第18話 特異体スライム(2)
飛行船に乗り込んだ万有は、依頼の担当者だという『ジン』という男から、依頼について客室で様々聞いていた。
「――じゃあ、犠牲者の存在を確認するまではただの変異体として依頼を扱ってたって事か?」
「ええ、そうなります。あまりにもあり得ない色だったので、フィルムが故障したのだとばかり」
「……まあ、初見じゃそう思うよな。特級認定がおくれるのも無理はない」
「ですが、判断がおくれたせいでD級4名、C級2名の犠牲者が出てしまったのは事実です。個人で活動してた転生者故に謝る先もありませんが……」
「思うだけで十分さ。ただそれ以上の事がしたいってのなら、俺が奴を倒した後に墓を建ててやることだ」
「そうさせて頂きます」
「聞きたいことはこれで最後だ。忙しいのに時間取っちまってすまないな」
「いえいえ、これが我々の仕事ですので。では失礼します」
客室から退室するジン。一人きりになった万有は、ベッドの上に寝転ぶ。
(どうも落ち着かない……一人で討伐に行くのなんて、ちょっと前までは平気だったはず)
忙しなく寝返りを打つも落ち着く姿勢が見つからず、最終的に諦めて大の字になる。
(あぁそうだ。グリフォンと戦ったときの、あのミトラの騒がしさが恋しいんだ。仕事じゃないから仕方ないと割り切れないし、どうしたものかな)
万有の狩りには常に誰かが同行していた。しかし彼等がする話の中心に万有がいた事は無く、つねに孤独を感じていた。
その孤独こそ当たり前だと断じていた。しかし「気を許す仲間との狩り」の味を知ってしまった万有には、仲間のいない狩りの寂しさが堪えるようになってしまったのだ。
(碧のランク、どれくらいなんだろうな。特級の依頼を持ってこれるんだからS級には踏み込んでそうだが……なら、一緒に来いと言えば良かった)
その時、客室のドアが開く。
「まもなく降下ポイントに到着します! 準備を!」
「……おう、わかった」
壁のフックに立て掛けたローブを羽織り、万有は客室から甲板へ出る。そんな万有の目に飛び込んできたのは――巨大なゲル状の紫色の化け物が、はるか遠くでうごめいている光景だった。
「んだアレ? スライムって大きくても3mが良いとこだろ、少なくともアレ50mはあるぞ」
「ええ、我々もこの風景を映した写真を見たときは目を疑いました。実際に目の当たりにしても尚、これが現実か疑わざるを得ません」
「デカさだけでもS級に食い込めそうだ。問題は攻撃手段が豊富かどうかだが……」
刹那、はるか遠くから触手が伸びる。触手は飛行船の船体を大きくえぐり、その影響で甲板が大きく揺れる。
「遠距離攻撃だと!? 馬鹿な、スライムが出来る事ってせいぜい体当たりと丸呑みしかないはずだ!」
「船体30%損傷! 高度、維持できません!」
(破壊力も相当だ。最弱のスライムがここまで強くなるのは、もはや突然変異の域を優に超えている!)
「もう一撃、来ます!」
再びスライムは飛行船に触手を飛ばすが、船首に当たろうとした瞬間に軌道が逸れ、船体に当たるスレスレを通り過ぎる。
「安心しろ、船体周辺の重力を変えてもう奴の攻撃が当たらないようにした。俺は今すぐ戦いを仕掛けに行く、お前達は何とか被害が最小限になる方法で不時着してくれ」
「わ、分かりました! ご武運を!」
万有は船から飛び降り、浮遊しながらスライムの方へ向かう。スライムは即座に万有の存在を察知し、触手を飛ばす。それもまた万有に当たる事無く軌道が逸れるが――
「……なんだと?」
触手は徐々に万有の体に近づいていき、やがて触手は万有の体を思いっきり叩いて右に吹き飛ばす。
即座に重力を変えて速度を緩めるも、万有は驚いたように目を丸くしたまま動けずにいた。
(重力を突破した? 馬鹿な、S3モンスターでも不意打ち以外で俺にダメージを与えることは出来なかったというのに)
スライムは再び触手を飛ばす。今度は両手を広げてそれを受け止めようとするも、触手は重力を無視して万有の腹部に衝突する。
浮いたまま一回転し、ぐったりとする万有。次に万有が姿勢を正したとき――その表情は、歓喜に満ちあふれていた。
「スライム如きに、命の危機を感じるほど追い詰められるとはな……このままじゃS4の名折れだ、本気で行かせてもらう」
次の瞬間、万有は2秒間『コスモ』を展開する。短時間ながら星空の中に囚われたスライムは、すぐさま上からグチャグチャに押しつぶされる。
しかしスライムは5秒足らずで元の形に戻り、再び触手を万有に向けて射出する。万有は身を翻してそれを避け、右手を振り下ろす。しかしスライムの身に何かが起きることはなかった。
(今わかった、コイツには適応能力がある! そうじゃないと説明がつかない状況が立て続けに起こっている。だがこんな能力、自然発生したモンスターが持ってて良い代物じゃ――)
その時、万有の気が逸れた一瞬の隙を突かれ遠くから飛んできた大きな拳状のゲルに飲み込まれてしまう。
そのままスライムの手元に手繰り寄せられ、体内に取り込まれる万有。しかし間もなく――スライムの体は真ん中から裂け始める。
やがて完全に真っ二つになって分かれたスライムの体内から出てくる万有。そんな万有の右手には、一丁の拳銃が握られていた。
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