帳。

燈幻桜

僕は、雨が好き。

静かで、何も言わないのに、

僕にかたりかけてくれるから。


僕は、雷が好き。

大きくて、力強くて。

それなのに、すぐに消えてしまう、儚さをもってるから。


僕は、僕が嫌い。

いつも、「僕」じゃないみたいに振る舞って。

みんなに認めてもらって、優しい言葉をかけてもらって。

偽善ぶって、人助けなんかしてみて。

吐き気がする。


僕は、みんなが好き。

こんな僕を、赦してくれるから。

辻褄の合わない世界の不条理みたいな、

計算の果てに出てきた計算できない特異点みたいな、

そんな僕を受け入れてくれるから。


もう何年も前の話。

僕の「おともだち」が死んだ。

僕を残して。

あるエライヒトが、言った。

僕は、下等種族らしい。

そうなのかな、ほんとに。


でも、

もしこの世界に神様がいるんなら、

その神様はとってもずるい。

なんでもできるのが神様なのかな?

…そんなの、嘘だよ。

だって、君も死んじゃったじゃん。


でも、そんなことはどうでもいいんだ。


僕は、水晶が好き。

いつもキラキラ輝いてて。

ちょっとナニカが入り込むと簡単に色を変えちゃう癖に、

ちょっとやそっとじゃ「水晶」であることは変わりやしない。

だから僕は、水晶が好き。

だからきっと、君も水晶が好きだったんだよね。


こんなことしても意味なんかないのに。

そんなこと、自分が1番わかってるよ。

ほら、流れ星。

夜風が、心地いい。


そうだ、

僕は夜が好き。

月の光が僕の心を照らしてくれるから。

星の光が僕の心を満たしてくれるから。

その闇が僕の姿を隠してくれるから。


君が死んだのも、こんな夜だったっけ?


僕は、僕が嫌い。

ほんとはなんにもできない癖に、

不敵に笑って「かかってこい」。

ほんとは自信なんか少しもないのに、

「僕だからね」って自慢げに言う。

人の愛し方なんか知らないのに、

「愛してる」って囁く。

でも。


僕は、みんなに感謝してる。

「何言ってるの」、

って笑い飛ばしてくれた。

「ありがとう」、

って笑いかけてくれた。

「大好きだよ」、

って抱きしめてくれた。

だから。


次こそは、って言ってみる。

今度こそは、って笑ってみる。

もう二度と、失望させないために。

もう二度と、失敗しないために。


でも、とりあえず。

今は、おやすみ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

帳。 燈幻桜 @cereso

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る