第16話 霧ヶ峰のペンション
夏はどうしても信州に行きたくなる。暑いのは苦手だ。特に蒸し暑いのは絶対に嫌だ。だから 愛知県を出て涼しい山の方へと行きたくなる。やはり標高が高く1500m を超えれば かなり 涼しい。まるでクーラーでも入っているのかと思うほど。高速バスのバス停でも すでに涼しい。僕は初めて 高速バスを使った時 御殿場のバス停で降りた時に驚いた。バス停にすごく クーラー 効いてるんだと思ったからだ。そのバス停はただの普通のバス停だった。エアコンなんかついていない。入り口と、窓開けてあって風が普通に出入りしていただけだ。それが 目いっぱいクーラーが入っているかと思うぐらいに涼しかった。さすが 高速バス 停留所までこんなに涼しくしてあるんだと思ったぐらいだ。ただ 窓が開けてあっただけなのに。
標高が1500m を超えるようなところに泊まるなら 真夏でもセーターは絶対に必需品だ。できれば ウール100%のセーターが望ましい。山の夜は そのぐらい涼しいのだ。というより寒い。
直美と初めて会ったのも高原のテニスコートだった。やっぱり夏で家のあたり はもう 暑くてたまらなかったので 僕はどうしても涼しい高原の方に行きたくなっていた。子供の時代から夏は嫌いだった。一番嫌いな季節は夏というより正確には 6月 要するに 梅雨が嫌いだった。暑い だけではなく 湿度は 最も 嫌なもの の 1つだった。暑いというのは まだ 我慢できただが 湿度はどうにも嫌だった。一番嫌いな 梅雨のない 北海道が羨ましかった。ただ近年の温暖化で北海道でさえ 梅雨に近いような季節があるらしい。やっぱり僕が一番好きなのは高原、高原の夏だ。暑くても森や 木陰に入れば十分に涼しい。おまけに池や湖もあって、とにかく林にしても森にしても美しい。夏の高原できれば軽井沢 が1番好きだった。
長谷川家はなぜ愛知県に住むようになったんだろう。昔から ここに住んでいて ずっとそうだから 住んでいる。ただそれだけの理由だ。だからここに住み続けなければならない理由なんて何もありはしないんだ。他に何か住む理由があるとすれば おじいちゃんが生きた大阪 ということになるだろう。おじいちゃんはでも生まれたのは愛知県だ僕と同じ。おばあちゃんも確か 愛知県だ から祖父母は大阪に住む理由なんてどこにもない。おじいちゃんが若い頃に夢を持って静岡の方で大学に入って経済学を勉強してそれからだ。その後どうして大阪になったのか全くわからない。ただ、家を超えるような理由を持っていたとすれば おじいさんだけだ。おじいちゃんは とても パワフルで行動家だった だから生まれた土地を離れ 静岡で勉学を積みそこからいろんなことが 広がったんだろう おじいちゃんは結局社会人としては満州国 で花開いた人だ。大阪に住むようになったのは その後だ 満州国 で色々なことがあって おじいさんの、その後の運命が決まった。激烈な力を持って人の生きていく場所まで変えてしまったのは おじいさんの力だけだ。人間が夢を持って大きな望みを叶えていくというのは それぐらいなことなんだ。おじいさんが起こしたことは 単に おじいさん 1代で終わるようなことじゃなかったんだろう。その後の長谷川家の運命もかなり変えてしまった。僕らは だからまだ おじいさんの 運命の続きの中にいる。だからおじいさんが引き寄せたその運命に長谷川家の誰かがけりをつけなければならないんだと思う。おじいさんが引き寄せた運命というのがどういったものなのかよくわからないが 僕はもう生まれた時からその中にいて、決してそれを嫌だと思っていない。むしろ それでいいと思ってる 僕はおじいちゃんが引き寄せた運命を 続けて生きていこうかなと、そんな気持ちだ。そのためには運命に逆らわず受け入れて生きていくのがきっと 正しいんだろう 僕はそんな風に生きていこうと思う。おじいちゃん ほど生きたと言えるような生き方をした人は他になかった。なぜおじいさんはあそこまで もう死んでしまった後まで 人を惹きつけるような生き方をしたんだろう わからないけど 自分でそれを望んでそういう風にしたわけでもなかろうに おじいちゃんは人を惹きつける 僕は少々 その後を辿ってみようかと思う。
名古屋にいるおじさんが昔そんなことをしたと聞いたことがある。確か おじさんひろこおばさんの弟だったよな。確か北海道大学に行って水産課を専攻して名鉄の事業会社に入ったはずだ。だから イルカのことで色々やらされたんだ。叔父はイルカのことでテレビや新聞にも何度か出ていた。まずは叔父に会うことが一番だな親戚一同が会うことは今度いつだ。父も母も亡くなっていろいろ いっぱい いなくなっちゃったからなよくわからないな 今度いつ集まるのか。
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