この世界の魔法は詠唱で成り立っている
北條院 雫玖
第1話 プロローグ
この世界は魔法が全てだ。
日々の生活をするにも魔法が全てを物語っている。
この世に生を受けたものが、最初に教わるのは言葉ではなく魔法といっても過言ではない。
例えば、料理をするのに必要な火を生み出すには魔法を使うし、重たい物を持ち上げるのも対象物を魔法で軽くして、あまり力を使わずに楽々と持ち運ぶ。自分の手が届かない遠くにある物を取るにしても、そこまで行くことはせずに、魔法を使って自分のところまで引き寄せる。喉が渇いた時に飲む水も魔法によって生成させるし、居住している室内の温度調節も全て魔法。
更に、身体に外傷や内傷を負ったとしても病院で治せる。でも、怪我の症状によっては完治するまでにはそれなりの時間はかかる。
移動もそうだ。
この世界の人々の主な移動手段は空を飛ぶことである。
これにより、どんなに遠いところでも地上を歩くよりも格段に速く目的地まで行ける。
この世界の人々は魔法が使えるのは当たり前で、人々の生活は魔法によって成り立っているのだ。
だけど、魔法が全てとは言ったがそんな魔法も万能ではない。
天候や時間軸を操ることは出来ないし、全くない状態から物質を作り出す事は出来ない。
例えば、人々が料理に使う食材だったり、建物を建築するのに必要な部品。家具に道具。野原に咲く葉っぱや木々に動物等など。
自然界に身を置く者だったり、何かの材料を加工して作るものはいくら万能な魔法であっても創り出すことは出来ない。
無に対して魔法は使えない。
何かしらの対象を指定して使う必要があるのだ。
では、その魔法を使うには一体どうすればいいのか?
この世界の大気中には魔力が豊富に含まれているので、それを媒体にして魔装具と呼ばれる専用の道具に魔力を媒介させる必要がある。
次に、魔法の対象となるものを指定する。
対象を指定出来たのならば、今の状況に応じて使用したい魔法を想像した後、言葉を発して詠唱をして最後に魔法名を言うことだ。
大きな声で叫ぶのも良し、誰にも聞こえないぐらいの小さな声で呟くのも良し。
重要なのは、対象を指定した後、自分が想像をした魔法に対して連想出来る言葉の選び方だ。
この言葉選びこそが、この世界における魔法の詠唱という概念である。
何でもいい。
空を飛びたいのならばこう言うだろう。
『大気の風よ。我が身を
屋外に出ていたら、急に寒くなってきたので体を温めたい状況ならばこう言うだろう。
『出でよ炎。大気を熱し、我が身を
友人と口論になり、話の途中で相手が逃げたので魔法で相手の動きを封じてやろうと考えたのならばこう言うだろう。
『凍てつく氷は汝の足枷。
自分の姿を他者から見えなくして、悪だくみを考えたのならばこう言うだろう。
『透過し、見るもの全てを幻惑せよ。幻影。
これらはあくまでも一例であって、使用者によっては言い回し、つまり詠唱が違ってくる。
また、連想される言葉。すなわち詠唱がより長く、より強い連想力を生み出すことが出来れば、それに比例して魔法の威力は膨大に増加する。
これらの魔法は、大気中に含まれている魔力を媒体にして、魔装具と呼ばれる道具に魔力を媒介させるので、使用者は自身の体に何の負担を強いられることがない。
故に、使用者は自身の身体に負荷をかけずとも魔法を詠唱することが出来る。
但し、これには条件がある。
魔法の使用者は、魔装具と呼ばれる専用の道具を常に持ち歩いて生活をしている。
魔装具は、一般流通している量産品から個人に合わせて作った特注品などで姿形が様々で、持つ人の好みで決まる。
これらの魔装具の内部には魔力弾倉と呼ばれる個所があり、そこに詠唱した魔力を装填させた後、魔弾として魔力を撃ち出す仕組みとなっている。魔法を詠唱するのに必要な魔弾は一発で、魔力弾倉は魔装具ごとに装弾数が異なる。
魔力弾倉が空になると魔力切れとなり、一切魔法が使えなくなるため、その都度魔法を詠唱して魔力弾倉に魔力を装填する必要がある。
だけど、魔力弾倉が多ければ多いほど、最大弾数まで装填するのには長い詠唱を余儀なくされる。
加えて、魔力弾倉が空になった状態でないと魔力を装填出来ない仕組みになっているので、それ以外の状況では魔力を魔力弾倉に装填することは出来ない。
これら複数の要素が揃ったときに、初めて魔法を使うことが出来るのだ。
この世界には、無限とも言えるほどの魔法の種類が存在する。
しかし、基本となる魔法は全部で四種類。
日常生活を送るのに必要不可欠な「生活魔法」
敵対する者を攻撃する「攻撃魔法」
敵対する者から自身や身の周りの人を守る「防御魔法」
怪我や病気を治療する「医療魔法」
生活魔法に使用される魔装具は誰でも簡単に入手が可能な上に、魔力弾倉の装弾数が極めて多く、一度詠唱をして魔法を発動させてしまえば魔装具が詠唱を記憶して、詠唱せずとも魔力弾倉が空になるまで同じ魔法を使い続けることが可能。
対して、「攻撃魔法」「防御魔法」「医療魔法」に関しては魔装具の構造が同じでも仕様が異なるため、使用条件を満たした者にしか所持が出来ない上に、魔装具に詠唱を記憶させておくことが出来ない。
また、魔装具を持てる数は一人一個までと言う制約がある。
特に医療魔法に関して言えば、専門の知識が必要となってくるので、使用条件を満たすことは困難を極める。
攻撃魔法と防御魔法の使用条件を得るには、三種類の方法がある。
魔闘士となり魔闘士協会に所属をする。
魔法警備隊に入隊をする。
個人で所有している身分証を魔法警備隊へ提示して、使用許可証を発行してもらう。
魔闘士とは何か?
