くねくね(偽)
藍田レプン
くねくね(偽)
今回話を伺ったのは雪国在住のJさんという20代の女性である。
「去年の2月頭のことなんで、今でもはっきり覚えているんですけど」
その日、彼女は仲のいい女友達4人で温泉に行った帰り、大雪に見舞われてしまったという。
「天気予報では確かに雪だったんですけど、あんな大雪になると思わなくて。運転手の友達はスピードを落として、ゆっくりと田舎道を走っていました。あたりはもう真っ白で、多分……畑か牧草地だと思うんですけど、道路の左側には一面雪原が広がっていて」
そこで、奇妙なものを車に乗っていた全員が見た。
「最初にあっ、と声を上げたのは、後部座席で私の隣に座っていた友人でした。目を見開いて、あれ、あれ、と雪原のほうを指さすから、私と助手席に乗った友人も彼女の指さす先を見たんです。そしたらそこに」
10人ほどの男女が、ほぼ全裸に近い格好で踊っていた。
「フラダンスでした」
「フラダンス、ですか」
「ええ、あの首から花飾りを下げて、ふわっとしたスカートみたいなのをはいて、男性のほうは頭に草冠みたいなのをつけた、あれです。みんな雪国なのに真っ黒に日に焼けていて、笑顔で」
無音で雪が降りしきる中、彼女たちはフラダンスを踊っていたのだという。
「最初は撮影か何かだと思ったんですけど、近くに車もないしカメラマンもいないし、大雪だからドローンみたいなものももちろん飛んでいませんでした。そこは町から車でも1時間以上かかる辺鄙な場所で、じゃあ彼女たちはどうやってこんなところまで来て、フラダンスを踊っているのか」
全くわけがわからない。それがだんだん怖くなり、Jさんは運転手の友達に頼んですぐさまその場を離れたという。
「近くにハワイアンセンターがあるなんて話も聞きませんし、本当に今でも謎です」
そこまで話を聞いて、私は思わず
「くねくねのような話ですね」
と言ってしまったのだが、
「なんですか、それ?」
と返されてしまった。
その後、彼女たちの身に特に異変や不幸は無いそうだが、その温泉には二度と行かないと決めているらしい。
くねくね(偽) 藍田レプン @aida_repun
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます