第19話 ベリアル・ド・ベアル




魔族の人を救う為、俺は今、ツギノ街へとやって来ていた。


とはいえ、まだ夜中の3時。


街への門が開いているはずもなく、まぁピョンッとね?


高さ5mの塀に幅3mの外堀のセットであったが、まぁ、、ピョンッとね?



そんな訳で、今は塀の裏いるんだが、、さて。この寝静まる街で、何の情報も持っていない俺が、一体どうやって魔族の人を探そうか考え中なのである。



「ふ〜む。何か良い方法はないものか、、。」


と、5分ほど考えてみた結果、あの魔法が使えるかもしれん事にいきつく。


そう。『索敵』だ。


今回探すのは敵じゃなくて救出対象なのだが、そこはきっとイメージの仕方を変えればいけるんじゃないかな?


まぁこういうのはトライ&エラー!ものは試しって言うしな。



ツギノ街全域を捜査地域に指定し、捜査対象を魔族の人に設定。この捜査に対し障害になり得る者を敵と設定。

これをマッピング魔法と併せて使うこととする。


、、とイメージを固めて、魔力を集中する。


これもう索敵の枠を超えてる気がするな。


なら、敵に限らず探し物をするって事で、、



[索敵改め、サーチっ!!]


そう念じると、頭の中にツギノ街全体の地図が浮かび上がり、その中に複数の赤い点と緑の点が1つ表示される。


門の側にある小屋に4つ赤い点があるのは、門兵を示しているのだろう。

という事は、赤が障害となるもの。


そして街外れにある家の緑の点が、今回の救出対象である魔族の人って訳だ。


そうと分かれば、さっさと行って回収してくるとしよう。





「ここか。」


一軒の二階建住宅に到着した俺は、魔族の人を起こして説明するのも時間がかかるな。と思い、1つ思い付いた方法を試してみる事にした。


それは、魔族の人も家もまとめてアイテムBOXに入れてしまおう!というものだ。


よくある異世界もの小説などでは、生きてるものはアイテムBOXに入れる事が出来ない設定がほとんどであるが、俺は大丈夫な気がするんだよな。


だって、魔王だぜ?


そこらにいるチート転移者と一緒にしてもらっては困る。


スーパーチートの俺に、不可能などないのだっ!!



俺は家の外壁に触れて、丸ごとアイテムBOXに入れーっ!!と強く念じた。


その瞬間、触れていた家がフッと姿を消した。


良しっ!!



ドガッ

「グッウゥ、、い、痛え。な、何が起きたんだ?」


ふむ。なんか、パジャマ姿の男性が降ってきたな。


さすがは異世界。不思議な事が普通に起こるね、うん。


アイテムBOXに拒絶されて、2階の寝室から落ちてきただけであるのを誤魔化した。



「えっあれっ!?お、俺の家が、、36年ローンで買った、俺の家が、、無い!?」


と、男性はパニックに陥っている。

すぐ側にいる俺の事なんて、全く気にしていないな。


、、あっ!これが気配隠蔽の効果なんだな!


目の前に居るのに気付かれないなんて、なかなか使えそうだ。


だが、このままじゃ話が進まない。



俺は気配隠蔽をOFFにして、男性に話しかけてみる事にした。



「ねぇ、そこのアナタ。」


ビクゥッ!!

「おわぁっ!!だっ誰だっ!!?」


「初めまして。俺は、え〜っと、あ〜、、。」


しまった!怪盗っぽい名前を考えとくべきだったよ!


し、仕方ない。今回は普通に名乗るとするか。

どうせ後で自己紹介しないとダメだったろうし。



「俺はワカバ。アナタの家は俺が持ってる。」


「はぁ?何を言って、、あっ!もしかしてアイテムBOX持ちかっ!?」


男性はバッと身構え、警戒態勢に入る。

おそらく、一般的チートの渡り人と勘違いしたのだろう。



「まぁそうなんだけど、そう身構えないでよ。俺はアナタを助けに来たんだから。」


「ど、どういう事だ?」


「えっと、状況を説明する前に、1つ確認しなきゃいけない事がある。アナタ、、魔族だよね?」


ビクッ!

