幼馴染がお兄ちゃんと呼んでくる。

楠木祐

第1話 

「お兄ちゃん、朝だよ。早く起きて一緒に学校行こうよ!」


 俺に妹はいないはずなのに甘ったるい声が聞こえてくる。まだ夢の中なのだろうかと思ったが、目を開くとそこには見知った顔があるから夢ではないことに気づく。


 俺は体を起こして布団から出る。そして、制服を着たに声をかける。


「なあ、明里あかり。俺は高校生になってもお前と一緒に登校しないといけないのか?」


 俺の幼馴染、鬼頭きとう明里は大して大きくもない胸を張ってニッコリと笑う。


「幼馴染なんだから一緒に登校するのは義務でしょ?」


 当然とばかりに間違った情報を言う幼馴染に俺は溜息を吐く。


「どこの法律にそんな頓珍漢な義務が記載されている。それより着替えたいから部屋から出てくれ」


 俺がそう言うと明里は何か思いついたかのように手を叩いてから口を開く。


「私が手伝ってあげるね、お兄ちゃん!」


「だから、俺はお前のお兄ちゃんじゃない。幼馴染だ」


 鬼井おにい家と鬼頭家は家が隣同士で両親同士も仲が良い。そうなれば自然と子供は一緒に行動させられる。俺たちは物心がついた時から一緒にいた。だから、異性として明里を認識するのに少しの遅れが生じたのだ。


 俺の様子を見て明里はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる。


「あれ、晴人。もしかして、恥ずかしいの?」


「ああ、恥ずかしいよ。こんな変態な幼馴染を持っていることが」


「誰が変態よ!」


「お前だよ。ったく、マジで早く部屋から出ていけ。学校に遅れる」


「さっきまでぐっすり眠っていたのによく言えるよね。私が起こしに来なかったら完全に遅刻だったよ」


「それは学校に遅刻しなかった時に言う台詞だからな。その台詞を学校で言いたいなら早く出ていけ」


 流石に遅刻させるのはまずいと思ったのか明里が部屋を出ていく。俺は安堵して制服であるブレザーに着替える。中学は学ランだったから新鮮で自分の制服姿は気に入っている。立てかけてある鏡でネクタイの形を整えていると明里がまた部屋に入ってくる。


「準備遅い。ノロマお兄ちゃん」


「誰がノロマお兄ちゃんだ。俺はノロマでもお兄ちゃんでもない!」


 朝の準備を終えてから俺が家を出ると明里が言う。


「ナルシストお兄ちゃん。徒歩だとギリギリだから私を自転車の後ろに乗っけて」


 既に明里はスカートをふわりと広げて自転車の後ろに跨っていた。


「仕方ねえな」


 俺は苦笑して自転車に二人乗りすることを決めた。








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