第38話 俺の相手は?
俺たち5人で、訓練所を訪れてみることにした。
訓練所は1階〜4階。
まずは1階ロビーの左側通路の先に、基礎体力トレーニングや筋トレが出来るジム。
次は2階、各武器の訓練が出来るジム。
続いて3階、魔法の試し撃ちが出来るジム。
そして4階に、模擬戦が出来るジムとなっている。
1階から順に見ていき、自分の希望するジムがあったらそのまま居座る感じで。
1階の基礎体力トレーニングと筋トレが出来るジムは、ママンさんの希望を叶えて余りある最高の設備となっている。
筋トレジムに入ると、さまざまな機具が設置されており、近づくと筋トレ案内音声が流れる。
〈こちらの機具はベンチプレスです。バーベルを使い、大胸筋・三角筋・上腕三頭筋を鍛えます。機具の使用法をご覧になる場合は、機具左側のプレートにネームブレスレットを近付けて下さい。〉
機具左側を見ると、台の上にプレートが設置されていて、『ベンチプレス 使う ここ』と書いてある。
ブレスレットを近付けてみると、ピッという音と同時に、頭の中にベンチプレスの使用法が流れ込んでくる。
ものの2秒程度で、ジムトレーナー以上のベンチプレス知識者になれた。
ジム内は全てが破壊不能オブジェクト扱いだから、怪我の心配もないし。これなら、ママンさんを1人にしても大丈夫だろう。
早速ママンさんはベンチプレスの使用法をマスターして、大喜びでトレーニングを開始した。
ママンさんを残して、俺たちは2階へ。
2階は各武器の訓練を目的としたジムで、中に入ると武器案内音声が流れてきた。
〈ご希望の武器を仰って下さい。途中、武器の変更をご希望の場合は、壁に設置されたプレートにネームブレスレットを近付け、ご希望の武器を選択して下さい。〉
「これ、初めは言えば良いのかな?それじゃ、、童子切安綱で。」
俺がそう口にすると、目の前に一振りの刀が現れる。
手に取り抜刀して刀身に目をやると、頭の中に細かな情報が流れ込んでくる。
《酒呑童子という鬼を斬った事から童子切の名がついた。2尺6寸5分(約80cm)の細身の鎬造りで、小鋒/小切先の優美な姿。鍛えは小板目肌(こいためはだ)に地沸が厚く付き、地斑交じって乱れ立ち、地景がしきりに入っています。刃文は小乱に足が入り、金筋がかかり格調高く、安綱の特色をよく表した名刀である。》
、、ふむふむ、なるほど。よく分からん。天下五剣の一振りで名前だけ知ってたから言ってみたんだが、多分本物か本物より上質なんだろ?
素人目でも名刀だと分かる雰囲気というか、、圧を感じるからな。
コレって、お土産に持って帰って良いのかしら?
「じゃあ僕は、片手直剣をお願いするね!」
「私はアロンちゃんでいいやーっ♡」
「私、この階は見学してるわね。」
エチゴさんの目の前に一振りの片手直剣が現れ、それを手にした。
サクラちゃんはアロンダイトに手を伸ばすが、触れる手前で武器案内音声が流れる。
〈サクラ様。ここでは持参した武器は使えません。持参した武器を使用する場合は、4階の模擬戦が出来るジムをご利用下さい。〉
「あっ、そうなんだ〜。じゃあ私も見学するーっ♪ワカバお姉ちゃんっ、おじさんぶった斬っちゃえーっ♪」
「は、、はは。」
アロンダイトを使えなくてストレスを感じているのかな?
