領地も立場も全て失った失意の帝国の軍人 ~なぜか差し伸べられる手、なぜか巻き込まれる騒動、なぜか舞い込む依頼、そして鬼王に至る道~ 第一章 煌蘭動乱
曲威綱重
第1話 序章
「煌蘭」
時の帝は壮麗なる海洋都市を見るなり、そう呟いたという。
煌き海の上に艶やかに咲き誇る蘭。
紅羊湾に面した貿易港煌蘭は、確かにそう表現するに足る美しく大陸で最も巨大で繁栄し続けている巨大都市だ。皇帝の口から発せられた形容をそのまま名前に戴いたこの都市は、その名を付けられてから三百年以上もの間繁栄し続けている。大陸最大の都市は帝都であるが、煌蘭の繁栄ぶりは今や帝都に勝るのではないかとすら人々の間で噂されている。
皇国、連邦、共和国。
三つの国と海から繋がり、帝国全域とは陸路で結ばれている。交易と周辺の肥沃な大地から生み出される豊かな産業のおかげで、この交易都市は大陸のみならず世界各地の様々な文化を取り入れ大陸中央で光り輝く宝石という表現もできる。
煌蘭の輝きは数多の人々の目を引き付けて止まず、世界各地老若男女問わず様々な経歴を持つ者が訪れるこの世界都市、そう表現するに問題ないであろう、煌蘭ではあらゆる種族の人々が住んでいる。その中で少数ながら非常に目立つ種族の一つがエルフである。
別名森の民と呼ばれるこの種族は眉目秀麗、永遠ではないが数百年から千年に及ぶ長い寿命、筋肉で引き締まった均整のとれた体に褐色の肌。
多くのエルフは他種族から距離をとり森や山など人里離れた場所に引きこもることが多いが、一部の「変わり者」と評される者たちはそんな種族の考え方や生き方に閉塞感を感じて教理を飛び出し他種族の社会に関わりをもつ。
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