を離すと少し下がります。
「思い出した、こいつ入れるのに、マサにここ用意させたんだった。忘れてた」
寺嶋さんはそう言います。私は何のことか全くわからないので何も言えず聞いているだけ。
「ほ、ほんとですか?」
若い男性が寺嶋さんにそう聞きます。
「ああ? お前もういい、車で待ってろ。おい、マリ、コーヒーでも飲ませてくれ」
寺嶋さんは若い男性の肩を掴んで下がらせながら、そう言って玄関に向かってきます。私は下がって玄関に入りました。すると寺嶋さんも入って来ます。
玄関が閉まると、
「悪い、何もしないからちょっとだけ邪魔さしてくれ」
と、寺嶋さんが小声で言います。
「は、はい、どうぞ」
そう言って上がってもらうしかありませんでした。
台所まで来ると寺嶋さんが、
「悪かったな、俺の女だ、みたいなこと言って」
と、テーブルの椅子に座ります。
「いえ」
一安心してそう返しましたが、何をしに来たのか分からないのでまだ安心しきれていませんでした。
座ったまま部屋を見回している寺嶋さん。
「あの、インスタントでいいですか?」
黙っているのが怖くてそう聞きました。
「ん?」
「その、コーヒー」
「ああ、言っただけだ、構わんでいい」
「じゃあ、麦茶でも」
私はそう言って、もう冷蔵庫を開けていました。そして麦茶を注いだコップを寺嶋さんの前に置きました。
「子供がいるのか?」
ソファーの前のテーブルに置きっぱなしだった、恵子のお絵かき道具を見てそう聞いてきます。
「はい」
「マサの子か?」
「はい」
寺嶋さんはもう一度部屋を見回すとタバコを取り出しました。
「いいか?」
そしてそう聞いてきます。
「はい、どうぞ」
私はそう答えて灰皿を寺嶋さんの前に出しました。
一息目の煙を吐き出してから寺嶋さんがまた聞いてきます。
「マサもここに住んでるのか?」
「はい」
「そうか」
そして沈黙。しばらく経っても寺嶋さんはタバコを吸っているだけで何も言いません。なので私の方が口を開きました。
「あの」
でも、それ以上言葉が出ませんでした。何を聞いたら、何を話せばいいのか、何も分からなかったから。すると寺嶋さんが話し始めてくれました。
「香田さん覚えてるか?」
「はい、パープルのマネージャーですよね」
「もう、だった、だけどな」
「えっ?」
「香田さん、うちの関係の別のとこに行ったんだよ」
「そうなんですか」
「ああ、それで香田さんのなんだかんだを整理してたら、マサ絡みでこの部屋の契約やら支払いが出て来た」
「……」
この部屋、会社のお金で借りてたの?
「で、ここがどういう部屋で誰が使ってるのかを調べに来たんだ」
「……そうだったんですか」
ここから追い出される、そう思いました。マサさんはもうその会社の人じゃない。今までマネージャーが隠してくれてたみたいだけど、バレた以上もうダメだ。そんな風に考えていたら寺嶋さんがまた口を開きます。
「マサはどうしてる?」
「えっ?」
「稼げてんのか?」
「いえ、あんまり、……みたいです」
「だろうな」
私は動けず寺嶋さんを見ていました。寺嶋さんは煙を吐き出しながらこう言います。
「あいつが今いるとこには、あいつの言うこと聞く奴なんていないだろうからな。何やってもうまくいかんわな」
「えっ?」
「あいつが今いるとこ、もともとは敵だったとこなんだ。うちが無理矢理吸収して今は傘下ってことになってるが、向こうにはそれが面白くない奴ばっかりだ」
「……」
マサさんそんな所にいるんだ。敵ばっかりの所にいるんだ。
「可哀そうだが、そんなとこじゃ稼げんわな」
「……」
「俺にもう少し力があれば戻してやれるんだけど、悪いな」
「いえ」
そうとしか言えませんでした。