《刀訓練の難易度を初級・中級・上級・フリーより選択して下さい。》
と、頭に直接語りかけてくるように声が響いてきた。
エチゴさんにも何か聞こえたようだが、どうやら個別に聞こえているみたいだな。
「んじゃ、初級で。後、母さん達が見学してるから、俺のを2人にも共有してくれるかな?」
《かしこまりました。では刀訓練 初級を始めます。》
「わっ、なんか声が響いてきたーっ!」
「ふふっ♪ワカバちゃんが、私達が退屈しないようにしてくれたのよ。ほら、ワカバちゃんの前に変な人が出現したわ!」
母さんの言う通り、俺の目の前に講師らしき侍が現れた。変な人言われて少し凹んでる感はあるが、、。
《で、では刀の基本的な部分を学んでいこう。まずは構えから。このように正面に持ち、この高さで構える。これが中段の構え。よく使われる基礎的な構えだ。見やすい位置に移動してくれて大丈夫だぞ。》
侍講師は中段の構えをとり、ピタっと止まる。
「ふむふむ。切先を相手の喉元に向ける感じか。こう、かな。」
《そうだ、よく出来ているぞ。ではそのまま、頭上まで振りかぶってみよう。》
「こんな感じ?」
《そう。それが上段の構えだ。攻撃的な構えだが、防御には向かん。剣速・攻撃力に自信がないならやめておくべきだ。》
「なるほど。」
《よし、そのまま振り下ろし、相手の足元に切先を向けるようにして止まる。これが下段の構えだ。》
こんな感じで、八双の構え・脇構え・霞の構えを教わり、構えの部は終わった。
続いて、基本的な攻撃。
真向斬り・袈裟斬り・一文字斬り・逆袈裟斬りなどの8種を教わった。
《刀訓練 初級も残すところ後1つ、実践である。拙者の攻撃を防ぎ、一撃入れられれば合格だ。今回使った刀を合格記念に差し上げよう。では、、参る!》
突如始まった実践訓練だが、初級ということもあり侍講師の動きはかなりゆっくりだ。
侍講師は上段の構えから真向斬りで攻撃してきた。
俺は中段の構えでその一撃を左に逸らし、侍講師の胴に一文字斬りを放つ。
綺麗に入り、侍講師は膝をついた。
《お見事。その刀は君のものだ。大切に使ってくれたまえ。さらばだ。》
侍講師はフッと姿を消した。
《お疲れ様でした。刀訓練 初級を終了致します。続けて訓練を受ける場合は、難易度を選択して下さい。》
「う〜ん。とりあえず今回はここまでにしとくよ。」
《かしこまりました。またのご利用をお待ちしております。》
童子切安綱をアイテムBOXにしまいながらエチゴさんに目を向けると、エチゴさんの方もそろそろ終わるみたいだったので、初級までにしておいた。
「ふぅ。なかなか勉強になったよ。この分だと、魔法ジムの方も期待できるね!」
「ええ、楽しみだわーっ♪」
「あっでも、サクラちゃんはまた見学になっちゃうか。、、もし良かったら、俺とサクラちゃんで先に4階の模擬戦ジムに行っても良いかな?」
「構わないわよっ♪きっと魔法ジムも、ここと似たようなやり方だと思うから、私1人で大丈夫よ。チタマデストロイは模擬戦ジムで見せるわね!」
「ありがとっ♪、、それじゃあサクラちゃん?先に4階の模擬戦ジムに行こう!」
「うんっ!ありがとーねっ♪」
「どういたしましてっ♪」
という事で、サクラちゃんと一緒に4階へ向かった。
4階に着くと、これまでとは違った雰囲気だった。
コロシアムのように、円形の観客席があり、一段低い所に武舞台があるのだ。
どうやら武舞台の上で模擬戦をするシステムのようだな。
武舞台へ続く階段を降りると、模擬戦案内音声が流れてきた。
〈模擬戦ジムへようこそ。こちらでは好きな相手と模擬戦を行えます。ダメージの大きさにより麻痺効果が発生し、全麻痺で終了しますが、終了後に解除されますので安心して麻痺を楽しんで下さい。〉
いや、麻痺しに来た訳じゃないからね!?
〈なお、対戦相手を選択は武舞台手前に設置されたプレートに、ネームブレスレットを近付けて行います。分からない事がございましたら、お声をかけて下さい。ではごゆっくり麻痺って下さいませ。〉
随分と麻痺推しだな。ま、まぁいいや。そんな事より、まずは俺がどんな感じなのかを試してみないと、サクラちゃんに何かあってからじゃ遅いからな!
