木箱の中にあるものは恐怖だけじゃない

秋色

第1話 怪談

 ――私は某市に住む高校三年生です。これは私が今日、学校から帰る時、実際に経験した不思議な出来事です。

 今までよく耳にする都市伝説は、ほとんどが作り事だって決めつけていました。まさか自分がこんな体験をするなんて……――





「美桜君、また神秘体験の泉なんて怪しいサイトをみているんですか? 宿題はしたんですか?」


「あ、北嶋先生、わ、近っ! こんばんわぁ。突然現れるんでびっくりしました。サイトをみているんじゃないんですよ。今日は書き込んでいるんです!」


 大学生の家庭教師の北嶋先生は、小さくため息をついた。私のスマホを覗き込み、「こんな文章が書けるんですね。意外です」と嫌味な一言。


「テレビのほん怖を真似て書いてみただけです」


「そんな作り事の怪談を書き込むヒマがあったら、勉強した方がいいんじゃないですか? 受験も近いんですよ」


 先生はいつものように鞄を、そして今日は買い物後なのか、紙袋の包みを丁寧にテーブル脇に置いた。


「受験? それならもうあきらめて……。いや、その、そんな事より、もう私には丁寧語で話さなくっていいですよ。何か怖いんで。私達、たった二才違いですよね?」


 北嶋柊先生は、成績が芳しくない私に、パパが探してくれた家庭教師だ。親が選んだだけあって、国内有数の名門国立大の生徒でありながら、全くスキがなく、面白みがない。というより人間味がなさ過ぎて、一緒にいると、家の気温がいっぺんに下がる気がする。


「いやいや、忘れてる事があるから。あ、そうそう、先生、今、作り事って言いました? これは実話なんですよ。私、帰った時、怖くて足がガクガク震えてたんです」


 そうだ。私は家に帰った時は、恐怖でどうかなりそうだった。家には、誰もいなかった。両親とも仕事から帰って来てなかったし、弟の涼介も部活で帰るのは遅い。友達に連絡しようにも大手塾の学習室にいるし。だから、怖さを紛らわすために、誰かに聞いてもらおうと、クラスの友達とよくのぞいている神秘体験の泉に、書き込んでいる所だった。そして先生が到着したのを知ると、たとえ体感温度零度の北嶋先生であっても、ほっとしていたところだ。


「どんな怖い事があったんですか? 人に危害を加えられそうになったのなら、まずは警察に届け出ないといけません」


「いえ。相手は人じゃないんです」 


 先生は、なあんだという顔をした。


「相手が人じゃないからこそ怖いんですよぉ。科学じゃ証明できない事なんです」


「科学で証明できない事はないですよ。現在の科学では証明できる限界のある謎も、ありますが」


「ハイハイ。じゃ、現在の科学の限界説に一票です」


「でも恐怖心をそのままにしておくと、トラウマの原因にもなりかねません。詳しく教えてもらえますか? そして僕と一緒にその現場へ行ってみましょう」

 

「絶対、イヤです! 二度とそこに行きたくありません」


「では、僕が一人で行くので、場所と何があったかについて、詳しく教えてください」


「やめておいた方がいいですよ。絶対痛い目にあいます。私がさっきのサイトに書きかけの文章を読めば分かります」

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