第30話 ルシフル・ナ・サタン




盗賊の親分で実験した結果、まぁ予想通りの結末を迎えた事を喜べば良いのか、、はたまた、せっかく魔力を消費して作った魔族を消されて怒れば良いのか、、。



ともあれ、まずはあの女の言い分を聞いてみようじゃないか。


俺は足元の封筒を拾い、中身を確認してみる。




♡魔王ワカバちゃんへ♡


もうっ!その力は『女性限定』って言いましたよね!!?


ルールは守らないとダメですよ!?


今回は初だったので、対象の抹消で勘弁してあげます。


しかしっ!!次はありませんよ?


またやらかしたら、容赦ない悲惨なペナルティを受けて頂くとしましょう。


生きてるのが嫌になるくらいの、、ね?



では引き続き、チタマを幼女化、、ゴフンゴフンッ!!健闘をお祈りしております。




、、という事らしい。



あっぶねーーっ!!マジでエチゴさんに使わなくて良かった!!!


既に魔族になってるんだから、ショタ化してもいいでしょ!?、、なんて屁理屈が通じる相手じゃないからな!!


自分の趣味に命かけてるような奴だ。


『力こそパゥワー!幼女こそジャスティス!』


とか、本気で思ってるだろうから、死ぬより辛いペナルティとか、マジでヤバそうだぞ!?


キモデブハゲジジイに陵辱されるとか?


、、おぅえっ!!!想像しただけで吐く寸前までいくわ!!!



と、とにかく、向こうの言い分は分かった。


だが、一つ確認しておかなければいけない事がある。



「この効果は回復魔法の副作用だからな!俺は今後、女の人にしか回復魔法を使えないって事になるが、それってどうなんだ!?そんな理不尽を神は許したのか!?」


謁見の間の天井に向かって叫ぶと、間髪入れずに封筒が舞い降りてきた。


どんだけ速筆なんだよ。



俺は封筒を空中キャッチして、中身を見てみる。




☆+$%<バちゃ.+〒」°へ♡


ちょっ!!そんな大声で言ったらダメですよーーー!!!!


わ、分かりました!特別に、緊急時に限り男性にも回復魔法を使う事を許可します。


しかし、その緊急時を意図的に引き起こした場合は、この限りではありません!


ゆめゆめお忘れなきよう、、。




ふむ。焦りすぎて、宛名がグチャグチャになってるぞ?


まぁ要約すると、、

魔族にして強化したい男がいるとする。

その男にわざと致命傷を加えて、「わぁ死にかけてるー。早く治さないとねー?」というのはダメだという事。


それでも偶発的な怪我による場合は許可されたんだから、今は良しとしておこう。



「ふぅ。これで一段落ついたな。」


俺は、魔の大森林入口に待たせている、ベリアルを呼び寄せる。



[眷属召喚っ!!]


謁見の間の床に魔法陣が浮かび上がり、淡い紫色に光りだす。


まぁ今回も『◎』の外側の円と内側の円の間に文字が現れているな。


『魔王様の華麗なる城奪還記念だから、祭りだ祭りーっ!』


ふむ。何やら魔法陣君が盛り上がっているね?

お祭りって、何するつもりなんだろ。



何が出てくるのかワクワクしながら待っていると、魔法陣の中心に『召・喚!!』と現れた。



ポンッ!

「お、お待たせしました、魔王様。」


「あ、、うん。なんか大変そうだね。ごめんよ。」


召喚されてきたベリアルは、キラッキラの装飾が施された女物のマイクロビキニを着て、紅白の小○幸子もビックリの背景を背負っていた。


見た目20歳の青年が女物マイクロビキニなんか着たら、色々はみ出すだろうが!ベリアルの息子なんか誰得だよっ!!


それに、背景を背負うって意味分からんぞ!?いやまぁ実際、リュックみたいに背負ってるからな。背景を背負ってるで合ってはいるんだが、、。


と、とにかく!魔法陣君が俺を楽しませようとしてくれてるのは理解した。

だが、この格好で魔王に謁見させるなんて、超不敬罪だぞ!?いやもう反逆罪でも通じるレベルだからな!?


