第112話 ミモザVSジーン
さて、お互いに順調に勝ち進めば当然こういうことになる。
「よろしくお願いします」
ミモザは次の対戦相手、ジーンへと軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
ジーンもそれに応えるように礼をする。
ミモザはにやりと笑う。
「金髪美少女相手に戦えるのですか?」
それにむっとジーンは眉を寄せた。
「前回のは貴方が非武装で無抵抗だったからです!」
そう言って剣を構える。
「今回は騎士としての相対ですから。手加減しませんよ」
「それは良かったです」
ミモザもメイスを構えた。
「後から『相手が金髪美少女だから実力を発揮できなかった』、なんて言い訳されてはたまりませんからね」
「貴方こそ『本調子じゃなかった』なんて言い訳しないでくださいよ」
「絶好調です」
「双方、準備はいいか」
審判の問いかけに二人は同時に「はい」と返事をした。
「では、試合開始!」
ゴングが鳴った。
さて、と試しにミモザは衝撃波を地面へと撃ち込んだ。衝撃波は地面を伝い、荒らしながら真っ直ぐにジーンへと突き進む。しかしそれはジーンの手前で唐突に止まった。
「ミモザさん、土使いに地面を使った攻撃は無意味ですよ」
「なるほど」
こちらの無謀を非難するようにじっとりと睨まれてミモザは頷く。
おそらく地中に小さく土壁を張るなどして防いだのだろう。
「では、今度は僕の番と言うことで」
そう言うとジーンは地面をめりめりと盛り上げ、土を蛇のように操り出した。それはミモザへと狙いを定めると真っ直ぐに突き進んで襲いかかってくる。
ミモザはそれをひょいと避けるが、そのまま追いかけてくるので走り続けた。
(うーん)
正直このまま走り続けてもいいのだが、ジーンはミモザに近づいては来ないだろう。接近戦ではミモザの方が有利だと知っているのだ。実際、蛇はミモザをジーンに近づけないように動いているようだ。ミモザがジーンに近づけば攻撃を増し、離れれば隙をつかれてすり抜けられるのを恐れてかディフェンスのようにジーンの前に待機する。
賢い戦い方だ。
接近戦で勝てると踏んだ相手には自分へ近づけるのに使い、遠距離で戦いたい相手には防御として使う。
ミモザが再度ジーンに近づくと、彼は仕掛けてきた。
土蛇が‘ミモザを威嚇するように襲い、それと同時にジーンが衝撃波を放つ。
彼の剣から放たれた衝撃波はミモザの頬を掠めた。
「降参するなら今のうちですよ」
ジーンは余裕の表情でのたまう。
「そうですねぇ」
ミモザは頬の血を手に取って眺めた。
「よそ見は厳禁ですよ!」
ジーンが再び土の蛇をミモザへと向かわせる。ミモザはそれを、正面から食らった。体が後方へと吹き飛ぶ。吹き飛ばされた衝撃でメイスの棘がミモザのどこかを掠めたのか、血飛沫が舞って土の蛇を汚した。
「………っ!?」
まさかミモザが真正面から攻撃を食らうとは思っていなかったのか、驚きにジーンが動きを止める。ミモザは吹き飛ばされはしたものの膝をついた体制で地面に着地するとコートの内側へと留まった。
「降参しますか?」
「いいえ」
審判が尋ねてくるのに苦笑して返す。彼はミモザの怪我の具合を見て大丈夫だと判断したのか再びコートの外へと戻って行った。
「………ミモザさん」
「失礼」
戸惑ったように睨んでくるジーンにミモザはひょうひょうと返す。手を開いて見せた。
「ちょっと手を切っただけです。ミスりました」
「……さっさと降参してくださいよ、女性を痛めつけるのは僕の主義に反します!」
そう言うと彼は再び土の蛇をミモザへと向ける。その蛇の頭の部分にはミモザの血がべったりとこびりついていた。
「ふふ」
ミモザは笑う。
「一体何がおかしいんですか!」
土の蛇が再びミモザにぶつかる、と思われたその瞬間、ミモザの姿がかき消えた。
「………っ!? しまっ、」
「遅いですよ」
そう言うとミモザは土の蛇の上をジーンへと向かって駆けた。
先ほど土の蛇にぶつかったのはわざとだ。ミモザの戦闘スタイルからいって接近戦に持ち込まなくては勝機はないし、土の蛇のディフェンスを突破しなくては接近戦には持ち込めない。
そのため、ミモザは先ほどぶつかった時に土の蛇にある仕込みをしたのだ。
移動魔法という仕込みを。
ちょうど蛇の上側へと貼り付けたそれは当然目立つ。そのためミモザは自分の手のひらを傷つけ、その血をべっとりと張り付けることでカモフラージュをした。ちなみに蛇をぎりぎりまで引きつけてから移動魔法陣を発動させたのはミモザが銅の祝福しか持っておらず、遠いと発動できないからだ。
あとはごらんの通りである。
ミモザは土蛇の上を勢いよく駆ける。気づいたジーンがそれを振り落とそうと土蛇を上下に大きくうねらせた。
そのタイミングで地を蹴ると、ミモザの体は空中へと躍り出る。
ジーンが衝撃波を放つのをミモザも衝撃波を放って相殺する。そのまま落下するよりも素早く、ミモザはメイスの棘をジーンへと伸ばした。
棘がジーンの首や胴体を掠めて地面へと突き刺さる。そのうちの何本かは喉仏や腹などに刺さる寸前で止められていた。
ミモザは地面に刺した棘で斜めに自立した自分のメイスに乗ったまま、ジーンににこりと笑いかけた。
「降参してくださいますか?」
「……降参もなにも、もう決着ついてますよ」
ジーンが呆れたように体の力を抜く。
「勝者、ミモザ!」
審判が勝敗を告げた。
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