寺嶋さんがタバコを消した少しの沈黙の後、居間と寝室の間の襖が開きました。恵子、出て来ないで、と思っても遅かったです。二、三歩近付いて来て恵子がこう言います。
「おしっこ」
しょうがない。
「はいはい、トイレ行きなさい」
「うん」
「一人で出来る?」
「うん」
恵子はペタペタと小走りでトイレに向かいました。
「かわいいな、いくつだ?」
恵子を見送って寺嶋さんがそう言います。
「今年五歳です」
「そうか、一番かわいい時だな」
「寺嶋さん、お子さんいるんですか?」
思わず聞いちゃいました。
「ああ、もう何年も会ってないけどな」
何年も会ってない、なんで? と思いながらもこう言ってました。
「ご結婚されてたんですね」
「いや、籍は入れてない」
「……」
「入れてないと言うか、入るのを拒否された」
「えっ?」
「堅気として育てたいって言われてよ、ダメだとは言えなかった」
「それじゃあ奥さんと言うか、その女性は一人で育てられてるんですか?」
「まあな、小学校に入った頃から俺は金だけ出してる」
「そうですか」
そこで恵子が戻ってきました。戻って来て私の足に抱きつきます。
「カルピス欲しい」
そしてそう言いました。
「その前に、お客様が来てるんだからご挨拶しなさい。この方はお父さんの上司よ」
上司と言っても分からないだろな、と思ったら案の定、
「じょうし?」
と、聞き返してきます。すると、
「お父さんの友達だよ」
と、マサさんと同じくらい怖い顔の寺嶋さんが、笑顔で恵子にそう言います。
「お父さんのおともだち?」
「そうだよ」
恵子が寺嶋さんに近付こうとしました。私はそれを、恵子の肩を持って止めましたが、口は止めれませんでした。
「おしごとの?」
「ああ、一緒にお仕事してる」
寺嶋さんは笑顔のまま答えてくれているけどこれ以上はダメ。
「恵子、大切なお話してるからもう一度お部屋に行ってて」
そして恵子を寝室に連れて行こうとしました。すると寺嶋さんが立ち上がってこう言います。
「いや、もういいよ、俺は帰るから」
「でも」
「いやいや、もういい」
まだ話はこれから、この部屋にいつまでいられるか聞かなきゃ。それが一番大事な話。私はそう思っていました。でもそのあと、思いも掛けなかったことを寺嶋さんが言ってくれました。
「ここは俺が香田さんの後を引き継ぐから心配するな」
「えっ?」
「大丈夫だ、心配するな」
「そんな……」
「さっき若いのにああ言っちまったから、俺ももう引っ込めれんしな」
「あ、ありがとうございます」
まだほんとに信じていいのか半信半疑でした。でも嬉しかったです。
「ああ、マサにはこのこと言うなよ、俺が来たことも」
「でも」
「言うな、知ったらあいつはまた色々いらんこと考えるだろうから」
「……」
「まあ、香田さんがいなくなったのを知ったら焦るだろうから、そのうち俺の方から話しておく」
「す、すみません。ありがとうございます」
「ああ、じゃあな」
そう言って玄関に向かう寺嶋さんの後をついて行きました。靴を履いた寺嶋さんが私を振り返ります。でもその目線は下に。
「ケイコちゃんだったかな、元気でな」
そして身を屈めてそう言いました。恵子が後ろからついて来てました。
「うん、おじちゃんバイバイ」
恵子がそう返して手を振っています。
「バイバイ」
寺嶋さんも恵子に手を振ってからドアを開けました。
「ありがとうございました」
私は出て行く寺嶋さんに頭を下げました。
両親や叔母さんが貯めてくれていた預金額を初めて見た時、そのとんでもない金額に驚きました。でもそれは八年も前のこと。この八年で物の値段は倍以上、いえ、三倍以上にはなっているかも。その分お給料もどんどん増えているから、世の中的には問題ないんだろうけど、預金額は増えてくれない。