魔闘士とは、この世界、「アストリーディング」における武闘家の総称であり、彼らは魔法を操ることに長け、魔法を用いた戦闘に特化した強者。また、彼らが扱う魔装具は、各々の戦闘術に合わせて専門家に製造してもらった特注品。
己の人生の全てを注ぎ、魔法の扱いや戦闘方法を追求する戦闘狂。
彼らは、己の技を競い合い、各都市で定期的に開催される決闘で勝利し、実力と名声を上げることを生きがいとしている。
また、魔法警備隊の目が行き届かない所で起こった事件の鎮圧及び、犯罪者を拘束する権利も持ち合わせていて、町の外へ行く者の護衛を務めることもある。
魔法警備隊とは何か?
魔法警備隊とは、この世界、「アストリーディング」の法律を守る軍隊の総称である。
魔法警備隊失くして、アストリーディングの治安を保つことは不可能に近い。
町の外は数多くの危険が潜んでいるため、町の外へ行く者の護衛をするのも任務だ。
彼らは日々の訓練を怠らず、アストリーディングの秩序を保つために各都市の警備をすることに注力している。
だが、彼らとてアストリーディングで起こる全ての犯罪を阻止することは出来ないため、魔闘士協会に犯罪者の鎮圧の協力を仰いでいる。
アストリーディングでは、十五歳になると成人の証として個人に身分証が発行される。
魔闘士と魔法警備隊に属さない一般市民は、自分の身を守るために攻撃魔法と防御魔法の使用許可証を発行してもらうことが大半である。
特に、商業を生業としている者は町から町へと行商を頻繁に行うため、その途中で誰かに襲われた時に攻撃魔法で相手を威嚇したり、防御魔法で外敵から積み荷や自分の身を守るために使用する。
しかし、彼らは魔法での戦闘が未熟なため、行商に行くときは魔法警備隊か魔闘士に護衛を依頼することが多い。
医療魔法の使用条件を満たすには、医療系の学問を学ぶ学府に入学し、取得過程を合格した後に医療魔法会から使用許可証を発行してもらう。使用される魔装具はどれも特殊で、その道の専門家でないと扱うことは不可能。例え専門家の真似をして同じ詠唱をしたとしても魔法は発動されない。
取得過程に合格した者は医療魔法会に所属をして、アストリーディングに住まう者たちの健康を担い、病気や怪我で苦しんでいる人々を救い、日々医療魔法を向上させる研究を行っている。
ある者は、実力と名声を求めて魔闘士へ。
ある者は、秩序を保つために魔法警備隊へ。
ある者は、人々の健康を担い医療魔法へ。
ある者は、富豪を夢見て商人へ。
アストリーディングに生を受けた者は、それぞれが持つ夢や理想を追い求めて日々の生活を過ごしている。
時は魔法暦四千年。
ここ、アストリーディングでは、北西のミレット、北東のデネブ、南西のカウス、南東のレーメル、中央のアルスデットの五大陸で構成されている。
五大陸の中央に位置するアルスデット大陸には、王都ケフェウスという大都市が存在して、アルスデット大陸の中でも最も繁栄している大都市でもある。
この都市に複数ある大病院の中でも最も有名なゼネバ大病院にて、ある一組の夫婦の間に新たな生命が誕生しようとしていた。
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