そんなノリに付き合わされているベリアルに、一言謝罪した俺なのであった、、。



案の定『召喚テイク2』が行われ、ビシっと決まった執事服で再登場したベリアルであるが、『見せれて満足です♡』みたいな顔してるのはスルーしておこう。



「さ、さて。盗賊団は壊滅させた訳だけど、この魔王城、このまま使っても良いんじゃね?」


「はっ!多少メンテナンスをする必要はあるかと思いますが、充分使用可能かと。」


「ふむ。んじゃ、城の隣にめちゃ健康ランド兼訓練所を建てればオッケーだね!ちなみに、メンテナンスってのは?」


「はい。この城の最奥部に、状態保存・加熱・冷却・給水・排水・浄化・結界など、様々な魔法式が刻まれた魔石がございます。この魔王城の心臓と言ってもいいものでございますね。」


「ふむふむ。」


「その魔石に魔力を注ぎ込む事がメンテナンスとなります。」


「なるほど。メンテナンスはどのくらいの頻度でやらなきゃダメなの?」


「1度満タンにしてしまえば、80年は問題なく稼動致します。」


「よし、それじゃ早速やりに行こう。」


「はっ!かしこまりました。こちらでございます。」


ベリアルに案内され、城の最奥部を目指す。



謁見の間を出て廊下を進み、東側の階段を降りる。


2階の西側まで回り込むように進むと、壁に1枚の肖像画が飾られており、その肖像画の前で止まった。


どうやら、この肖像画に仕掛けがあるようだな?



「魔王様。こちらが先代の魔王、ルシフル様でございます。」


その肖像画に描かれているのは銀に輝く髪の美少女で、ベリアル曰く先代の魔王という事であった。きっと最後まで少女の姿だったんだろうね、、。



「ふむふむ。かなりの美少女だね。俺には負けるけども。まぁ絵だから何とも言えないけどね?」


「はっ!では参りましょう。」


ベリアルは肖像画を少しずらすと、壁の一部を押した。



ガコンッ、、ゴゴゴゴゴ、、と、何かの装置が作動している音が聞こえ、肖像画の隣左側の壁が下へ降りる階段へと姿を変えた。



「魔王様。暗くなっておりますので、お足元にお気を付けてお進み下さいませ。」


ベリアルの後に続いて階段を降りていく。


5分ほど降りたところで、階段の終わりに達した。



「この正面の扉の先に、魔石がございます。」


「ふむふむ。、、で、そっちの扉は?」


「そちらは、ルシフル様のお隠れ部屋でございますね。」


「お隠れ部屋??」


「はい。お稽古、お見合い、お勉強。嫌になるとこちらの部屋にお隠れになるので、我々はそう呼んでおりました。本当は魔石管理当番の休憩室だったのですが、、ね。」


そう言うベリアルは、懐かしむような、少し寂しそうな笑顔を見せた。



、、えっと?


これはネタでやってんのかな?



「ね、ねぇベリアル?」


「あっ、申し訳ございません。昔を思い出してしまい、、。で、ではこちらでございます。」


「『こちらでございます』っじゃなくてさぁ?何?わざとやってんの?」


「え、、え〜っと?な、何か至らぬ点がございましたでしょうか。」


「はぁ〜〜っ。そうだね!超至ってないね!!前の戦いが100年前だっけーっ!?」


「そ、そうでございます。」


「んじゃ、100年分謝ってもらわなきゃダメだな!!『100年間、見つけられずにいてごめんなさい』ってさあっ!!」


俺はお隠れ部屋の扉を、勢いよく開いた。



「、、は?」


部屋の中にはベッドが備え付けられており、そのベッドの上には、ニヤけながらヨダレを垂らして眠っている美少女が居た。


それが誰なのか。つい先ほど見たから、俺でも分かる。


壁に飾られていた肖像画の人。


先代魔王 ルシフル、その人である。



「ま、魔王様。私は夢でも見ているのでしょうか?」


「いや、現実だから。」


「で、ですが、どうして魔王様は分かったのですか?」


「あ〜、この先の魔石?から流れてる魔力が、城全体に行き渡っているんだけど、この部屋に流れてる魔力が不自然っていうか、、強引に魔力を供給させられてる感があったんだよ。」


「あ、、た、確かにそうでございますね。」


「それで何の部屋か聞いたら、お隠れ部屋だって言うからさ〜?ちゃんと調べてみた訳よ。ルシフルさん、魔力を完全に抑えて魔石から魔力を供給させるようにして、自分に睡眠魔法をかけたんだろうね。生き残った部下が見つけてくれるのを信じて、、。」


「うっ、、ル、ルシフルさまぁぁっ!!!」


俺の言葉を聞いたベリアルは、大粒の涙を流しながらルシフルにビンタを喰らわせる。


睡眠魔法を解く為だ、止めやしないさ。



バチンバチンバチンバチンッという無情な響きが、広くもない部屋に木霊(こだま)する。


その音が20回ほど耳に届いたが、ドゴッという重低音で締め括られる。



「い、、痛いのじゃーーっ!!妾にこんな非道な事するなんて、ぶち殺すのじゃーーっ!!」


「あ、、ルシフル様。お久しぶりでございます。」


目覚めたルシフルと、感動の再会。

2人とも鼻血ダラッダラだが、まぁ、、うん。感動の再会っ!!