マサさんがたまにくれるお金では生活費に足りません。マサさんが辛いところで仕事をしていると知ったので無理は言えない。でも、頼みの預金額が減っていくと心細くなります。そんな気分で幼稚園の後期分の費用を引き出した後の通帳を見ていました。まだたくさんあるけれど、ため息が出てしまいます。だって、お店勤めを辞めてからは減っていくだけの残高だから。
そんな思いが顔に出ていたのでしょう、恵子とお昼を食べていた喫茶すみれでママさんから、
「どうしたの? この前から顔色悪いわよ」
と、言われてしまいました。
恵子の幼稚園は水曜日と土曜日はお昼まで。それ以外の日は三時まででお昼は給食が出ます。恵子は喫茶すみれがすっかり気に入って、お昼で帰る時はいつも食べて帰ろうと言い出します。土曜日は喫茶すみれがお休み、なので水曜日のお昼はほとんど寄ることに。外食はお財布に厳しいんだけど、そんなに物をねだってくることのない恵子のおねだりだからしょうがない。そして今日は九月最後の水曜日でした。
「そうですか?」
「うん、なんか悩みがある?」
「まあ、悩みはいろいろと……」
そう言って隣の恵子を見ると、丼に顔を埋めるようにして牛丼を食べています。スプーンで食べやすいように、ママさんが具を細かく切ってくれているのでご機嫌で食べている。
「いろいろ?」
「まあ、一番は主人の収入が少ないことですかね」
言ってから、何でこんなことを、と思ってしまいました。ほんとにお金の不安が頭にこべりついてるみたい。
「なに、ご主人のお給料減ったの?」
「まあ、そんな感じです」
ダメだ、もうこの話はやめよう。次から次と愚痴が出てしまいそう。と思う必要もなく、ママさんはカウンターの中のレジの方へ、帰っていくお客さんがいたから。
この辺りには小さな会社なんかが結構あるのに、食事出来るお店がそんなにありません。少し南の新栄の方に行けばそれなりにお店はあるけれど、そこまで行くのは、って人がこのお店に来ます。お店にはママさん一人、なのでお昼時はいつも大忙しです。
トーストを食べ終えた私は、恵子が牛丼を残すのを待っていました。やがて顔を上げた恵子がスプーンから手を離します。
「もうお腹いっぱい?」
「うん、おいしかった」
恵子はそう言っておしぼりで口の周りを拭きます。まあ、顔全体を拭いてる感じだけど。私は恵子の前の丼を取ります。三口分くらい残っているけど見事にご飯だけ。お味噌汁とお漬物は恵子が食べてしまっている。お汁が染みてるからいっか。残りのご飯を食べました。
食べ終えて、
「もういい?」
と、恵子に聞きます。
「うん」
「じゃあ帰ろうか」
「うん」
素直に返事すると席を立って、自分の荷物を持とうとする恵子。最初このお店に来た次の時、恵子が行こうと言い出したので、アイスクリーム目当てだな、と思ったけど、アイスクリームとは言い出さずに食事だけでした。どうやらこっちからアイスクリームと言わない限り、食べたいとは言わない様子。気を遣ってる、ってことはないよね。
丁度の金額を用意してレジの所へ。
「ここに置きますね、お釣りないですから」
焼きそばを作っているママさんに声を掛けました。
「ありがと」
ママさんが振り返ってそう言います。
「じゃあ、ごちそうさまでした」
「はーい、またね」
そのママさんの声を聞いて、恵子と戸口へ向かいました。すると、
「そうだ、ちょっと待って」
と、ママさんの声。振り返るとママさんがフライパンを持ったままレジの方に来ます。私もレジの方へ戻ります。
「さっきの話だけど、うちでアルバイトしない? お昼だけでもいいから」
「えっ?」
「まあ、急な話だから今はいいけど考えといて」
ママさんはそれだけ言うとガスレンジの方に戻って行きました。
