第2話 やってきた自称神様

「今日からこの子も家族だから!」


「まてまて母さん。状況が読めない。わからない。説明を求む」


 困惑する俺を他所に、母さんは遠慮しないで入って〜と玄関に佇む美少女、神宮さんを招き入れる。

 なぜ神宮さんが俺の家にいるのか、今日から家族とはどういう事なのか、訳がわからない。


「ほんとに待って。えっ家族ってなに?ここに住むの?」


「そうよ?」


「俺の許可は?」


「ここは母さんが借りてる部屋なの。嫌なら真司が出ていきなさい?」


 サラッと実の息子に対してそんな事を言うのはどうかと思う。育児放棄だ。育児放棄・・・なのか?


 まぁそれはいい。とりあえず説明が欲しい。


 俺を無視して2人は狭い家の中に入ると、居間(寝室としても使う)の真ん中にあるローテーブルを囲むように座る。


「あのさ。母さんはこういう性格だからわかるけど、なんで神宮さんまで普通に馴染んでるの?」


「ん?妾は神様だからな。人間は皆神の子。それならば親である妾が困っていたら助けるのは当然じゃ」


「なにその暴論。ありえないんだけど」


 お茶はないのか?と当たり前のように要求してくる神宮さんに、態度でかくね!と言いながらも渋々お茶を用意する。


「温かいのがいいのぉ・・・」


「ふざけんな!自分で用意しろよ!」


「仕方ないのぉ。・・・ふんっ!!」


 何やら握ったコップに力を入れている様子であるが、なにをしているのか。気になって見ていると薄らとコップから湯気がたつ。


「まさかと思うけど、温めた?」


「そうじゃ。お主が温かいのを出してくれんからの?」


「なにそれ便利!!」


 えっ?って事はうちの古いやかんいらなくね?もうこの子1台あればお湯も沸かし放題ってこと?


 神宮さんは得意気にふふんと鼻を鳴らし、それを見た母さんは凄い凄い!と手を叩いている。


「ってかなあなあになる所だったけど、神宮さんが一緒に住む理由聞いてないんだけど?」


 俺は忘れかけていた事を再度母さんに問いただす。

 すると超面倒くさそうに、テーブルに突っ伏しながら話し始めた。


「2日前に大雨が降ったでしょ?その日に美心ちゃんの家に雷が落ちて燃えちゃったんだって。それで住む場所ないからうちに住むことになったの」


「えっ?家ってか、神社燃えたの?」


「そうよ?知らなかった?」


 うちは新聞は取っていないし、俺はニュースは見ない、その為知らなかったのだが、あの日の夜中に神社が全焼していたらしい。

 大雨の日が金曜日で、今日が日曜日。学校が休みだったので神宮さんに会う機会もなく、そんな話は初耳だった。


「まぁそういう事なので世話になるぞ。よろしくな!」


「ノリが軽い!家燃えたんだよね!?」


 あははと笑う神宮さんはほんとに家を失った人とは思えないくらい楽しそうだ。


 ______


 俺の家の間取りは、玄関を入るとすぐにキッチンがあり、そのキッチンを中心に、お風呂、トイレ、居間が存在し、居間の隣にもう1つ部屋があるが、そこは母さんが使っている。

 その為、居間にいるとお風呂やトイレの音がダイレクトに聞こえてくる。


 ジャーというシャワーの音が聞こえ、俺はテレビの音量を上げる。

 それでも一度を意識してしまった俺の耳はテレビの音を拾わずに悶々としてしまう。


 こちとら年頃の男の子だ。それなのに美少女がお風呂に入っている時に買い物に行ってしまうとか、母さんは俺をなんだと思っているのか。


 なるべく考えないようにしながら、テレビに集中しようと近づくと、キュッとシャワーを止める音が聞こえ、それと同時にガチャっと扉が開く。


「真司。バスタオルはどこじゃ?」


「扉の横の棚にあるだろ」


 目を向けないように注意しながらそう言うと、ゴソゴソと棚を漁る音が聞こえ、少ししてから扉が閉まる。

 はぁ〜とため息を吐いて体の緊張を解くが、次は服を着る音が聞こえてきて背筋を伸ばす。


 なんで俺が自分家でこんな緊張しないといけないんだ。


 考えないようにしながらテレビをぼーっと眺めていると、着替え終わったのか、神宮さんがお風呂から出てくる。


「いい風呂じゃった。ほれ、次は真司の番じゃ」


 俺の隣に座りながらそう言ってくる神宮さんは、髪がまだ濡れていて、頬が薄らと赤く染っていて妙に色気があり目が離せなくなってしまう。


「どうした?」


 俺の視線に気づいた彼女は、覗き込むように俺に顔を近づけてくる。

 するとふわりと俺と同じボディソープの匂いが鼻腔をくすぐる。


「な、なんでもない。ってかそれ俺の服じゃん!」


 神宮さんの顔ばかり見ていて気づかなかったが、彼女が着ている服は俺の服だった。


「そうなのか?おばさんが用意してくれたからおばさんのだと思っとった。着ちゃダメだったか?」


「いや、いいけどさ。・・・それもうやるよ」


 さすがに神宮さんが一度着た服を俺がまた着る事は出来ないと思いそう伝える。

 俺のそんな気持ちなんて分かっていないように、本当か!やった!と無邪気に喜んでいる。


 その笑顔を見ていると、俺だけが意識している今の状況がバカバカしくなった。

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