「ま、まっまままま魔族っ!?なななっなな、何を言ってるのかなぁ?」キョロキョロ、、


「うん。あまり時間がないから、はっきりして。」


「、、はい、ごめんなさい。魔族です。」


「ふむ、よろしい!、、別に何もしないから、そんな怯えないで?言ったでしょ?アナタを助けに来たって。」


「わ、分かった。」


「それじゃ、今の状況を簡単に説明するね。」


俺は魔族の人に、冒険者ギルドの作戦について説明した。



「、、という訳で、ここに居ると数時間後には捕獲されて、拷問の後に殺される事になる。」


「そ、そんな、、。俺は一体どうすれば良いんだ!!」


「とりあえず一緒に来てくれるかな?アナタが安心して暮らせるように、俺が何とかするから!」


「、、ワカバちゃんが?子供にどうこう出来る話じゃないと思うけど。」


「あ〜、、アナタ、鑑定持ってる?」


「まぁ、魔族だからね。」


「Lvは?」


「一応Lv8だけど。」


「8なら、クラスまで見れるね。俺を鑑定してみて?」


俺は隠蔽をOFFにして、鑑定を促す。


「じゃ、じゃあ失礼して、、鑑定!」


そう言った数秒後、男性は俺の前に跪(ひざまず)いた。



「ま、魔王様!先程までの無礼、どうかお許し下さいっ!!」


「別に気にしてないよ。それより、これで少しは信じる気になってくれたかな?」


「はっ!魔王様のご生誕を、どれほど待ち侘びていた事か。私、ベリアル・ド・ベアル。魔王様にこの命を捧げます。」


「ありがとう。ベリアルの命、魔王ワカバが責任を持って預かるとしよう。」


「はっ!ありがたき幸せ。この命尽きるまで、御身の側に。」


ベリアルは跪いたまま、感極まって涙を流す。


よほど魔王の登場が嬉しかったんだな。



「、、さて!堅苦しいのは終わりね!さっきと同じ感じで話してくれた方が、俺としてはありがたいんだけど。」


「はっ!かしこまりました、魔王様。」


ベリアルはスッと立ち上がると、何やらさっきまでと様子が違う。


さっきまでは30代中頃の男性って感じだったのに、今はもっと若々しい、20になったばかりの青年って感じだ。



、、ふむ。この現象、つい昨晩も似たようなのあった気がするな。



「ね、ねぇ、ベリアル?どこか体におかしなとこはないかな?」


「おかしなところですか?そうですね、、特に悪い部分はないかと。むしろ、魔王様に忠誠を誓ってから、全身に力が漲っていますね!まるで若返ったかのような錯覚を覚えるほどでございます!」


「そ、、そか。」


そうだろうね。実際若返ってるもん。



「じゃあ、ベリアルのステータスも見させてもらって良いかな?」」


「はっ!もちろんでございます。断りなどなくとも、お好きなようになさって下さい。」


どうぞ!と、ベリアルは十字架に磔にされたように立ち、目を瞑った。



なんかパフォーマンスが大袈裟なんだが、「はぁ〜っ♡あの魔王様に見られるなんてっ♡全裸になった方が良いかな〜っ♡」とか思ってそうだよ。


ま、まぁこれ以上過激になるようだったら、それとなく注意するとしよう。



そんな事を考えながらも、ベリアルのステータスを見せてもらう。



[鑑定っ!]




ベリアル・ド・ベアル(176)

種族 魔族

性別 ♂

クラス 魔拳闘士

LV 1

HP 2280

MP 2060

STR 1074

DEF 966

ING 947

DEX 812

AGI 1021


[スキル]

鑑定Lv8、オーラナックルLv60



[パッシブスキル]

魔王の眷属Lv1

身体強化Lv55、体技Lv55

闇・火・水属性魔法、魔力操作Lv43


[魔法]

ダークインフェルノ、ブラックアウト

ファイアランス、ブリザード



[補足]

100年前の大戦で生き残った魔族10人の1人。

前魔王の崩御により弱体化していたが、99代目 魔王の眷属になった事で魔細胞が活性化し、魔族本来の力を取り戻す。眷属化によりLv 1に戻るが初期ステータスに眷属化ボーナスポイントが加算される。

身長181cm、体重82kg。好きな女性には尽くすタイプ。




ふむ。176歳ってさぁ?もしかしてだけど、魔族の寿命てめちゃくちゃ長いんじゃない?

ま、まぁその辺は追々聞いていけば良いか。


それより、、なんだよーっ♪なかなか強いじゃあないかっ!


チタマ一般人の30倍くらいのステータスじゃんっ♪


これが後9人いるんでしょ!?

86億人殲滅くらい出来るっしょーっ!!