翌週の月曜日、恵子を幼稚園に送ってから喫茶すみれに寄りました、アルバイトの話をするために。恵子が幼稚園に行ってる間、アルバイトしてもいいかとマサさんに聞いたら了解してくれたので。
アルバイトさせてくれますか? と聞いたら、ママさんは大歓迎と言ってくれました。それで決定。朝、恵子を送って行ったあと、恵子が戻ってくるまでと言うことになりました。まあ、水曜日はお昼の忙しい時間が終わるまでだけど。幼稚園から喫茶すみれまではほんのすぐだし、路地を一つ渡るだけ。ここまでなら恵子も一人で帰って来れる。なのでそう言うことになりました。
その翌日、アルバイトの初日。お昼の忙しさが過ぎ去ったカウンターで、ママとお昼を食べていました。賄いってことなので当然タダ、助かります。その日は豚丼でした。生姜焼き用のお肉を使わないともう限界、と言うことでそれを焼いてご飯に載せた物。おいしかったです。そして食後、従業員用? って感じの小さなカップでコーヒーを飲んでいました。
「恵子、ここまで来れるかな」
独り言のように口から出てました。
「大丈夫よ、すぐそこ、見えてるくらいのところなんだから」
「そうですよね」
恵子と同い年で近所にいる洋一君と清美ちゃんは、送迎バスのある私立の幼稚園に行きました。でも恵子の通う幼稚園はそんなのありません。そして送り迎えできる親御さんばかりでもない。なので一人で通っている子だっています。私が心配し過ぎてるだけだよね。
それでも三時が近付くと落ち着かなくなった私。迎えに行って来たら? と、ママに言われて店を出ました。そして喫茶すみれとは反対方向に行き過ぎたところで、恵子が出てくるのを待ちました。
迎えに来たお母さん達がいっぱいいる園の門まで、いつも通り保母さんに誘導されて子供たちが出てきます。沢山の子供がお母さんと帰っていく。でも一人で園から離れて行く子も結構います。そして恵子も出て来て一人で歩き始める。私は離れてついて行きました。園の門のところで怪訝な顔をしながら私を見る保母さん。一人で帰れるか練習です、と、言い訳のように言って通り過ぎました。
一つだけ渡らないといけない路地。小さな車くらいしか通れないほんとに細い道。その車もほとんど通らない、怖いのは自転車くらいだけど心配。えらい、ちゃんと立ち止まって左右を見てから渡ってる。そして右に曲がらないといけない角、ちゃんと右に行った、もうお店は目の前。お店に辿り着くと、ちょっと扉が重そうだけどちゃんと開けてる。
「ただいま」
と、恵子の声。そこで、ただいま、って言うの? と思いながらも、ちゃんと言った通りすみれまで来た恵子をなんだか誇りに思う。走って追いついて、
「おかえり」
と、後ろから声を掛けました。その声はカウンターから、おかえり、と言ったママと被っちゃったので、恵子は前後に首を巡らしながら変な顔をしている。ほんとにかわいい子。
「一人で来れたね、えらいえらい」
思わず抱きついちゃいました。
喫茶すみれの常連客の何人かは恵子を可愛がってくれます。恵子にお菓子を持って来てくれる人もいるくらい。そんなお客さんに甘えて、だんだん傍若無人な振る舞いになっていく恵子。そんな恵子を注意しながらもアルバイト生活は順調でした。ママを筆頭におおらかな人達に囲まれて本当に幸せです。お給料もそれなりに頂けて生活費の足しになっています。でも、足らない分は少しずつ預金を減らしていくしかありません。マサさんの収入が増えてくれないと根本的には解決しません。
そのマサさんからはほとんど笑顔が見られなくなりました。恵子には見せるけれど私には見せません。そんな辛いところで働かせて申し訳ない感じです。なのでマサさんに喜んでもらおうと、十二月二度目の日曜日の夜、奮発しました。
