本当の自分って

夏色りく

第1話 "みんなの委員長"と"不思議な少年"


「委員長、宿題見せて〜」




『わかりました』





「その、相談に乗ってくれないかな、委員長」




『はい、いいですよ』





「あっ委員長、このプリント、クラスにお願いね」




『はい』





これがみんなの委員長こと私、海堂水月かいどうみつきの日常。 





頼られることは、嫌じゃない。それは、自分の存在を認められてる気がするから。





だから、これからも、こんな生活が続く、そう思っていた。思っていたのに、たった一言で覆された。





「ねぇ、本当の君はどこ?」





唐突だった。話したこともない、見たこともない、不思議な少年。





『えっと、』





言葉に詰まった。驚いたのもあるが、それだけじゃなかった。





その子の目をみると、全て見透かされてるような気がしたからだ。






『本当の私って、急に何ですか?話したこともないですよね』





私なりの必死の抵抗だった。





「見てたから、君のこと。誰に対しても優しくて何でも頼まれる、みんなの委員長」





そうだ、私は、みんなの委員長だ。





この人もちゃんと分かってる。





『だったら、変な質問しないでください』





単なる気のせいにして。





「でも、それは委員長としての君でしょ。」





胸が締め付けられそうだった。





『そんなこと』





否定ができなかった、いや、否定もさせてもらえなかった。





「いいな」





『えっ』





「…って、放課後の教室でつふやいてたよね。外を眺めながら、一人でね」





〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『いいな』





思わず呟いていた。





誰とでもすぐ仲良くなるクラスの人気者





羨望せんぼう眼差まなざしを注がれる学園のアイドル





みんなからの期待を裏切らないエース





誰になんと言われても我が道を行く一匹狼





学校には、いろんな個性を持つ人たちがいる。





放課後の教室から外を見渡しながら思った。






『わたしはそんな風になれないよ』






だって、私は、私には、自分がない。





ただのみんなのイメージの集合体でしかない。





顔色をうかがうことがくせになり、自分でしたいことが分からない。





『ほんと嫌になる』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜







全部聞かれていた。





「だから、君はもっと」





『いい気味ですか』





「えっ、何でそうなるの?」





心底驚いた顔でこちらを見てくる。





『だって、みんなの前では、委員長として振る舞ってるくせに、本当の私は、何にもない落ちこぼれだって』





「そういうことじゃなくて」





『あなたが言いたいのは、こういうことでしょ』





強い口調になってしまった。





今日、初めて会った相手に。





『ほんと私が嫌になる』





「ふふっ」





急に、あの子は笑った。





「おもしろいね。本当の君は、最後まで人の話を聞かないんだね、ふふっ」





なんで、ひどい言葉をぶつけたのに、本当の私が見られたからって、良いことじゃないのに。





『それは、あなたがバカにしようとしたから』





「ちゃんと怒れるんだね」





目を細めながら、嬉しそうな顔をした。





『何なんですか』





顔に熱が集まってくる感覚がした。





すると突然、---ピピピッ、ピピピッ

アラーム音が教室に鳴り響いた。





「ヤバい、早く帰らなきゃ」





『えっ、ちょっと』





「今の方がいいよ。また今度ね、水月」





放課後の教室に静寂が戻った。





『なんだったんだろう、あの人は』





この出会いをきっかけに、今までの性格をガラリと変えることは・・・









できなかった。

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