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 ナジュマが許可を得て私室を好きなように改装している横、ラディンマラ夫人達はよき日を選んで茶会を開くこととした。呼ばれたのはこれから社交界の中心となる女性達である。ナジュマも若いのだからラディンマラ夫人と同年代の方々を呼ぶよりも気安いだろう、という配慮があったらしい。ナジュマは年齢など構わないからどちらでもいいが、とりあえず頷いたものだ。

 そして当日、まず客人を迎えていたのはテルディラである。

「皆様、ごきげんよう」

「ご招待いただき有難うございます、テルディラ様。いつ見ても見事なお庭ですわ」

「有難う。母も喜ぶわ」

 本日呼ばれたのは旧知の仲の夫人令嬢方である為、皆比較的和やかに挨拶を続けている。しかし勿論、それだけでは終わる筈もなかった。国内貴族には既にデレッセント公爵家にやってきた皇女の報など知れているのだ。

「本日、主役の方は例の方とお伺い致しましたが……」

 一人が口を開くのに、テルディラは得たりと頷く。

「ええ、先頃縁が結ばれました皇女殿下ですの。諸事情あって早い入国となりまして、是非皆様にお会いしたいとのこと。わたくし共もそれではと、本日お招きさせていただいた次第ですのよ」

「殿下からでございますか」

「大変積極的な方でいらっしゃいますのね」

「テルディラ様とのお仲は……」

「問題なく」

 楚々と話すそこ、堂々と突入してきたのが本日の主役たるナジュマである。

「皆揃ったと聞いたのでやってきたよ!」

 にこやかに笑い、その長身を生かした大股で颯爽と歩くナジュマは母国では着慣れた男装だ。繊細な金糸銀糸で刺繍された異国の衣に貴石が燦然と並んだ宝飾品を重ね、波打つ髪を流し、化粧っ気はなくとも目立つきりりとした眉と黄金の目がしっかりと客人達を捉えている。

「やあやあ、これは美しい女性揃いだ! グランドリー王国にやってきた甲斐があったというものだね!」

 予想だにせぬ麗人の登場に、客人達は声にならぬ声を上げた。扇子に力を込めすぎて折ってしまった者もいるらしい。

 ナジュマは辺りを見渡してからテルディラを見、ウインク。ルゥルゥに促された席へ腰を下ろした。

「初めまして、わたしの名はナジュマ。皇女という立場を得てはいるが元は遥か遠く、熱砂の国の王女だよ。こちらとは常識が違いすぎるからね、何か妙なことをやらかすかもしれないが許しておくれ」

 穏やかに笑むと客人達は頬を紅潮させた。夫のある者もいるとて一瞬でナジュマの掌の上。これには表情を変えぬテルディラも内心驚いている。

「気軽にナジュマと呼んでおくれ」

 そうカラカラと笑ったナジュマは女性陣の問いかけに次々と応じ、熱砂の国の気候から後宮という閉鎖空間での女性だけでの暮らし、大皇国での日々のことなど大らかに語った。

 ナジュマ自身に関して言うなら秘することはおおよそない。故に占い師として生きようとしていたと言えば、流石の彼女達も驚きに目を見張っていた。

「ナジュマ様は占いがお得意ですの?」

「占いと言っていいのかな。他人を見るのが得意でね」

 当たらずとも遠からじ。ナジュマはゆっくりと首を巡らし──、(よし)一人に当たりを付けた。

「ケーティニア嬢、だったね」

「はい!」

 名を呼ばわれたのはこの選ばれし面々の中で最も下位に属する、ハルフォーン伯爵家の令嬢である。

「婚約者がいるようだ。……婿入りか」

「え、ええ」

 何故、と思わないでもないが誰かから教えられたのかもしれないし、ケーティニアの歳なら婚約者がいて当然である。そうした思考の流れを経て頷いたケーティニアに、ナジュマは少し身体を傾いで言った。

「あまりよくない男だね。あちこちに借金をしているし、複数の女性とついでに子供もいる」

「子供!?」

 腐っても貴族、政略は基本だから愛情までは強制しない。けれど結婚前に借金を作って子供までいては話が違うではないか。

 思わず真っ青になったケーティニアと、息を詰める周りの客人にもそっと囁いているように聞こえる程度、実にとおる声でナジュマは続ける。

「借金は君のお家の名前と、親元のお家の名前も併せてのもののようだ。爵位持ちの二家が担保になるなら金貸しだって納得するだろう。……紹介者もいるようだがとにかく、今後の為には借金の解決を図るよりも婚約そのものを破棄してしまった方がいいだろうね。そんな男が婿では困るし、なんなら相手の家から本人への突き上げも発生して溜飲も下がるだろう?」

「そ、そんな、私……」

「ケーティニア嬢」

 ナジュマは立ち上がり、ほとんど倒れそうなほど血の気を失ったケーティニアの肩にしっかりと手を突いて支えた。その掌から伝わる熱でケーティニアの血色はにわかに戻り……いや、普通に恥じらいが過ぎて紅潮している。周囲も羨ましげに見ている。この状況を異なものとしているのは真顔のテルディラばかり、ナジュマとしたらいつものことだ。

「ケーティニア嬢、安心しなさい。ここは誰の家だと思っているんだい? デレッセント公爵家で、君はその子に当たる。親に頼ればいいのさ、ねえテルディラ!」

 声をかけられ、テルディラは静かに頷いた。おおよそこうなることは察していたらしく動揺は見られない。

「罷り間違って我が公爵家の名も出されていたら困りますからね。わたくし共がしっかり後方に立ちましょう」

「テ、テルディラ様……!」

 ケーティニアはテルディラに感謝を、ナジュマに羞恥と興奮とを示し、感情が右往左往して落ち着かないようだ。ルゥルゥは横からほどよく冷めた茶を供し、半ば立ち上がってしまったケーティニアに椅子を勧めている。

 さて、とナジュマは朗らかな顔で周囲に問うた。きらりと黄金の眼が太陽の光を受けて輝く。

「城下に赤を冠するお店はある? 表立っては違うが、裏は金貸しだ。そこで一番借りているね」

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