八十五億総妹化計画

赤夜燈

世界が私に合わせろよ。


妹が死んだ。


学校指定のセーラー服を着たまま、和室の天井のはりからぶら下がってぎいぎい揺れていた。


鉄の匂いが充満していて、吐き気がする。


ゆいお姉ちゃん――大好き』


そう、わたしを読んで笑ってくれた妹。

大好きだった妹。

否、今でも大好きな妹。


遺書が置いてあった。中身を読んだ。視界がぐるりと反転した。


「そうだ、妹がいなくなったならみんな妹にすればいいんだ」



そんなわけで私は全人類妹化計画を始めた。

私の頭は程よくいかれていた。

けれど妹が大好きだった。

そして程よくいかれていた私の頭はとても良かったので、全人類妹化計画はおよそ五年の見積もりからさらに前倒しして三年で成就した。


八十五億人の妹が、私を慕ってくれている。

色の白い妹、黒い妹、金髪の妹、中年男性の妹、老婆の妹、赤子の妹、他にもたくさん。

「お姉ちゃん」

「お姉ちゃん」

「お姉ちゃん」

「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃん、%$○+〆#$÷○☆♪」


それぞれがそれぞれの母語で喋っているが、妹たちは「お姉ちゃん」としか喋らない。妹だからだ。当然だ。


素晴らしい世界だ。私は姉だから、妹たち全てを見守らないとならない。

そのためには、世界全てを見張る目が必要だ。

さて、ドローンを飛ばそうか監視カメラをつけようか思案していたところ、空に浮かんだ巨大な目と目が合った。


「いい加減目を覚ましなさいよ、。私はお姉ちゃんなんかじゃなくて――」


ああ、そうか。


今際の際の走馬灯を見ていた私はがくんとはりに通したロープに全体重をかけ脱力する。


すぐ下には私が一時間前に滅多刺しにしたお姉ちゃんがいる。


『何言ってるの、ゆい。私たち、実の姉妹だよ……!? やだ、寄らないで! 気持ち悪い!』


ごめんね、お母さん。ごめんね、お父さん。


いやごめん、嘘言った。お母さんもお父さんもぶっちゃけどうでもいいんだわ。



ごめんね、ごめんね、まいお姉ちゃん。


私、お姉ちゃんがいればそれでよかったの。


私、お姉ちゃんと一つになりたかったの。


お姉ちゃん。大好きだったお姉ちゃん。


お姉ちゃんになれば、お姉ちゃんの気持ちもわかると思ったけど、ダメだった。



だから私は、輪廻の果てまでお姉ちゃんを追いかける。


捕食してでも監禁してでも、どんな手を使っても見つけ出して捕まえる。



ああ、なんて素晴らしい人生だろう。


こうして、私は息絶えた。


お姉ちゃん。


愛してる。


それはどこまでもみがってな


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八十五億総妹化計画 赤夜燈 @HomuraKokoro

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