第11話 激闘、野良精霊 おかわり

(全然心配する必要がなかった)

 ゲームの中ボスを倒してしまった。ゲームの展開が変わったらどうしよう。なんかおかわりがいっぱい来た。今ここである。

「……っ、逃げよう!!」

 チロもさすがにこれには同意なのか素早くミモザの肩へと駆け登った。

 そのままとにかく走る。幸いなことに走る速度はミモザの方が速いようだ。

 しかし重要な問題があった。

(逃げるってどこに?)

 普通の野良精霊ならば村でいい。大人達が大人数でかかればよくいるうさぎ型や犬型の野良精霊は簡単に始末できるだろう。しかし相手は狂化個体である。しかもおそらく本来ならこんな人里には来ないような森の奥深くに生息しているはずの熊型だ。

(これ、村に行ったらまずいんじゃないか)

 今更ながらに気づく。このままでは村が危ない。

 別にミモザのことをいじめた連中やその他の仲良くもない奴らが死んだところでミモザは困らない。その程度に薄情な人間な自覚はある。けれど村には、

(ママがいる)

 母親が危険にさらされるかも知れない。ミモザにとってそれだけは避けたい事態だった。あとついでに姉もだ。復讐の前に死なれては寝覚めが悪い。

(いやもしかしたらお姉ちゃんならなんとかなるのかも知れない)

 それこそ主人公補正やらなにやらでだ。

(しかしそれはそれで腹が立つ)

 ミモザは立ち止まった。そして振り返ってチロに手を伸ばす。

「チー」

 チロは心配そうにしながらも、その身をメイスへと変えてくれた。

「ごめんね、チロ」

 謝ってメイスを構える。

 目の前にはもう熊の群れが押し寄せて来ていた。

「けど、譲れないこともある」

 意識を集中させる。あの熊は硬い。骨や皮のある部分は狙うべきではない。狙うなら口か目だ。

(こんなに大勢かー)

 ミモザはこれまでメイスの棘を同時に1本しか伸ばすことに成功していない。しかしゲームの中のミモザはそれこそ変幻自在に複数の棘を同時に伸縮して槍のように扱っていた。

(できるはずだ)

 ゲームのミモザができていたのだから。

 姉に無様に負ける出来損ないにもできていたのだから。

「できなきゃダメだ!!」

 メイスの柄の部分を地面に突き立てる。そして棘の部分はーー、

 全てあらぬ方向へと伸びた。

 うちの何本かは幸運なことに熊の方へと向かいその目を差し貫く。しかしせいぜいが2.3匹程度で仕留められたのは正面にいた1匹だけだ。

(もう一度っ!)

 棘を引っ込めて後退りし距離を取る。近づき過ぎれば仕留められるのはミモザの方だ。

 複数の棘を同時に伸ばすことには成功した。次はコントロールだ。

「いけ!」

 もう一度伸ばす。今度は前方の棘だけを伸ばすことに成功したが、まったく熊の目には刺さらず分厚い毛皮と骨に遮られる。

(おかしいな)

 そこでやっとミモザは気づく。攻撃が通らなさすぎる。

 ゲームの中のミモザは雑魚だが、しかし野良精霊に攻撃が通らないほどではなかった。ピンポイントで粘膜が露出した場所を狙わなければ倒せないというのは違和感がある。

(この熊が中ボスだからか?)

 しかし序盤の中ボスである。こういうのがボスですよ、というチュートリアルに出てくる程度のものだ。

(ーーということは)

 考えられる可能性は一つだ。

 今のミモザが弱すぎるのだ。おそらくだが、ゲーム開始時よりもチロのレベルが低い。

 実はこのゲーム、レベルが見れるようになるのは一番最初の試練の塔を攻略し終えてからである。

 そして試練の塔に入っていいのは13歳から。この世界の成人年齢をすぎてからなのである。

 つまりぎりぎり12歳のミモザにはレベルが見えない。

(これ、もしかして詰んでる……?)

 ミモザの額を冷たい汗が伝った。


 事態は膠着していた。

 大振りな攻撃をしてくる熊達と、一定の距離を保ちつつ立ち回るミモザの攻撃は互いに一向に当たらない。

(気が遠くなってきた)

 これがゲームならミモザはもう投げ出している。しかし今のミモザにとってこれは現実だ。投げ出せば待っているのは死である。

 そして単純にこの膠着状態がこれ以上続けば不利なのは仲間のいないミモザの方だった。

(まさかこんなところでぼっちを思い知らされるはめになるとは……)

 昨日までのミモザは想像もしなかっただろう。熊相手に友達多いマウントを取られているこの現状のことなど。

「……あっ」

 そんなミモザにミスが出たのは必然だった。迫りくる熊と距離を取るために背後に踏み出した足を木の根に取られてしまったのだ。

「………っ」

 慌てて手をつきバランスを取るが、地面に膝をついてしまう。

 ずっとミモザを食ってやろうと狙っていた熊達がその隙を逃すはずもない。

(あ、これ死んだ)

 そう悟った瞬間、目の前に迫り来る熊達の顔面が急に目の前から消えた。

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