第18話 家選び
翌日、リリアはホテルの近くの不動産屋を訪ねた。
自分の家を購入する経験なんて生まれて初めてのリリアは担当の女性に希望条件を聞かれて戸惑ったものの、色々と説明を受けてなんとか纏める事が出来た。
「値段は10億マニー以内。広くて築浅で、出来ればお風呂がついていて、あまり市街地から離れていない物件……ということで、こちらはどうでしょう!?」
不動産屋さんから馬車に揺られて20分くらいの場所。
いわゆる高級住宅街のエリアにその家はあった。
女性と共に門をくぐった途端、リリアは度肝を抜かれた。
一言で表すと、その家は『豪邸』だった。
大理石と暗赤色の煉瓦で築かれた三階建ての美しい建物は、湾曲したドーム型の屋根が金の細工で縁取られ、太陽の光を受けてきらめいている。
巨大なダブルドアの玄関は深緑の重厚な木材でできており、銀の装飾が施されていた。
庭は広大で、中央には大きな噴水。
その周りには色とりどりの花々が植えられ、四季折々の花が咲き乱れるようデザインされている。
庭の一角には小さな池があって、白い鳥たちがすいすい〜と優雅に泳いでいた。
ぽかんとするリリアを、女性は「ささっ、早く中へ」と案内する。
玄関を開けると、高い天井と大理石の床が目を引く豪華なホールが広がっていた。
天井には大きなシャンデリア、壁側には細長い大きな窓が並び太陽の光がたっぷりと注ぎ込んでいる。
ある扉を開けると広々としたリビングルーム。
高級な革製のソファやアンティークの家具が配置されている。
壁には名画や鎧、武器などが飾られており、歴史と伝統を感じさせた。
大きなダイニングルームには長いテーブルと椅子。
キッチンはありとあらゆる調理器具が整っており、料理好きには夢のような空間が広がっている。
二階に上がると、広々としたベッドルームや書斎。
そして金色の壁のバスルームには大きな黄金のバスタブも完備されていていた。
「こちらの家の間取りはなんと18LDK! 築は8年ほどです。特筆すべきは、この物件を手がけたのがかの有名な建築家、アルベルト・ディマリオ氏! 彼の特徴である、自然の光を最大限に活かす設計や独特の曲線美が随所に散りばめられているんです。またこの屋敷の中には、前オーナーがコレクションした美術品やアンティーク家具も多数残されていています。つまり、この家を手に入れれば、ディマリオ氏の設計と、前オーナーのセンスが融合した贅沢空間を堪能でき……いかがなさいました、リリア様? 急にうずくまって……」
「ご、ごめんなさい、ちょっと目が回りそうで……」
あまりにもギラギラで情報が多過ぎて眩暈がしてきた。
18LDK? 黄金のバスタブ? 何かの冗談だろうか?
せっかくこれから長く住むから良い家に……と色々と条件をつけてみたものの、こんな大豪邸を望んでいたわけではなかった。
明らかに貴族か富豪が家族で住む家だ。
ひとりで住むなんてどうかしている。
値段は9億9000万マニーとのことで全然払える金額だが、お金の問題じゃなかった。
掃除も大変だろうし、部屋を使い切れるわけがないし、何よりもこんな広い家でひとりぽつんと生活するなんて寂し過ぎる。
有名な建築家がデザインしたとか、アンティーク家具がたくさんあるという点も、ブランドに全然惹かれないリリアにとってはどうでもいい部分だった。
総じて、狭くてかび臭いオンボロ離れに今まで住んでいた身からすると分不相応極まりない家だった。
自分の提示した条件と、実際に自分が思い描く家のイメージに大きなずれがあったのだとリリアは気づいた。
「あの、せっかく提案していただいて本当に申し訳ないのですが……もう少し狭くて、落ち着いた家の方が良いかな、なんて……」
リリアは拙いながらも、自分のイメージしている生活を女性に伝えた。
リリアの説明に、女性はポンと手を打って。
「なるほど! それなら、良い物件がございますよ」
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