第17話 サイクリング

毎年夏になると、僕はいつもこの街から逃げ出していた。涼しくって気持ちのいい白樺林なんかが見える信州に行きたくなってしまう。僕は夏の高原が好きだ。美しい緑と美しい水とそして空気。高原は本当に素晴らしい。そして人を不快にするような害虫も少なかった。僕は高原にすみたかった。僕がこの世で最も好きな風景は夏の高原と美しい夏の山だった。海はあまり好きではなかった、正直言ってどうでもよかった。僕が一番したいことは、美しい少女と夏の高原をドライブすることだった。しかしそれはもう去年叶ってしまった。直美は美しい少女だった。僕はそんな直美に夢中になり、その夏を過ごした。それはこれまでの人生の中で一番すばらしい夏だった。そして素晴らしいものはいつもそうだがやがて終わる。僕たちも終わった。

次のお相手は意外に早く見つかった。ある日家にいたら業者が訪ねてきて説明を始めた。家のリフォームの案内をしてくれた。彼はとても熱心で親切だった。丁寧で分かりやすく信用できた。僕は丁度家をいろいろ修理したいと思っていたので、直ぐに契約書にサインをした。僕は三年契約で支払いをして家のリフォームをするつもりだった。それなら無理なく支払いも出来るはずだった。

彼が契約書を持ち帰った次の日に彼女が現れた。彼女はとてもキュートだった。とても可愛らしく綺麗だった。僕は一目で彼女を気に入ってしまった。キュートな顔立ちに細く長い手足が華奢についていた。僕は彼女の顔も体つきも好きになってしまった。僕は人から受け取った名刺でこんなに嬉しかったものはなかった。僕は彼女の名前も電話番号も一度に知ることができた。彼女はリフォームの相談に乗ってくれながら玄関わきに置いてあった僕の自転車を熱心に見ていた。

「かわった自転車ですね。」

「トレーニング用に買ったんだ。」

「トレーニング?」

「普通の自転車だと軽すぎるから。」

「だからマウンテンバイクにしたんですか?」

「これだとちょうどいいんだ。」

「わたし自転車同好会だったんです。」

「じゃあ今度サイクリングにでも行きましょうか?ツーリング用のは2台持ってるんですよ。」

「いっぱい持ってらっしゃるんですね。」

「自転車好きなんで」

「いいですね.」

僕は年が明けたら直ぐにでも彼女とサイクリングに出かけるつもりだった。ところが、彼女と突然連絡がとれなくなってしまった。

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