第9話
「ヤル気満々だったのにね。あほだよね。あはは」
すべったような笑いが耳に響いた。本当なんだと気持ちが重くなった。
「葵、ごめん」
「ソウのせいじゃないじゃん」
「そうだけど」
「もしかして、今のダジャレ?」
「違うよ」
葵の笑い声が無理やりな気がして、心が痛んだ。暗い話を続けるべきではないと思ったが、止められなかった。
「あの頃、俺、いろいろ余裕がなくて・・・ほんとごめん」
「いいよ、もう。昔のことじゃん」
昔のことと流されるのは、怒られるより辛かった。
「そうだけど・・・」
葵を含め、周囲の者たちが名の知れた会社から内定をもらい続けているのに、いつまでも就職が決まらなかった。
いま思えば、有名企業や話題のベンチャー企業を手当たり次第に受けていた自分に問題があるとわかる。しかし、あの頃はそうは思えなかった。運が悪いだけとしか思えなかった。自分だけ努力が報われないとひねくれて、捩れていった。
周囲と距離をとり、慰めてくれる葵さえ、激しく突っぱねた。
みじめだった。それまで一緒に歩いていたのに、ゴール前で急において行かれた気がした。許せなかった。葵は何も悪くないのに。
そして、周囲の者に何も言わず、地元での就職を決めて東京を離れた。
葵が落ち込んでいると教えてくれる友達もいたが、誰にも連絡を返さなかった。
それまでは何事も人並み以上に器用にこなしてきた。それが初めて躓いた。躓くと案外弱い自分が認められなくて、誰にも見られたくなくて、田舎に逃げ帰った。
今でも昔の友達には会いたくない。
でも、葵にだけは謝りたいと思っていた。おばあさんの「へばりつく」という言葉で一番に浮かんだのは、葵の笑顔だった。
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