佐伯はみんなのものだから

秋犬

第1話 1発3000円

 高校に入って一番びっくりしたのは、クラスメイトが同級生相手に商売していたことだった。


 別にそれ自体が悪いとは思わないけど、俺が入学したのは工業高校で、同学年の女子は2人だけ。しかも別の学科と来ている。俺のクラスに女はいない。


「あいつ、中学の頃から1発3000円なんだぜ」


 そう言われるあいつとは、同じクラスの佐伯さえきだった。教卓の真ん前の席で、授業は大体眠っている。見た目は平凡で、強いてどっちかと言えばちゃらちゃらしている部類、といった様子。成績は悪くない。でもいつも眠っている。そんなどこにでもいるふざけた野郎だった。


「お前まだ佐伯に抜いてもらってないのか?」


 新学期の緊張が抜けてきた頃、気がつけばクラスの半数以上が佐伯の世話になっているようだった。「みんながしているなら」と俺は興味本位で「予約」を入れることにした。新規は佐伯の机に連絡先を書いた紙を入れておくと、後でスマホに佐伯から番号が書かれたメッセージが届く。それが予約番号なんだそうだ。


 放課後、指定された神社の裏へ行くと佐伯が1人で座り込んでいた。雨上がりの匂いが立ちこめている中で佐伯はスマホをしまうと、俺をじっと見る。


「ああ、確かに網代木あじろぎくんだ。初めてだよね?」


 挨拶もそこそこに佐伯が早速手を出してきた。俺が震える手で3000円を渡すと、佐伯は即座に3000円をポケットにしまう。そのぎこちなさが佐伯にも伝わってしまったようだった。


「そっか初めてか。優しくしてやるから」


 それから文字通り、俺は佐伯に「優しく」された。俺の前に膝をつく存在に、自分の手以外の感触や体温が生々しかった。それが上手なのか下手なのかわからなかったが、とにかくそれは不思議な感覚だった。思った以上の感覚に、俺は想像以上に早く出してしまった。瞬時に情けなさが襲ってきたが、佐伯は特に意にも介さないようだった。


「またよろしくな」


 出したものの後始末をした後、佐伯は義務的にそう言った。その後ろ姿に、俺はぎゅっと胸が苦しくなった。


 男としての何かを傷つけられたからか?

 こんなことをしている佐伯が可哀想だからか?

 単に気持ちよかったからもっとしてほしいだけか?


 混乱した俺は慌ててスマホでエロ画像を検索する。よかった、俺は別に男が好きなわけじゃない。出来ればかわいい女の子をぎゅっとしてみたい。


 でも、佐伯のことはとにかく気になった。また3000円払えば、その答えがわかるのかもしれない。3000円でまた今の感覚が味わえるなら、安いものだ。俺はそう自分に言い聞かせた。

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