女神の啓示を受けた勇者ですが、勇者に魅力を感じないので魔王を倒しに行きたくありません。
名録史郎
第1話
私は、世界の秩序を司る転生の女神。
新たな転生勇者である男の子に言いました。
「あなたは、選ばれたのです。この世界の勇者に!」
「あ、そういうの別にいいので」
なんでしょうか?
今断られた気がします。
「聞き間違いですか? 今断られたような……」
「その通りですよ。別に勇者なんかなりたくないので、普通に転生してもらっていいですか?」
どうやら聞き間違いではなかったようです。
「はい? 勇者ですよ。嬉しくはありませんか? 世界を救う勇者ですよ」
「いやぁ。別に目立ちたいわけではないので。それに、ボランティア精神とか特にありません」
ポテンシャルがピカ一だったので、連れてきましたが、精神が勇者に向いていなかったようです。
ただ現状、他に適任者もいないため、このままこちらも引き下がるわけにはいきません。
「ほ、ほらチートスキルとか、好きなの持って行っていいですよ」
私は、いろいろなチートスキルを提示してみせます。
強化型、付与型、防御型、特殊型よりどりみどりです。
「特にいらないかなぁ」
反応はいまいちです。
「魔法とか一杯あげれますし」
私はいろんな魔法を提示して見せます。
各種属性魔法、精霊魔法、召喚魔法など、よりどりみどりです。
「いやぁ、いらないですね」
やっぱり反応はいまいちです。
男の子は言いました。
「元の世界では、そんなのなくても、別に困りませんでしたし。というか、そんなスキルがあれば、ご自分でされてはいかがですか?」
ぐはぁ。
なんという正論。
「そ、その神は直接の干渉はしてはいけない決まりになっていまして」
「じゃあ、他の人に依頼してもらっていいですか?」
他の人なら、チートスキルが覚醒しないから、お願いしているのに。
足元を見られるわけにはいかないので、教えるわけにはいきません。
「褒美を与えますから」
私は、他の魅力で釣ることにしました。
男の子は、ぴくりと眉を動かしました。
「例えばどんな?」
「一生困らない、その世界のお金とか」
勇者がお金のために魔王を倒すというのは、激萎えですが仕方なしにそう提案しました。
「お金なんて、現物交換の取引だと、腐ったりして保存できないので、代替品として人間が用意したまやかしですよ。べつにそんなもの欲しくありませんが」
経済学者かなにかかこの子は!?
仕方なしに、別の提案をすることにします。
男の子が、欲しいものといえば、あれでしょう。
「魅力的な異性とかを囲えるハーレムとかいかがですか?」
「生き物は、劣化してしまうので、遺伝子の乗り物として、子孫が必要ですね」
物言いは、あれですが、本能には逆らえない様子。
「では、ハーレムを作れる能力を……」
「ですが、転生できるということを知り、未来にも自分という存在が残るということを理解した今、異性がそれほど必要だと思いません」
もうすでに精神が神の領域に!?
ほぼ、人間の欲望が崩壊しているとしかおもえません。
「ど、どうすれば、魔王を倒してもらえますか?」
「うーん」
男の子は、考えるそぶりをしました。
「仕方ありませんね、とりあえず全部もらってみてもいいですか? 一つぐらい気に入るのがあるのかもしれないので」
「あ、はい」
私は、言われるがままに、チートスキルや、魔法や、能力を男の子に渡しました。
男の子は、能力をもらうと、頷きました。
「では、魔王を倒しに行ってきます」
「よろしくお願いします!」
意外と、駄々こねることなく、無事、男の子は、魔王討伐のたびに出ました。
私の見込み通り、チートスキルや魔法を使いこなす能力はすさまじく、あっというまに魔王を討伐することができました。
そして、魔王を倒した勇者は、私の与えたチートスキルや、魔法、能力を使い、新たな魔王として君臨することになりました。
「どうしてこうなった……」
女神の啓示を受けた勇者ですが、勇者に魅力を感じないので魔王を倒しに行きたくありません。 名録史郎 @narokushirou
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