恵子の誕生日は十二月十四日。マサさんの誕生日は十二月一日です。なので十二日の日曜日に二人の誕生日会を、と考えました。マサさんに恵子を任せて一人で買い物へ。二人に気付かれないようにケーキも買って帰りました。そして夕食作り。
我が家の普段の食卓は質素なものです。贅沢なんてしていられない。考えるのは恵子の好みと栄養だけ。でも今夜は別。恵子の好きなものばかりになってしまうけど、ハンバーグにミートソースのスパゲッティー、そして鶏の唐揚げとポテトサラダ。それを恵子の分だけではなく、三人分作りました。
「なんだ? えらい豪華だな」
マサさんがそう言いながら機嫌よくビールを口にする、良かった。
「明後日、恵子の誕生日だから。それに、もう過ぎちゃったけどお父さんの誕生日のお祝いも一緒に」
「俺の?」
「はい、今までお祝いしたことないけどいいじゃないですか」
「いいよ俺は」
とマサさんは言うけど、
「お父さん、おめでとう」
と恵子に言われて笑顔を見せます。そして、好きなものばかりの食卓に興奮した恵子を中心に、楽しい夕食になりました。
ケーキを食べ終えるとはしゃぎ過ぎたのか、恵子はすぐにお眠に。半分寝かかっている恵子に歯を磨かせて寝かせました。そして後片付けをしていたら、ソファーでテレビを観ていたマサさんが台所のテーブルに戻ってきました。
「お前、こんな金あったのか」
そしてそう言います。
「まあ、今日は……」
今日はそんなこと聞いてこないでよ。
「バイトでそんなにもらえるのか?」
でもマサさんはそう聞いてきます。
「そんなわけないじゃないですか」
もうこの話止めよう、今日は。という思いで、マサさんに背を向けて洗い物を続けながら答えました。
「幼稚園の金、九月だったよな。あれどうしたんだ」
でもマサさんは続けます。
「……」
「お前が何も言わないから放ってたけど、どうしたんだ」
お金の話、するしかないのかな。と言うか、言ったらくれたの?
「どうしたって、恵子、幼稚園行ってるんだから払ったに決まってるじゃないですか」
「ああ? だから、どこにそんな金があったんだって聞いてるんだろ」
「……」
「おい」
「貯金です。貯金使ったんです」
言いたくなかった。
「お前貯金あったのか」
「お店で働いてた時の」
「はあ? そんなのあって黙ってたのか」
「……」
「あといくらあるんだ」
「もうないですよ」
「……通帳見せろ」
どうしよう。
「通帳って、銀行口座なんて持ってないですよ」
咄嗟に思い付いてそう言ったけどこれは嘘じゃない。
「なんだあ、現金で持ってたのか」
「そうです」
「で、あといくらあるんだ」
「だからもうほとんどないですってば」
「いくらあるんだ」
「……一万円くらい」
そのくらいの金額が財布とは別に水屋の引き出しに入っている。なのでそう言いました。
「そっか」
それを取り上げられる、と思っていたけど、マサさんはそう言うとソファーに戻りました。そしてまたテレビを観ながらこう言ってきました。
「こんな無駄な金、もう使うなよ」
何が無駄なのよ。ほんとに、何が無駄なのよ。恵子の誕生祝いなのよ、恵子、あんなに喜んでたじゃない。無駄なわけないじゃない。それに、マサさんにも笑顔になってもらいたかったのに、何で今日こんな話するのよ。
そう言う私の思いは理解出来ないようで、マサさんは独り言のようにこう続けました。
「全く、こんなことに金使いやがって」
その言葉を無視すればよかったのに、いつものように聞き流していればよかったのに、言い返してしまいました。
「そう言うなら生活費くらい入れてください」
マサさんが立ち上がりました。そしてスタスタと私の前に来ます。
バチン!
