(エモい短編)涙。マジシャンの師匠と弟子が…。マジックとは、マジシャンとは?

冒険者たちのぽかぽか酒場

第1話 ここ、どこ?ミステリーな場所で、ミステリーな人に、再会してしまったら…?でも、ミステリーな体験だけで終わって、良いのか?

「消えた!」

「出たぞ!」

「やっぱり、師匠は、すごいや!」

マジックの世界に入ろうと決心したあのころが、なつかしい。

「師匠を、乗り越えてみせる!」

 その師匠が亡くなって、間もない。

 「急に、一人ぼっちになってしまった感覚だ」

 目を閉じれば、雲のフロアが広がり、一本の長い道がのびていた。

 「この道は、どこまで続く?…あ!し、師匠じゃないですか!」

 「よう」

 「どうしたんですか、こんなところで?」

 「それは、こちらのセリフだ。マジックの修行は、終わったのか?」

 「いえ」

 「迷うよなあ…」

 「迷う?」

 師匠は、自らの死を、認め切れていないのか?

 「ふん…」

 「な、何です?師匠?」

 「お前は、いつまででも、子どもだな」

 「え?師匠だって、何かに迷っていて…。まるで、ミスディレクションに落ちた子どものようじゃないですか?」

 そこまで言ったら、師匠が、肩を落としはじめた。

 「そうなんだよな…」

 しかられるイメージばかりが強く残されていたので、師匠の落ち込みは、意外だった。

 聞けば、ようやく見つけた輝ける大きな門が開かず、途方に暮れていたという。

 「し、師匠!」

 「何だ?」

 「その門…。いえ、何でもありません」

 彼は、その門の正体に気付いたのだ。

 「それは、天国に続く門じゃないのか?」

 迷う師匠に、伝えてあげたかった。

 が…。

 伝えられるわけがない。

 伝えてしまったら、師匠の死が確実なものになってしまう気がしたからだ。

 「…でもなあ。どうして、師匠は、マジシャンの力を使わなかったんだ?」

 師匠を信じればこその、疑問。

 「破壊」

 「消失」

 そうした力を得意としていた師匠なら、門をこわして先を見通すことも、門にかけられた錠を消失させて先に進むことも、できたはずなのに…?

 師匠が、彼を、笑顔で見つめる。

 「それはな…。やってはならないことだからだよ」

 心の中を、読まれていた。

 「…師匠」

 「俺たちは、神でも、超能力者でもない」

 「は、はい」

 「自然の力にあらがい、空間を、身勝手にねじ曲げてしまうことはな?」

 「は、はい」

 「およそ、一流のマジシャンのすることではない」

 「…」

 「一流のマジシャンとは、自然の流れに適応しながらでも、空間と戦う者をいう。ちがうか?」

 「…」

 「おまえは、俺とは逆ベクトルの力でマジックをおこなうのが、得意だ。そうだったよな?」

 「…師匠」

 「お前の得意技は、破壊や消失ではなく、出現マジック」

 「…」

 「花や鳩をどこからともなく出現させて、客を、アッと言わせていた」

 「…」

 「おまえのその力は、ここでも、生きるんじゃないのか?」

 「…」

 「あの力を、見せてみろ」

 「…」

 「俺の教えは、どうなった!」

 …さすがは、師匠。

 焚きつけられ、焚きつけられ、完全にあやつられていた彼。

 「さあ、やってみろ!」

 「師匠!」

 結果、大成功。

 彼は、見事、門の鍵を出現させてみせたのである!

 「ギイ…」

 師匠が、門を開けはじめた。

 「ごめんなさい、師匠!いかないでください、師匠!」

 門の鍵を出現させてしまって、良いのか?

 師匠を、確実に、死の世界に導いてしまうことになるんじゃないのか?

 うると、師匠が、彼のほうを向いた。

 「おい!」

 「はい、師匠!」

 「俺を追うのは、やめろ」

 「…」

 「こちらの道にきては、ならない」

 「…師匠」

 「お前は、俺が死んで、一人ぼっちになってしまったんじゃないのかと思っていたんだろう?」

 …またか。

 マインド・リーディング!

 そうか。

 師匠は、自身の死を理解し、認めていたのか…。

 「師匠を乗り越えるのは、まだ、むずかしいな」

 そう思えたとき、気持ちが、ふっと軽くなった。

 「まずは、己の弱さを認めるということ。一流のマジシャンとは、どういう人のことをいうのか?考えて、歩んでみろ」

 目を開けると、自宅の中。

 もう、師匠の姿は見えなかった。

 「あ、これは…」

 本棚の中に、少しだけ茶色く古びたアルバムを発見。

 中から、師匠と撮った大切な写真を取り出す。

 「師匠?もう、現れなくても良いですからね?」

 当然だ。

 彼のマジックは、発展途上。

 師匠に、この写真まで消失させられて出現させる力は、まだ、ない。

 涙が、止まらなかった。




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