「む?よく見るとおぬし、、ベリアルか?」


「はっ!元魔王軍第二騎動部隊隊長、ベリアル・ド・ベアルにございます。」


「ふむ。元、か。、、負け、たのじゃな?」


「、、はっ。」


ベッドに腰掛けるルシフルに向かい、跪き、魔王軍の敗北を告げるベリアル。



「生き残った者はどのくらいおる?」


「私を含め10名でございますが、、魔王様、続きをお願いしてもよろしいでしょうか。」


「む?妾に聞かれても分からぬのじゃ。」


「あ〜、、いや。今のは俺に言ったんだよ。」


「、、なるほどのぅ。其方が99代目という事じゃな?」


「そういう事になるね。初めまして、俺の名前はワカバ・エド。99代目 魔王だよ。」


「うむ。妾はルシフル・ナ・サタン。98代目の魔王じゃ。」


「んで、ベリアルの話の続きなんだけど。100年前の戦いで生き残っ、、


「ひゃっ!!100年前じゃとーーっ!!?、、あ、いや。すまぬ、続きをどうぞなのじゃ。」


「まぁその辺の説明は後でするよ、ベリアルが。、、んで、10人が生き残ったみたいだけど、俺の回復魔法の効果で、他種族を魔族にする事が出来るんだ。」


「なんじゃとっ!?種族が変わる魔法なぞ、聞いた事がないのじゃ!!」


「そう言われても、既に2人魔族にしたからね〜。」


「し、信じられん。じゃが、それが本当なら、次こそは勝てるのじゃ!!」


「まぁそういう事だね。とりあえず10年後に次の戦いが始まるから、ルシフルも協力してくれるかな?」


「もちろんじゃっ!!先の戦では不覚を取られたが、次はやられたりせぬ!!皆殺しにしてやるのじゃーーっ!!」


な、なかなか血気盛んな女の子だね。



「さて。それじゃあ、ルシフルの事情を聞かせてもらえるかな?どういう経緯でここに?」


「うむ。あの日、妾は戦の先陣を切って敵軍に突撃したのじゃ。」


やっぱり血気盛んですね。



「バッサバッサと敵兵をぶった斬り、敵将に迫った時じゃった。背後から奇襲を受けたのじゃ。味方しか居らんはずの背後からじゃ。何事かと振り返ってみれば、彼奴が妾に向かって剣を突きつけてきたではないか!!」


あ〜。要は、アレね?下剋上的なやつね?



「奴は『魔王様、残念ながら魔王軍は僕のものになります。ではご機嫌よう。』とか吐かしおって、再び妾に斬りつけてきおった。命からがら逃げ延びた妾は、ここで苦手な回復魔法を使い傷を癒したのじゃが、やはり苦手な魔法は効率が悪くてのぅ。魔力が枯渇する寸前じゃった。」


「ふむふむ。それで、魔石から補充しようとした訳ね?」


「うむ。魔石とパスを繋いで魔力の回復を早めたのじゃが、体力もギリギリじゃった。そこで、強制的に体を休める為にナップをかけたんじゃよ。」


スリープの下位互換魔法で100年も寝てたんか!?さすがは魔王ってところか、、。



「妾の方はこんなところかのぅ。」


「いや、肝心の裏切り者が誰だったのか聞いてないよ?」


「おぉ、そうじゃったな。奴の名前はアスモデウス・ナ・サタン。妾の弟じゃな。」


「アスモデウス様が、、。」


ルシフルから裏切り者の名を聞き、ベリアルは驚愕の表情を浮かべる。


まぁ、俺からしてみりゃ、ただの王族同士の椅子取りゲームなんだが、、。


玉座なんて家族より大切なものなのかねぇ?



お偉いさんの価値観が、全く理解できない俺なのであった、、。


元一般人だからな!


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