「サクラちゃん、まずは俺から試してみても良いかな?」
「ええーっ!?私も戦いたかったなぁ。」
「気持ちは分かるんだけどね?もしこれで腕が千切れちゃったりしたら嫌でしょう?」
「うっ、、それは嫌だー。」
「ふふっ、すぐ終わるから、もう少しだけ待っててね!」
「うん、分かった!ワカバお姉ちゃんを応援してるっ!!」
「ありがとっ♪」
俺は武舞台手前に設置されているプレートに、ネームブレスレットを近付けた。
すると目の前にウィンドウが現れ、これで対戦相手を決めるようだ。
ワード検索、ジャンル検索、レベル検索、種族検索などなど、チタマに存在する全てと対戦できるらしい。
、、おっ!コイツが良いか。
俺は決定ボタンを押して、武舞台へと上がる。
武舞台の中央には、既に相手がスタンバっており、胸の前で腕を組み、偉そうにふんぞり返っている。
俺が中央に近づいていくと、その銀髪ロン毛の偉そうな態度の、生意気な中学生くらいの少年が口を開いた。
「ふっはっはっは!!我が誰かも知らずに挑もうとしてるらしいな。冥土の土産に教えてやろう、貴様を地獄に送る者の名を。我の名はアスモデウス・ナ・サタン!98代目魔王より次代の魔王を任された者なりっ!!!」
ふむ。どうやら得意スキルは『ウソ吐き』か『ほら吹き』か、まぁ超小物で相手にする価値もない奴なのは確かだ。
だが、、自分の姉の仇となれば話は別だ。
「なぁ、お前。騙し討ちしといて『次代を任された』って言うのは無理があるんじゃないか?」
「っ!!、、な、何のことを言ってるのか分からんなぁ?」
「まぁ別に、お前が認めようが認めなかろうが、俺は気にしない。お前には、俺に殺される未来しか残ってないんだから。」
俺は背中に装備したダーインスレイヴの柄を握る。それと同時に、魔王の膨大な魔力を可視化して身に纏う。
「な、、な、何者か、、?」
「ああ、自己紹介がまだだった。俺の名はワカバ・エド。99代目 魔王だ。どうせ今お前を殺しても、所詮はコピー。本物を殺さなきゃ意味はないんだが、、偉そうな態度をとった責任は取らないとだよなぁ?」
「ひ、、ひっ!た、助けっ、、
恐怖で腰を抜かし、色々漏らしながら四つん這いで逃げようとするアスモデウス。、、のコピー。
能力値的には今のベリアルと大差ないくらいだから、本能的に悟ってしまったのだろう。
『あ、これ死んだ、、。』と。
その悟りはズバリ的中してるんだけど、サクラちゃんの見てる前で、拷問を超えた拷問なんてやっちゃいけない。
だから、このやるせなさは本物のアスモデウスにぶつけてやろうと思う!!!
「さて、アスモデウス。俺は超優しいから、質問に答えてくれれば、痛みなく一瞬にして死なせてあげる。」
「な、なんでも答えますっ!!」
「賢い選択だな。だが忘れるな?もし嘘をついたり、嘘を織り交ぜたりしたら、死ぬより辛い目に遭うからな?」
「は、ははぁ〜っ!!」
アスモデウスのコピーは、黒い薬箱を見せられたかのように、床に平伏す。
「では問おう。現在拠点にしているのは何処だ?」
「は、はい。97代目 魔王様の実家でございます。」
「97代目 魔王という事は、お前の親か?」
「い、いえ、違います。魔王は世襲制ではなく、才ある者が生まれた時に決まるものでございます。」
「ん〜?だがお前は、姉を殺して魔王になろうとしたよな?」
「はっ!次代の魔王が生まれる前に今代の魔王が死んだ場合、条件を満たす者がいれば、その者が魔王となります。」
「ふむ、なるほど。」
唯一無二のユニーククラスだからな。他に魔王がいるのに、『俺も魔王ーっ!』とか『私も魔王よーっ!』とかなったら、収集つかないもんな。
まぁこの辺の事情は、ルシフルから聞いていた通りだ。
「さて、そろそろお別れの時間だ。何か言い残す事はあるか?」
「で、出来れば、我が手に掛けた妹の墓参りをしたいのですが、、。」
「ふむ。それは良い心がけだ。」
「で、ではっ!?」
アスモデウスは機をうかがって逃げるつもりでいた。このジム内から出られないとも知らずに。
コピーは自分がコピーであることなど、知らないのだ。
逃げられそうな瞬間があれば、すぐさま逃げてみせる!
そんな決意も希望も、全てが砕け散る。
「でも無理だよね。ルシフル生きてるし。むしろ前の1.8倍強いし!」
「、、は?」
「死ね。」
俺はダーインスレイヴでコピーアスモデウスを頭から縦半分に斬り裂いてやった。
頭から殺ってやったんだ。約束通り痛みを感じる前に死ねただろ?
2つに別れたコピーアスモデウスは、ヴォンッという効果音と共にその姿を消したのであった。
さて、これはどういう事なんだ?
俺は模擬戦案内音声に問いかけてみた。
「麻痺じゃなくて真っ二つなんだけどーっ!?」
、、と。
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