でも、エチゴさんの倍くらい強いんだよなぁ。

やっぱり、純血魔族となんちゃって魔族の違いかなぁ?


こうなったら、1日1回エチゴさんをタコ殴りにしてフルケアヒールで回復、、い、いや、これは本人が希望したら、、ね?



ともあれ、『魔王の眷属Lv 1』の効果で若返ったのは確実だな。

細胞が活性化したんだ、若くもなるさ。



、、待てよ?眷属化というと、よくあるアレが出来るんじゃ?


と思い、俺は自分のステータスを確認してみる。


するとやっぱり追加されてました!!


これは早速試してみるべきっ!!



「ベリアルっ!」


「はっ!私のステータスはいかがでしたか?」


「なかなか強かったよ!後で自分でも確認してみてね?多分前より強くなってるはずだからさ?」


「はっ!かしこまりました、魔王様。」


「でね?ちょっと試したい事があるから、ここで待っててくれる?」


「はっ!いつまででもお待ちしております。」


「あ、うん。そんなにかからないから、呼んだら来てね!」



[トラポっ!!]


俺はベリアルをその場に残し、1人でサイショノ街エチゴ屋前に瞬間移動的旅行をした。


今度はクレーターを作らないように、『そっと着地』を強くイメージしたので、着地音は1dB以内に抑えられていた。俺グッジョブ!


もう少し自画自賛していたいところだが、今はこれを試しに来たんだから、自画自賛はまた後の楽しみにしよう。



ピョンッとジャンプし、空中で靴をアイテムBOXにぶち込み、2階の窓からリビングへ入る。

出る時に開けっぱなしだったのは、帰りのことを考えていたからだ。

閉め忘れていた訳ではないのだっ!!




「さて、ちゃんと出来るのかなぁ?いくぞ〜!」


[眷属召喚っ!!]



スキルを使うとリビングの床に薄紫色に光る◎(二重丸)が現れた。


そして内側の円と外側の円の間に、よく分からない字体が浮かび上がる。


まぁ言語理解の力がある俺には読めるらしい。


『ベリアル・ド・ベアルを召喚するけど、初召喚記念に魔王様を笑わせてやろっと♪』


、、ふむ。何やらサプライズがあるらしいな。

ちょっと楽しみだぞ!



ワクワクしながら見ていると、円の中心に『召・喚』と浮かび上がり、凝縮された魔力の波動を感じた。


次の瞬間!!


ポンッ

「魔王様、召集に応じ馳せ参じました。」


胸に手を当て、ピシッと綺麗な礼をするベリアルがそこに居た。



、、全裸で!!!



「あ〜、、うん。よく来てくれたね。、、あれ?」


フッとベリアルが消えてしまった。


だが◎は残っている。、、ふむ。どうやら、俺が困った顔していたらしく、普通に登場させる事にしたようだね。


すると再び円の中心に文字が浮かび上がる。

『召・喚 Take2』に変化していたが。


そしてベリアル再登場。



「ま、魔王様。何故かやり直しさせられたのですが。」


「そ、、そだね。まぁ気にしないで大丈夫。それより、どんな感じだった?」


「はっ!頭の中に誰かの声が響きまして、『魔王様が呼んでるよ!早く全裸になれ!』と。なので慌てて全裸になりました。」


あれ、魔法陣さんが勝手に脱がせたんじゃなくて、ベリアルが自分の意思で脱いだのね?



「ま、まぁちゃんと召喚出来たからよしとしておこう!」


「はっ!、、それで、ここは何処なのでしょうか。」


「ここは俺の家族の家だよ。あっ、靴は脱いでね!」


「あっ、申し訳ございません!」


ベリアルは慌てて靴を脱ぎ、胸ポッケからハンケチを取り出すと、立っていた場所をサッと綺麗に拭いた。


、、ふむ。さっきまではパジャマだったよな?



「そのピシッとした執事服はどうしたのかな?家は丸ごと俺のアイテムBOXに入ってるんだけど。」


「こちら、私にも出どころは分からないのですが、やり直しさせられた時に『早くコレに着替えろよな〜っ。』という声が響いたと思ったら、目の前に現れたのです。」


「なるほど。」


どうやら、魔法陣さんの粋なはからいだったようだな。



「それじゃあ、まずはいくつか質問があります。」


「はっ!何でも聞いて下さい。」


という事で、母さん達が起きてくる前に、俺が知っておくべき情報を獲得しようと思う。



さてさて、何から聞こうかなぁ〜?


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