沈黙のディストピア【電撃公募用】

月野 白蝶

プロローグ

1.プロローグ


 は夜の静寂と共にやって来た。

 首を高く上げないと先の見えない塀を見上げ、それは脚に力を込め高く跳ねる。ピンポン玉のような軽さで塀の上に着地し、今度は猫のごときしなやかさで地面へと着地する。その全ては無音であり、常人であれば気付くことなどなかっただろう。



 だが、闇の中から唐突に現れる『影』があった。



「何者か」

 短い問いに、それは走りより自分よりはるかに高い『影』に縋り付く。

「今すぐココの一番偉い奴のところまで連れてってくれ!」

 それに縋られて、『影』は「ほぅ……」と興味深そうに嘆息した。

「何用か」

「会ってから話す!」

 それの言葉に、『影』はしばらく思案し、「良かろう」とだけ告げた。

「来たまえ」

『影』の後を、それはついて行く。





 ある、五月の晩のことだった。

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