無実の罪で処刑されそうになった聖女は悪魔女になる

霞千人(かすみ せんと)

第1話 聖女マリア処刑宣言される

 アガタ王国の第1王子の18歳の誕生日パーテイー会場には

その国の重鎮をはじめ、隣国5国の王族貴族、取引の有る

商人家族などで賑わっていた。


「エドワード王子様よ」

「今夜の主役のお出ましね。お隣にいる御令嬢は誰?」

「さあね?エドワード王子様は確か、聖女様とご婚約されて

いたはずよね、何あの女、まるで王子様の婚約者みたいに

ピッタリくっついていて無礼じゃない?」

女性陣は姦しい。


「今夜は大事な話がある聞いてくれ!」

王子は隣の女性を抱き寄せて大声で言った。

「この度聖女マリアの国家転覆計画が発覚した。

国王陛下暗殺の計画も露見した。よって私はマリアとの婚約を

破棄して、ここに居られるザビエル公爵殿下のご息女メアリー嬢

との婚約を宣言する。聖女マリアを即刻逮捕せよ!」


会場の後方にいた聖女マリアは何が起こっているのか解らない

という表情で呆然としていた。


「しかし本当に聖女様が国家転覆とか暗殺だとか事実なのか?」

「あの王子あの女子に骨抜きにされてそうだな。清廉潔白な

聖女様は結婚するまで身を許すことなど無さそうだ。つまり

自分の浮気をあの女子と正式に婚約する事で正当化しようと

しているということなのか?卑劣な!」


 「今すぐ事の真相を探ってくれ、もしも事実無根なら聖女様を

我らが国におむかえしようではないか」

「有無、判った」



辺境2国の国王達は聖女の罪が冤罪である事を疑っていた。


「しかしこの国は聖女様のお陰で豊かな平和な日常を得られて

いることを忘れているのではないか?阿保か?馬鹿なのか?」

当たっていた。娘を王子の妻にして、国の政治を裏から

操ろうと企むザビエル公爵とその娘メアリー。他にも新たに

利権を手にしたい貴族とか、大神官とかが集まって企んだ

茶番劇なのだ。


 訳も分からず兵士らに拘束された聖女マリアは叫んだ。

「わたくしは国家転覆とか暗殺とか、そのようなことを

思ったことも有りません。調べなおして下さいませ!」

「ええい、白々しい。証拠も証人も揃っておる。貴様は

明朝9時に王都中央広場に於いて斬首刑に処す。さよう心得よ」

「ええい、目障りよさっさと牢にぶち込んでしまって!」

もう既に、王子の嫁になったかのようなメアリーの言動。

それに不快な念を抱く者達が少なからずいた。聖女が存在せず

その恩恵を受けられない近隣諸国の王族貴族達だった。


 「そんな、理不尽な!もう一度お調べ直して下さいませ」

聖女マリアの悲痛な叫びに、アガタ王国の誰も反応する者が

居ない。

(時を置かずに邪魔者は消してしまえと言う事か?無実の

証拠はまだ見つからぬのか)

辺境国の1つアルタイル王国国王ジールスは調査に出向いて

いるもう1つの辺境国ベルフ王国国王ヨデムの調査結果を

心待ちにしていた。

(傍から見てもこれはひどい出来レースだ。この国の貴族共は

おかしいと思わんのか?それだけ聖女マリアは忌み嫌われて

いるのか?ヨデムはまだか。)

聖女マリアが牢獄に引き連れられていった直後、調査の指揮に

出ていたヨデム王が帰ってきた。

『どうやらこれは聖女に居られるとまずい奴らの陰謀らしい。

魔人族が暗躍しているようだぞ』

帰ってくるなり念話でジールスに報告したヨデムの顔は

青ざめている。

『国民の3割が魔人族と入れ替わっているようだ』

『明日朝9時に処刑されるらしいぞ。その前になんとか

せねば』

ジールス王は焦る。聖女は人類の宝だ。聖女の祈りによって

天変地異から守られ、魔物を寄せ付けず、豊穣が得られる。

それがこの世界の常識なのだ。それを苦々しく思っている

のが魔人族だ。

 この世界では魔人族に立ち向かい、滅ぼす力を有する者が

聖女のみなのだ。だから直接聖女に手出しできない魔人族が

人の手で聖女を抹殺させようと画策しているのだろう。


『何としてもこの事を牢内にいる聖女様に伝えてお力を覚醒

してもらわねばならん。頼めるか?ヨデム』

『おう、これはもう人類と魔人族との戦争だ。命に代えても

その責を果たそうぞ』

日は徐々に更けていく。

果たしてヨデムは聖女マリアに事の真実を伝えられるの

だろうか。


続く


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