第13話 選ばれた者(1)
「碧!!」
痛みに顔を歪ませる碧。しかしすぐに不敵な笑みを浮かべ、碧は再びククリナイフを振り上げる。
「何をやってるのら!? その鎖をそれ以上叩くのは――」
「問題ない。次は『当てる』」
振り下ろしたナイフが鎖に当たると、今度は鎖が看板ごと弾けて消滅する。それと同時に皮膚の裂傷も完治し、碧の体が赤いオーラに包まれる。
「くぅ~っこれだよこれ! 『当たり』を引いた時の高揚感と全能感! これを何度も味わうために私は冒険者やってんだよ!」
「これが、碧の能力のら?」
「そうさ! 『当たりを引くと強くなる能力』! この能力の解釈を広げに広げまくって、『攻撃時20%の確率で出る大当たりを引くと身体能力と自然治癒力が大幅に高まる』ようにしたのさ!」
「意外と確率高いのらね」
「『外れ』を引いちまうとあんな傷を負ってしまうんだがね」
「傷を負ったのは鎖の効果じゃないのらね」
「ちと紛らわしかったね。鎖自体は安全っぽいから、恐れずに行こう」
ミトラは頷き、碧の前に出て洞窟の中へ入る。洞窟内は曲がり道が多かったものの、碧の誘導とフォローのお陰でミトラは無傷で最奥付近まで到達することができた。
洞窟の最奥には1枚の鉄扉があり、大きな南京錠によって厳重に封じられていた。
「ここで玄武を最初に見つけた人は、こうまでして玄武による被害拡大を阻止したかったのらか」
「それより聞こえる? 扉の向こうで、その玄武とやらが足踏みしてるぞ」
「確かに、ズシンズシン聞こえるのら」
「音と振動から察するに、かなりの大物とみた。本当に君、一人であいつを倒すつもり?」
「ここまで来といて今更引き下がれねぇのらよ」
「そりゃあそうだ。そんじゃこの錠前を壊したら私は離れてるから、存分に決着を付けてくると良い」
ククリナイフを手に持つ碧。『覚醒』と一言唱えてからナイフを振り下ろすと、南京錠は真っ二つに割れて地面に落ちる。するとたちまち碧の前身を赤いオーラ包み込み、その勢いのまま鉄扉を蹴り破る。
「大いなる1歩、踏み出してきな」
碧はミトラの背中を叩いた後、四歩後ろに下がる。ミトラは浅く一礼し、さっきまで鉄扉があった入り口から中にある大空洞へ足を踏み入れる。
◇ ◇ ◇
薄暗い大空洞の奥には巨大なモンスターが佇んでおり、そのモンスターは亀の胴体に長い首、そして龍の頭を持っていた。
その首は空洞の天井にまで届くほど長く伸びており、玄武は己より50倍も背が低いミトラをジッと見下ろしている。
(デカい! 甲羅だけでもアタシ20人分寝ても余るレベルの大きさがあるのら。あれにヒビが入る光景なんて、想像出来ないのら)
玄武への恐れで足が動かない事に気づいたミトラは、目を閉じて出発前に万有から掛けられた励ましの言葉を思い起こす。
『お前ならやれる。それはこの、吉野万有が保証しよう』
再び目を開け、玄武に向けて歩き出すミトラ。
「……いやいやミトラ・ハル。コイツ如きにビビってたら、ヒュドラなんか倒せるはずないのらよ。それにアンタはいろんな人に『選ばれた』人間だ、それを忘れるんじゃないのら」
両手にエネルギーを集め、胸の前で腕を交差させるミトラ。ミトラの背後には、薄くグリフォンの影が現れる。
「村のみんな、万有、そしてバウムクーヘン屋の店主。アタシを選んでくれた皆のために……勝つ! 『グリフォン』!」
ミトラが思いっきり両手を突き出すと、ミトラの背後から一匹のグリフォンが高速で通り過ぎる。グリフォンは玄武に突進して甲羅にくちばしを突き立てようとするも、あまりの硬さに弾かれてしまう。
グリフォンは直角に飛んだ後、きりもみ回転をしてミトラの元へ飛んで行く。ミトラはそれをみて高くジャンプし、グリフォンの背に乗りこんで体毛を掴む。
その後グリフォンは高度を上げ、上空から玄武の様子を見始める。
(まあ、この程度で傷も汚れも付かないのは想定内のら。体長9mの巨鳥による突進とはいえ、甲羅を破壊する為にはもう何回か同じ事をやる必要がありそ――)
刹那、ミトラは玄武と目が合った。直後玄武は強く足踏みをし、大空洞全体を大きく揺らす。すると天井の一部が音を立てて崩れ、一つの巨岩がミトラの頭上から落下を始める。
「まずい! グリフォン、突風!」
巨岩の方を向き、羽を大きく前方に振るグリフォン。巻き起こった風は巨岩を粉々にし、その破片はグリフォンを裂けるように地面に落ちていく。
(こんなワザ、もう一回されたら洞窟が崩れて生き埋めになるのら! 細かい分析は後にして、体当たりを繰り返してヒビを入れるしかねぇのら!)
毛を引っ張り、再びグリフォンに突進を命じるミトラ。玄武も首を伸ばしてグリフォンに噛みつこうとするも、軽々交わしたグリフォンはそのまま甲羅に体当たりをする。
突進し、真上に飛び、急旋回して再び墜落。甲羅の状態を確認しようにも、ミトラはグリフォンにしがみつくのに必死だった。
(掴む手を緩めたら振り落とされる……なのに、もう手の感覚が無いのら! 体毛から手が、今にも離れそうのら……!)
手から血が出るほど毛を強く握っていたミトラ。しかしグリフォンが飛び上がり、八回目の突進を行った次の瞬間――
グリフォンは、青白い光を放って消滅した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます