女性となる私から彼女への手紙
陽女 月男(ひのめ つきお)
第1話
私は、女性ホルモン剤を服用し始めて7年目となる。初めは、女性的な髪、肌、肉付きなどへの憧れからだった。女性ホルモン剤の服用には、性欲減退や勃起障害の副作用があるが、それが生じないように、体の変化に細心の注意を払って、服用量をコントロールしていた。
そして1年前、自分の自認性が女性であることに気がついた。そして、それを認めるしかなかった。認めてしまうと、「私は何者なのか、何を望んでいるのか、これから何がしたいのか」思い悩んでいたのに、嘘のように気持ちが楽になった。
私は女性である、これからは女性として生きると決めたなら、それなりの覚悟が必要である。服装だけでなく、立ち振る舞い、仕草なども女性として認識されるよう努力した。それが一定程度できるようになったと思えた半年前、本格的に女性化を目指した。立ち振る舞い、仕草に加えて、声、話し方、話す内容なども女性的であるように努力した。そして、自分は女性である、トランス女性であると公言するようになった。
こんな私の現状について、恋人の奈緒には一切話していなかった。1か月に一度会うのが精一杯の秘密の関係だったからだろうか、奈緒は気づいていなかった。
しかし、私が最近始めたInstagramのプロフィール欄には、そのことが書いてある。奈緒はそれを見たのである。Instagramを見るように仕向けたのは、私自身であるだが。
奈緒は、私から直接知らされたのではなくInstagramを見て知ったことに、悲しみ、憤り、その感情を私にぶつけた。女性になる私と、これからどのように向き合い、付き合って行けば良いのか、とても困惑してもいた。
私は、今も奈緒を愛しているし、将来も奈緒を愛し続ける。奈緒を離したくないし、失いたくない。しかし、苦しみ悩む奈緒を、もう見ていられない。奈緒を楽にしてあげたい。その気持ちを、手紙に託した。
こんな手紙に。
愛しい愛しい
絶対に離したくない
大好きな
奈緒へ
「貴方は、どう変わり果てるのか。そんな貴方を受け入れられるのか。」この奈緒の思い、不安に対し、私は何も言うことはできない。何故って、私がどの様に変わるのか、変わらないのか、自分でも分からないから。
今の私を受け入れられるように、努力している奈緒。前提は、受け入れられていない、ということなのですよね。苦しんでいるんだよね。でも、苦しんで、受け入れる必要って、ないんじゃない?
今は代わりの男がいないからイヤでもガマンするのか、それともガマンできないか、ってことなのかな。
私は、最近、奈緒から今までで一番、愛されて大切にされていて、とても幸せでした。
でも、その愛は、今の私に向けられた感情ではないのでしょう。昔の僕への思いなのですよね。そして、今の私と接していて、今の私から感じ取れる昔の面影を追いかけているだけなのかな。同じ人だから、面影はあるのでしょうから。
私が男か女か。奈緒には、それが重要な事柄なんだよね。私は私。奈緒が感じたとおりだよ。どの様に分類するのか、しないのか、すべて奈緒の自由な判断。
つらい思いをさせているね。私のせいだよね。ごめんなさい。そんなつらい思いをしなければならないのは何故?
もういいんだよ、そんなにつらいのなら、切って捨てればいいだけだよ。貴女が愛する僕は、もういないのだから…。
奈緒の気持ちが、楽になりますように。
女性となる私から彼女への手紙 陽女 月男(ひのめ つきお) @hinome-tsuki
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