(7)
ガサガサ何やら音が聞こえて近づいてくる。奥から筋肉隆々の背の高い強面のおじさんが顔を覗かせた。ひげを生やしていて髪の毛が無いのが印象的で、一言で言えば怖い。ロッソは頭を掻くと「どうした、お前らが来るなんて珍しいな」と言うと、じろじろ僕らを見回した。常連な感じがしていたアイル達だが、あまり来ないのか。アイルはロッソを見つめて「武器防具を一新したい、出来るか?」と聞いた。ロッソは片方の眉毛を釣り上げて訝しそうに「何をする?戦争でもするのか?」と聞いてきた。アイルは直ぐに首を横に振って「違う、統一ダンジョンだ」とロッソに言った。ロッソは僕をじろじろ見ると「新入りが居るのにか?」とアイルに問いかけた。アイルは頷いて「もう、前線で活躍できるだろう」と答えた。そんなに買われているのか、褒められたと思っておこう。ロッソは自分のひげを触ると「全員分だろ、素材はどうする?」と聞いてくる。アイルは間髪入れず「ドラゴンだ」と答え、ロッソに素材を差し出した。
ダイヤモンドドラゴンとブリーズドラゴンの鱗と皮だった。ロッソはため息を吐くと「加工が大変なんだ、まったく…」と呆れながら言った。見ても驚かない所を見ていると、何回か持ち込みしているみたいだ。ドラゴンは珍しいし、まず素材には使われないはず。ロッソは鱗を工房に持ち込んでから「一週間ぐらい掛かるぞ?」と言い、顔を覗かせた。アイルは頷いて「頼んだ」と言った。
武具、食料、消耗品、てきぱき集まっていく。今までのダンジョンよりも色々な物を集めている。かなり難しい証拠だと思う。一通り揃え終わったみたいで、ギルドに帰ってきて荷物を預ける。これで終わりか、と思ったが、アイル達はそのまま目の前の店に足を運ぶ。看板には魔法具店と書かれていた。
店内には色々な物が浮遊していた。突いてみるとサッととどこかに行ってしまう。どういう仕掛けなのだろう。遠くに行った品物を見つめて考えていると上から「いらっしゃい、何がいるのかしら」と声が聞こえた。
螺旋階段からローブを着てとんがり帽子を被った女性が歩いてくる。古風な見た目をしているが、顔が若い。釣り目で茶色い瞳をしていて、足まで掛かる長い髪の毛をしている。アルミが急に「ソア、色々欲しい」と声を掛けた。ソアと言う掛け声は珍しい、奇妙な掛け声だ。彼女は事も無げに手招きして「奥へいらっしゃい」と言い、アルミを連れて行った。
僕がそわそわしているのを見てラフレがクスクス笑う。どうして皆は平気で居られるのか。ラフレが「ああ見えて魔法薬にも詳しいのですよ」と言った。魔法を使える人が殆どだからか、魔法薬の知識はおまけみたいに考える人が多く居る。アルミは苦労していた、と聞いたからきっと、何とか役に立つために覚えたのだろう。
しばらくしてアルミが奥から出てくる。見るからに上機嫌だ。アルミは僕の方に真っすぐに来ると何やら手を差し出して「はい、持っておくといい」と言い、何かを渡された。渡されたものは緑色の水晶のような形をしていて、色々な角度から見たが、何か分からない。アルミが僕を変な物を見たような顔で「離脱結晶」と言った。店を出るとアイルが「これで揃ったね」と言い「一週間で仕上げるよ」と続けた。皆で頷いて訓練を開始した。
装備が出来た、と連絡が届いた。ここ最近は、怒涛の訓練祭りだった。座学で魔物の知識を深めて、魔法の範囲を確認して、実際に魔物を倒す。これをひたすら繰り返す。あっという間の一週間だったけど、ここからが本番だ。
鍛冶屋の扉を開けると、ロッソが丁度飾り付けをしていた。ロッソはこちらを見て「おう、今出来たんだ。試着するか?」と鎧を指さして聞いてくる。アイルは頷いて「もちろんだ」と言い、鎧を受け取っていた。
ロッソは僕らに鎧を渡す。アルミとコクの鎧は皮鎧、僕とラフレの鎧は鱗鎧、アイルは鱗と金属の鎧。全員が袖を通して、ピッタリなサイズだった。アイルは鎧を着たまま「ありがとう」と言って金を出す。ロッソは「ああ、死ぬんじゃねえぞ」と言って、受け取ってから店の外まで送り出してくれた。
ギルドに戻って会議をして、明日の朝に向かう事になった。恐怖心からか、酒場へ向かう。酒はきっと僕を癒してくれる。席に着いて、いつも通りご飯を食べようとするが、喉を通らない。緊張しているのか。久しぶりに酒をたらふく飲んでその日は眠りについた。
翌朝、支度をしてギルドに向かう。アイル達と合流して、最終確認をしていると、受付の人が「すいません!」と僕を呼び止めた。ここにきてギルドは認めないとか言うのかな。それはそれでいいかもしれない。僕だって怖いから。受付の人は僕に紙を差し出して「遺書を提出してください」と言った。なんてことを言うんだ。僕は受付の人の手を払いのけて「大丈夫」と返事をする。受付の人は首を傾げて「アイル様達は書いています」と言った。僕はそれでも「いや、いいよ」と言って、断った。アイル達と一緒なんだ、一応脱出ぐらいは出来るはずだ。
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