第5話 恵美と愛実

(恵美と愛実)


 愛美の部屋は、この母屋の二階部分すべてであり、そこは俊之介と真理が結婚したときに増改築された二人の新居だった。


 それゆえに、二階の部分は広く、二十畳くらいのリビングに、大きなダブルベット。それにバス・トイレ・レストルーム・小さなキッチンまで備えられていた。


 そして、今もこの部屋は二人がパリに出かけた日のままに保たれていた。

 当たり前の話だが、愛美は一人この部屋を自由に使っていた。


 そして恵美がこの家に泊まるときには、愛美が小さなときから、大きなダブルベットで一緒に寝ることにしていた。

 愛美一人では、この部屋はあまりにも寂しすぎると思ていのかもしれない。


 愛美にとっても母の温もりを感じさせる恵美は、母そのものだった。

 しかし愛美が成長した今でも、一緒のベットで寝ているくらいだから、恵美は愛実にとって母以上の存在になっていた。


 恵美は、今日も風呂上がりの濡れた髪をタオルで乾かしながら、二階の愛美の部屋に上がってきた。


 愛美は、すでにパジャマに着替えて、ベットの中に入っている。


「アミ、早くお風呂、入んな。まだでしょう?」


 恵美は、そう言うと、鏡台の前に座りドライヤーとタオルで髪を乾かし始めた。

 ドライヤーの音が、静かだった部屋にこだました。


「………、もう入った!」

 愛実の返事………


 でもそのあと、いきなり恵美の背中からお腹に手を回して、愛美が抱きついてきた。


「お姉さん、いいでしょう。あれやって―え?」

 愛美は甘えた声で、恵美に迫った。


 あれとは、ここ最近、恵美が泊まりに来るたびに、何かにつけ、おねだりして迫っていることだった。


「駄目よっ! そんな……、とても出来ないわ」


「どうして、女同士じゃない……」


 愛美は、お腹に回していた手で恵美のパジャマのボタンを外そうとした。


「だ―めっ!」

 恵美は、ドライヤーを持ちながら、慌てて脇を締めて愛美の手を押さえた。


「恵美お姉さん……」

 愛美は抱きついたまま、も一度、甘い声を出して囁く。


 愛実は、恵美の体の柔らかな感触が、自分の体をむずかせて、ほてってくるのを気持ちよく感じていた。


「う―んっ、アミちゃんだって裸になって見られたら恥ずかしいでしょう?」


「そんなことないわー! お姉さんなら、ぜんぜん平気よ!」


「それなら、見せてちょ―うだい!」


「いいわよっ!」


 愛美は、恵美から離れて、部屋の中央まで下がった。

 恵美は、そのまま回転椅子を回して、愛美と向かい合った。


「さ―あっ、脱いで見せて―!」


「いいわよ。お姉さん、いつも見てるじゃない……」


 愛美は、そう言いながらも、突っ立ったまんま動かなかった。


「見えると見せるのでは、ぜんぜん違うわよ。さ―あ、見せてごらんなさいっ!」


「いいわよっ!」


 けしかける恵美に、そう言ったものの、やはりじっと見られていると意識してしまい恥ずかしい。


 しかし、これでひるんでは恵美の思うつぼ。


 愛実が恥ずかしさで、裸になれないことを見透かしている。


 愛美は、お姉さんだから大丈夫と、心の中で何回も呟きながら、パジャマのボタンを一つずつ外した。

 それで、勢いよく一、二の三で大きく上着を開らいた。


「ど―うっ、……?」


「う―んっ、なるほどなるほど、それから?」

 恵美は、愛美をじっと見据えてから言った。


 愛美はゆっくり上着を脱ぎ、ベットの上に投げた。

 そして、ズボンとパンツを、両方に手をかけ、少しためらってから……


「えい、やー」と一気にくるぶしまで下した。


 そして、してやったりと恵美の顔を見ながら、足先を使ってパジャマとパンツを脱ぎ捨てた。


「ど―うっ、……」

 愛美は、誇らしげに、右足を少し前に出して腰に手を当てて胸を張った。


「う―うっ、なかなかいいわよ。かわいいわ……」


「今度は、お姉さんの番よ!」

 愛美の心臓はどきどきしていた。


「まさか本当に脱ぐとは思わなかったな―」と、恵美の心臓もどきどきしていた。


「こんなこと、たいしたことじゃ―ないじゃん。お姉さんの番よ!」

 愛美は強がって言った。


「う―うっ、……、そうね。アミちゃんに先に脱がれちゃったらしょうがないわね―」


 恵美は、覚悟を決めたのか持っていたドライヤーを置くと、裸の愛美を見ながら、パジャマの上着とズボンをすばやく脱いで愛実の前に立った。


「ど―うっ、……脱いだわよ!」


 愛美とは比べようがない、大人の体がそこにあった。


「お姉さん。凄く奇麗よ……」

「アミちゃん、こそ……」


 お互いを誉めあいながら恵美は、愛美を鏡台の方え突き放した。


「しょうがないな―、さ―あー、どうすればいいの?」


「本当っ!モデルやってくれるの?」


「も―うっ、脱いじゃってるから、そう言うことねー」


「お姉さん、ありがとう!」


 愛美は裸のまま、恵美の気持ちが変わらないうちに、急いでイーゼルと椅子とキャンバスを恵美の前に用意した。


「取りあえず、立ち姿。そのままでいいわ……」


「このまま立っているの?」


「そうよ。力抜いてね。自然にね……」


「何か、疲れるわー」


「そうよ、モデルの仕事は大変なのよー」

 愛美は、わかったようなことを言いながらスケッチを始めた。


「でも、私まで裸になるとは思わなかったけど……」


 愛美は、宿願だった恵美の裸婦が描けるとあって、最高の入学祝いになったと思っていた。


「でも、アミちゃん。どうしてまた、裸が描きたいの。男子なら興味を持っても不思議ではないけど……」


「でも私、女でよかった。男だったらお姉さん絶対に脱がなかったでしょう―?」


「わからないよー! いい男だったら、その気になちゃうかもよ―」


「え―お姉さん、その気って何の気……?」


「そんなことより、どうして裸が描きたいの?」


 愛美は少し真面目な顔で答えた。


「最初は、レイをモデルにして描いていたんだけどね―」


「え、あなたたち、あれからずっと、あんなことして描いていたの?」


 恵美は驚きながら、目線を愛実の少し膨らんだ胸に向けた。


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