漂流世界

@taigyoh

漂流

雪の中をゆく青年。


──僕の住む地区が外の世界と隔絶したのはもう何年も前のことだ。元の世界に戻ろうと何度も試みたがたどり着けない。


深々と降る雪。今日はグランド方向から行ってみよう。


何度も正面玄関周りでこの地区を離れようとしたが、いつも振り出しに戻ってしまう。


何度試みてみても同じことだった。雪に足を取られ前に進めなくなる。小学校から出られるはずだが、たどり着けない。


今日は何かが違う。グランドのフェンスに人が通れるだけの隙間が空いていた。今までなぜだか気づかなかった。


一歩ずつ進む。

装備は整えていた。あとは歩くだけ。足は重い。湿気を含んだ雪が邪魔をする。


いつしか雪が溶けて泥になっている。なお足を取られる。まだ振り出しに戻っていない。これが正解のルートか?そもそも正解なんてあるかわからない。


泥に足を取られながら進む。喉が渇いた。戻ってしまおうか。この機会を逃したら帰れない。


体育館の裏に回った。

職員玄関が見える。


今日は雪が掴めた。地面に落ちるとまた触れなくなる。いつもと違っていた。

体育館の方から人が歩いてくる。まさかと思った。


人が走ってくる。先生だ。

助かった。


「よくたどり着いた。この地区が漂流したのは、初期の頃だった。よく生きていた」

涙が頬を伝う。やっと終わる。

懐かしい先生に肩を抱かれ、泥も雪も消えた体育館脇の細道をゆく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

漂流世界 @taigyoh

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