第38話 奸計に堕ちる
数分前、神殿内でゴーレムとの戦闘を再開する万有とミトラ。
万有の持つ『斥力刀』は『斥力弾』と原理を同じくし、切り傷をつけるとそこから相手の体を真っ二つに引き裂く効果を持つ。
しかし、万有が刀でゴーレムを斬りつけるも傷がつくことは無かった。
(無傷の状態じゃやっぱしんどいか……どこかにヒビが入ってくれさえすれば、そこに斥力を付与して終わりに出来るんだが)
万有の意図を察知したミトラ、両手を交差させてモンスターを召喚する。
「混合獣・ソニックパイルグリズリー!」
現れたモンスターは、両手に杭を携えたシロクマの様な見た目をしていた。さらに背中から大きな白い翼を生やしており、熊はその翼をはためかせてゴーレムに突進する。
ゴーレムに接近したところで拳に腹を貫かれる熊だったが、口から血を吐きながらもゴーレムの胸めがけて杭を突き出し、それが当たると大きな爆発音と共に辺り一帯に少量の破片が散らばる。
熊が消滅して爆発の煙が晴れると、万有はゴーレムの胸に大きなくぼみが出来ている事に気付く。今にも埋まりそうなくぼみに突きだした万有の剣は見事、くぼみが埋まりきる前に突き刺さる。
剣を刺されたゴーレムは下半身と上半身が分断され、上半身が地面に落ちると下半身は力なく地面に倒れる。
「ゴーレムの心臓は首元にあり、そこ以外は斬られても問題ない。つまりこうして両断すれば、殺さずに動きを封じれるわけだ」
「でも、下半身再生しないのらか?」
「問題ない、切断面に下半身の再生を阻害するよう調整した斥力を付与しておいたからな」
「なら安心のらね。じゃあ万里さんの所へ加勢に――」
突如、ミトラは目を見開いて息を飲む。
「どうした?」
「ば、万有……あ、アレを見るのら」
「あ? いまさら何も起こりようが――」
万有が見た方向には、ゴーレムの上半身があるはずだった。しかし今見ると、そこにはゴーレムの代わりに細かい小石が大量に散らばっているだけだった。
「……バカな! 死んだのか!? 刀は確かに心臓の遙か下を通ったはず!」
「万有の情報は間違って無い、なのにどうして……」
「わざと脆弱に作られてるからですよ、そいつは」
二人が顔を上げると、大量の小石の中に足を突っ込む1号がいた。
「1号! そうか、お前は斥力で吹っ飛ばしてなかったな」
「一部始終、見させて頂きました。やはり貴方は脅威だ、ゴーレム以外の手下全員に能力の適応を施しておいて正解でしたね」
「どういうことのらか! わざと脆弱に作られてるって!」
「既にヒュドラ起動に必要なエネルギーは集まってるんですよ、ゴブリンから採取した分でね」
「……なんだと?」
「ですがあくまでも集まっているのは必要最低限。最大パフォーマンスを発揮するには、もう少しエネルギーが必要なんです。ですがスライムのように、蓄えたエネルギーごと消滅されては困る」
「だから耐久値を低くしたって事のらね……全力を出そうとするアタシ達の意気込みを利用して、確実にエネルギーを回収するために!」
「おかげさまで欲しい物は手に入りました。エルフの様子も見に行かなきゃならないので、私はこれで」
「待て!!」
後を追いかけようとするミトラの前にフラッシュバンを投げる1号。閃光を浴びたミトラは視界が真っ白に染まり、耳も聞こえなくなってうずくまる。
視界が晴れて聴力を取り戻した頃には既に1号は姿を消しており、ミトラは太ももを叩いて悔しがる。
「万里姉が心配だ、追うぞ」
「……言われなくても!!」
◇ ◇ ◇
そして時刻は現在へ戻り、万有から話を聞いた万里はより一層落ち込んでいた。
「じゃあなおさら私が失敗したらダメじゃん……」
「こればっかりはどうしようも無いですし、たとえ正しい未来を見れたとしても結果は変わりませんよ」
「……」
「それに、貴女は決して事態を悪化させたりなんかしてません」
「……本当?」
「ええ。俺じゃあエルフの相手は務まりませんでしたし、そもそも貴女と会わなきゃ俺は斥力を使えませんでした。貴女は立派に元S4としての格を見せましたよ、万里姉」
「!! よ、よかった……!」
表情を明るくし、万有に抱きつく万里。その様子をミトラは微笑んで見ていた。その傍ら、1号は殴られた箇所を擦りながらゆっくり立ち上がる。
「あーあ、立ち直ってしまいましたか。まあ、久々に人の泣き顔を見られたので良いです」
「つくづくアンタは性悪のらね」
「本来なら貴女もこうなるはずなんですがね。残念です、私は貴女と一緒に誰かを泣かせて笑い合いたかったのですが」
「減らず口を。もう一発喰らいてぇのらか?」
「それは御免被りますね。貴女の一撃、骨の髄まで響きましたし。こんな風にね!!」
突如ミトラに殴りかかる1号。ミトラは冷静に1号の拳に肘打ちを当て、よろけた1号の腹に膝蹴りを入れ、トドメに鋭い右フックを入れて殴り飛ばす。
「アンタが研究所でぬくぬくしてる間に、アタシは数百体のS級モンスターと戦ってたのら。そんなアタシが、アンタ如きに後れを取る訳がねぇのら」
「研究所でぬくぬく、ねぇ。ハハハ、間違いない。しかしねえ、ぬくぬくしながら手札を増やせたら、その方が良いでしょう」
1号が指を鳴らすと、1号の頭上に首輪を付けた一羽のグリフォンが現れる。通常種と同じ色をしたそれに、一同は大層驚く。
「……思い出した! そのグリフォン、確か6人の中で唯一グリフォンの討伐に成功した3号の所有物のらね?」
「ご名答。組織は廃棄済みの被検体から能力を抽出し、私に使い捨ての能力として持たせてくれました。研究所では私と同じく適応を付与できる2号の、そして今は3号の能力を使ったのです」
「そう言うからくりだったのらね……」
「説明を終えたところで私は退かせてもらいます。もう用は済んだのでね」
グリフォンに飛び乗り、体毛を掴んでグリフォンを明後日の方向へ飛ばす1号。
「追いかけるのらよ、万有!」
「当然!」
両手を交差させてグリフォンを召喚するミトラ。地上に降り立って姿勢を低くするグリフォンに乗り込んだ万有とミトラは、ミトラの合図で飛び立つグリフォンの体毛に捕まる。
その場に取り残された万里は、座ったままグリフォンが飛んで行った方角を見つめる。
「……頑張れみんな」
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