左の頬に痛みが走りました。初めてマサさんに叩かれました。
「稼いだら使い切れねえくらい入れてやるよ」
そんなセリフ、稼いでから言ってよ、とは思っただけで口から出ませんでした。出たのは、
「すみません」
の言葉と、涙でした。
俯いた私から雫が床に落ちるのを見て、
「悪かった」
と、マサさん。そしてソファーに戻って行きました。
悪かった、とは言ってくれるんだ。でも、言葉だけじゃなく、そのままほんの少しの間だけでも抱きしめてくれたら。もうずいぶんマサさんに触れていないような気がする。
昭和五十二年
年が変わり三月になりました。十日までに恵子の幼稚園の、年長組前期分の費用を納めないといけません。マサさんは年末、一月末と、二度お金を入れてくれました。でも、生活費には及ばない金額。アルバイト代を足して何とか預金に手をつけずに済んでいますが、昨日の二月末はお金をくれませんでした。
一週間ほど前に、幼稚園のお金、いつまでにいくら必要かは伝えました。でも、それももらっていません。また預金を使うしかないかな。そしたらまた、そんな金どこにあった、と言われるだろうな。もう、ほんとにどうしよう。
マサさんにそう言われないために、もう一度幼稚園のお金の話をするしかない。機嫌が悪くなるだろうけど、そうするしかない。そう決めて眠りにつきました。でも、マサさんは帰ってきませんでした。そして次の日も。着替えには帰ってきているけど、私や恵子のいない時間でした。そしてマサさんに会えないまま金曜日に。週が明けた月曜日はもう三月七日。月曜日に郵便局に行ってお金をおろそう、そして納めよう。お金の出所の言い訳は、サキちゃんに相談して、貸してもらったことにしようかな。そんなことを考えながら金曜日も眠りにつきました。
その深夜、物音で目が覚めました。そっと寝室を出て居間へ。マサさんが台所にいました。テーブルのイスに座ってタバコを吸っています。
「おかえりなさい」
そう言って台所へ。
ビール出します? と聞こうとしてやめました。すでにだいぶ酔っぱらっているみたい。
「何か飲みますか?」
代わりにそう聞きました。
「いらん」
と、一言。でもその後、上着の内ポケットに手を入れると封筒を取り出し、おら、と、テーブルに置きました。その封筒を手に取って中を確認。幼稚園に納めるお金を引いても、一か月分の生活費以上残る金額がありました。
「あ、ありがとうございます」
「それで足りるだろ」
「はい。でも、こんなにいいんですか?」
マサさんは短くなったタバコを消して、次のに火をつけます。そして、
「あれだ、何だった? サルの人形だったか? 欲しいって言ってただろ、買ってやれ」
そう言いました。一、二年前から流行っている、指をしゃぶる愛らしいサルのぬいぐるみ、恵子が欲しがっていた。でも恵子はお父さんには言ってなかったはず。ちゃんと聞いてて覚えてたんだ。
「はい、ありがとうございます」
なんだかとっても嬉しい。マサさんも恵子が喜ぶことはちゃんと考えてる、そう思っただけで笑顔になっていました。
「ちょっと風呂見て来てくれ、火をつけてある」
マサさんがそう言います。
「はい」
返事して見に行きました。
「まだぬるいです。もうちょっとですね」
「そうか」
そして、私が目の前に座ったのを見てこう言います。
「ん? もういいぞ、寝ろ」
「いえ、いいですよ」
「ああ? 明日もサ店だろ、さっさと寝ろ」
「いいえ、明日はお店お休みだからうちにいますよ」
「……そうか、土曜か」
「はい」
マサさんはそれ以上何も言いませんでした。
お風呂を出たらマサさんはビールを飲むでしょう。そしたら何か作ってあげよう。そう思って私は座っていました。すると、沈黙にマサさんが耐えられなくなった様子。やがてこう言いました。
「もうしばらく我慢してくれ」
でも何のことか分かりません。
「えっ?」
「四月になったら紘一が俺んとこ来る。そしたらもう少し何とかなるからよ」
「そうなんですか?」
「ああ、兄貴、寺嶋さん覚えてるか?」
「はい」
「兄貴がよ、紘一を俺の下にまわしてくれるんだ」
「そうなんですね」
「ああ。まったく、兄貴には助けられてばっかだ。ますます頭が上がらなくなっちまった」
「……」
ほんとに寺嶋さんには助けられてばっかりみたい。
「おい、まあ会うことはないと思うけどよ、今度兄貴に会ったらお前も礼、言っといてくれよ」
「分かりました」
なんだかいろんな心配事がなくなっていく気がしました。
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