第十一話:要らない覚悟(ノエル視点)④
私は、救世主さんとの面会の話と夢で見た私の記憶の話をした。二人とも、口を挟まずに聞いてくれた。聞き終えて、二人とも頷いている。なにか納得できるところがあったんだろうか。
「ノエル。アイコは恐らく覚えている」
ルミの言葉に、私は思わず「え?」と声を漏らす。覚えているって、攫われたときのことをってことだよね。だとしたら、どうして何も……。
「アイコに確かめてみるか?」
「どうだろうな……話したくないんじゃないだろうか」
アイコに直接確かめる。たしかに、それが一番手っ取り早い。私が思い出すより、アイコの口から何があったかを聞いたほうが早い。だけど、そのときにすっとぼけられたらどうしよう。アイコが私に何かを隠しているとして、それを受け入れられるんだろうか。
あ、そうか。私は、アイコには隠し事はないと勝手なことを思ってしまっていたんだな。
「聞きに行ってみる」
「そうか。付き添おうか?」
「いや、一人でいいよ。ありがとうね」
善は急げ。今すぐ聞きに行こうと部屋を出る。アイコの部屋の扉の前で、深く息を吸って吐いた。ノックしようとする手が震える。その震えを止めないまま、私は部屋の扉をノックした。
「どうぞー」
アイコの声が聞こえる。開いているということだろう。私は扉を開け、部屋の中に入った。部屋は散らかっていて、アイコはオーパーツを弄っている。なんだろう、剣のようだけど剣のようではない何かだ。透明な筒?
「ノエル、どうしたのよ?」
「んー、捗ってるかなあって」
「えー? 見ての通り捗ってるよ」
アイコは作業をしながら、私を見ることなく話す。これは普段通りだ。作業中は、ほかの一切に目をくれない。いつも通りのアイコに少しの安堵を感じながら、私は深呼吸をした。
「聞きたいことがある」
「どしたの、改まって」
「大人たちに黙って森に入ったときのこと、覚えてる?」
「ん? ああ、精霊の剣を探しに行ったとき?」
「そうそう」
「あのときは凄かったわよね、剣が抜けてさ」
「その剣、結局どうしたんだっけ」
まずは、ここだ。私の心の奥底に封じられた記憶では、台座に戻したことになっていた。だけどずっと、私はアイコが持ち帰ったと記憶していた。このどちらで、アイコは答えるんだろう。アイコは、なぜか笑顔だ。
「持って帰ったんじゃん。私が解析したいって」
「ん。そうだったね」
これ、本当にアイコは覚えていて隠しているだけなんだろうか。私が見た限りじゃ、アイコが突然攫われた。そんな出来事に直結している話をしているのに、笑顔でごまかせるものなんだろうか。あるいは、ルミの気のせいで、本当はアイコも私と同じ記憶にすり替えているのか。
わからない。
親友のことが、幼なじみのことが、姉のことがわからなくなってきた。
「どうしたのよ急に」
「今、その剣ってどうしてるのかなって」
「あー、置いてきちゃった」
「そっか。ありがとう。作業中にごめんね」
「いいよいいよ、あの剣かっこいいし気になるよね」
「そうなんだよね。スッキリした! じゃあ、おやすみ」
「はーい、おやすみ」
私はアイコの部屋を出て、自分たちの泊まっている部屋に戻る。ルミが「どうだった?」と小さな声で聞いてきた。
「笑顔だった」
「笑顔?」
「おかしくない? 笑顔で、私の偽物の記憶と同じことを言ったんだよ」
「たしかに、それは変だな」
「ちょっと、森に行ってみてもいいかな」
本当に、あの森の台座に刺さっているのかが知りたい。今もあの森にあるんだとしたら、やっぱりあの記憶は偽物だということになる。なんだか、何も信じられなくなりそうだ。自分の記憶だけじゃない。アイコのことも。それが一番、私にとってはしんどい。
「私も同行していいか?」
「うん。というかお願い」
「わかった。ただ時間がかかる。馬車を手配しよう」
「そうだね。そうしよう」
私はシャワールームに行き、服を脱いだ。なんだか気持ちが悪いと思ったら、服がじんわりと汗ばんでいる。魔法で服を洗って乾かすか。そうしてシャワーに入り、服を洗って乾かし、眠った。
夢は、見なかった。
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