第20話 公開告白

 文化祭は順調に進み、大熱狂の中終わりの時間を迎えた。ここからは生徒だけの後夜祭。


 体育館の中でも、グラウンドにある簡易ステージでも熱狂は続いていて、止まることを知らない。制服に着替えた私はまだ片付けの終わっていない中を手伝っていた。陽太くんはバンドのメンバーに呼び出され惜しみながらそちらへ行った。野依は私が吉柳くんと一緒にいてほしくて送り出した。いわばここにいるのは恋人のいない優しい人達である。


「日和ちゃんも立花くんのとこ行きたいよね……ごめんね」

「気にしないで。陽太くんのバンドも見れたし、満足だよ。むしろ手伝わせて?」

「天使すぎる……立花くんには勿体ねぇ」


 クラスメイトと話しながら片付けをしていると大きな声が聞こえた。少しマイクが通っている気もするがその声が話す内容は好きです、とのことで。グラウンドでは公開告白が行われていた。


 そういえば私、クラスの人に今日告白するって宣言したよね?


「告白。日和ちゃんさえ大丈夫だったらさっきの人みたいに公開告白してみれば?」

「……できるかな」

「斎藤さんならいけるって! てか陽太斎藤さんのこと好きって丸出しだし、自信持って!」

「みんな……」


 私の恋心なんて筒抜けだったのかもしれない。自信がなくてうじうじしてる私も。そんな私の背中を押してくれるクラスメイトは優しさの塊で。私は少し泣いてしまいそうになる。


 そんな私に気づいたのか化粧が崩れないようにティッシュを差し出してくれ、片付けが終わると化粧直しもしてくれた。お礼を言うと推しカップルのため、なんてよく分からないことを言われた。首を傾げていると早く行けと催促されたので手を振り笑顔で教室を出た。


「野依!」

「日和! 片付け終わったの?」

「うん。陽太くんどこにいるか分かる?」

「陽太ならグラウンドにいたはずだけど……」

「行ってくる。野依、私頑張って来るね」

「うん! 日和なら大丈夫だよ!」


 私はグラウンドに向けて走った。そこは公開告白で賑わっていて沢山の人がいた。私が行った時は丁度告白している最中で告白は失敗して、檀上に上がっている人は泣いていた。私もああなるかもしれない。でも、ここで負けたらダメ。自分のことだけ考えない。


 進行の人へ告白したい旨を伝えるため前へ進んでいるとふいに陽太くんの名前が呼ばれた。陽太くんを呼んでいるのは私と同い年の女の子。顔を真っ赤にし、陽太くんに告白をするため深呼吸していた。息が整ったのか檀上に上がらされた陽太くんへ告白の言葉を述べていた。


 ダメ。やめて。取らないで。

 気づけば私は檀上に向かい叫んでいた。


「ちょっと待って‼」


 突然叫んだものだから周りから沢山の視線を浴びた。マイクを握った進行の興奮する声が聞こえる。開けられた道を私は突き進み、問答無用で檀上へあがった。陽太くんの驚いた顔がここからよく見えた。


「マイク、ください」

「あ。はい!」


 貰ったマイクに声を通す。私の素直な気持ち、それだけを話せばいい。


「乱入してごめんなさい。こんなの嫌かもしれないけど言います」


 会場が静まり返る。緊張で心臓が飛び出そう。隣にいる目に涙を溜めた女の子にだって申し訳ない気持ちでいっぱい。でももう引き返すつもりはない。


「私、斎藤日和は立花陽太くんが好きです。夏のあの日からずっと、ずっと貴方が大好きなんです。こんな私でよければ付き合ってください」


 マイクを胸の前で握り私は頭を下げた。進行の興奮した声も、先ほどみたいに冷やかしの声も聞こえない。誰もふざけない真剣な告白。静かだからこそ返事までの間が怖い。隣の女の子も私と同じように頭を下げていた。


 ステージに陽太くんの歩く音が聞こえる。すると頭上から声が聞こえた。


「森さん告白してくれてありがとう。でもごめん。俺、日和が好きなんだ。日和のこと幸せにしたい」


 横から嗚咽の声が聞こえ、進行の人に肩を支えられながら檀上を下りて行った。すると私と陽太くんの二人だけになった。周りからは告白の返事がどうなるか、小声で話している声が聞こえる。


 そんな声をかき消すかのように陽太くんは声を出した。


「返事、こんなに早いと思ってなかった。俺は日和だからいいんだよ。もう日和以外なんて好きになれないよ」


 そっと抱きしめられた。すると大歓声があがり周りからは祝福の声が沢山聞こえた。でもそれに耳を傾ける余裕なんてなくて、私は陽太くんの背に腕を回しぎゅっと抱きしめた。頬を濡らす涙は止まることを知らなくて溢れ続ける。制服を汚しそうで離れようとしたらまるで離さない、と言われているかのように強く抱きしめられた。


「美男美女のカップル誕生です‼」


 進行の興奮する声が聞こえて、私は陽太くんに泣いている顔を隠されながら檀上を下りた。盛り上がる声はもう当人がいなくても関係ないようで、恋人同士が愛を叫ぶ場になっている。陽太くんは私の手を引いて、人のいない中庭のほうへ向かい歩く。ベンチに座らされ、陽太くんは地面に膝をつき私の手を覆うように握った。


「日和。ありがとう」


 感極まったその声に少し止まっていた涙が再びあふれ出す。


「遅く、なってごめんねっ」

「さっきも言ったけど俺いつまでも待つつもりだったから返事早くてびっくりした。それも公開告白でなんて予想もしてなかった」

「ほんとは二人っきりでするはずだったけど陽太くんの名前呼ばれて焦っちゃって」

「そっか。嬉しい。俺を好きになってくれてありがとう」

「私こそ。幸せにしてくれてありがとう」

「まだまだ序の口! これからもっと幸せになるよ」

「陽太くんが、幸せにしてくれる?」

「当たり前だろ! その役割は俺だけのものだからな」


 幸せそうに笑う陽太くんにすでに幸せな気持ちにしてもらってる。

 私は嬉しすぎて、未だに膝をついている陽太くんに抱き着いた。そんな彼は驚きつつもしっかり抱きしめ返してくれた。

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