第6話 スキルと変化
【F級スキル:氷属性を獲得しました】
【F級スキル:身体強化がレベル5に達しました】
【よって、ランクが上昇します】
【……お待ちください……】
【おめでとうございます!!】
【E級スキル:身体強化になりました!!】
「……おぉ」
スマホの通知がうるさく、アプリを開くと鬼のように通知が届いていた。友達がおらずソシャゲもそんなにしないので、こんなに通知が届いたのは生まれて初めてだ。
普段はお母さんからの通知くらいしか、俺のスマホには届かないからな。……自分で言っていて、なんだか悲しくなってきた。
「……何はともあれ、ステータスを見るか」
─────────────────
【名 前】:
【ランク】:E
【スキル】:身体強化 Lv5
氷属性 Lv1
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「……新たなスキル、だな」
レベルが上昇したことで、身に溢れるパワーもさらに向上した。それにランクも上昇し、F級からE級に上昇した。……とはいっても、これが何のメリットになり得るかは、未だにわからないが。
まぁ、そんなことはどうでもいい。
最も気になるのは、このスキルだ。
大蛇を倒したことで手に入れた、【氷属性】という名のスキルが一番気になる。
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スキル:氷属性
ランク:F級
説 明:氷属性を使えるようになるスキル
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「……相変わらず、まんまだな」
説明になっていない説明に、思わずため息を零してしまう。だがそれと同時に、このスキルを得たことへの喜びが胸中を駆け回る。
この説明から察するに、つまり俺は……魔法が使えるようになった、という認識で問題ないだろう。氷を顕現できる魔法を、俺は習得したという認識で間違っていないだろう。
魔法、それは人類の夢だ。
魔法、それは少年の希望だ。
魔法、それは俺が求めた力だ。
そんな力を得たのだから、興奮が抑えられない。鼻息が荒くなり、今すぐ発動したいという欲が脳を巡る。
「さ、さっそく──はッ!?」
発動してみようと意気込んだ途端、脳内に記憶が流れてきた。現状俺が発動可能な氷属性の数々の発動方法が、脳内を駆け巡ったのだ。
どうやら今の俺は、下級魔法相当しか発動できないらしい。魔法には下級から最上級魔法まで存在するので、最も下位の魔法しか発動できないようだ。F級のスキルなので、仕方ないことなのだが。
「階級なんて、どうでもいいか。とりあえず、今は発動してみよう」
右腕を前方に伸ばす。
集中。イメージ。
すると、右手に水色の魔法陣が浮かんだ。
さらに集中。イメージを途切らない。
身体の中から、何かが抜ける感覚がする。
おそらく俺の中の魔力を、魔法陣が吸い取っているのだろう。今から発動する魔法の糧とするため、俺の魔法を活用しているのだろう。
集中、イメージ。集中、イメージ。
集中、イメージ。集中、イメージ。
集中、イメージ。集中、イメージ。
そして──発動。
「《
顕現したのは、野球ボールサイズの氷。
キラキラと輝き、光を反射している。
サイズこそ小さいが、しっかり冷気を発している。触れているだけで、手がジンジンと痛い。
とりあえず、手が痛いのでその辺に発射した。
ヒュンと飛んでいく氷球は、壁に激突して砕け散った。そして破片は魔力の粒子となり、魔物と同じように霧散した。
「これが……魔法か……!!」
魔法の規模こそ小さいが、喜びは巨大だ。
なんたって、人類の夢を達成したんだ。
なんたって、俺の夢を達成したんだ。
ネット小説が好きな俺が、愛してやまなかった……魔法という技術を発動できたのだ。寝る前に夢想したことが、現実にできたんだ。
こんなに嬉しいことはない。
こんなに感慨深いことはない。
あぁ……生きていてよかった。
「最高だよ、ダンジョン・サバイブ!!」
俺の喜びの声が、部屋中に響いた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
感情の昂りが収まったのは、それから1時間後だった。つまりダンジョンから脱した時には、辺りは薄暗くなっていた。時刻は18時を回っていた。
コソコソと逃げるように帰ろうとしたが、運悪く先生に見つかってしまった。そして長めの説教を受け、20時に解放された。被害届を出されていなかっただけ、まだマシだったかもしれないな。
その後、帰宅と同時に、今度はお母さんからの説教を受けた。全ての説教が終わったのは夜の22時で、そこから俺はダンジョン攻略の疲労もあって泥のように眠った。
「……で、今に至るんだよな」
洗面台の鏡に映る男を見て、思わず硬直してしまう。昨日の行動を全て思い返してみたが、まるで思い当たる節がない。鏡の中に存在する、この男に関しては全てが謎だった。
パッチリ開いた二重瞼。キリッとした眼。
スゥッと通った鼻筋。白い肌に映える唇。
まるで映画俳優のような、美形という言葉が霞むようなイケメン。端正過ぎて輝いて見える、
身長は199センチほどだろうか。洗面台の鏡に映る為には、背中を曲げなければならない。身体は細身ではあるが、ボクシング選手のように引き締まった身体つきをしている。贅肉は欠片ほどもついておらず、筋肉は彫刻のように鍛え上げられている。それが鏡に映る男の身体だった。
パジャマはパツパツになっている。
だがしかし、それもまた絵になる。
俺が着たら「サイズが合っていないブサイク」「お母さんに買ってもらった小学生の時のパジャマを、今でも着ている貧乏人のブサイク」などという感想を抱かれるだろうが、この男が着たら「あえて、そう着ている」「むしろ着こなしている」などという感想を抱かれるだろう。
「…………………………誰?」
鏡に映るのは、陰キャではない。
正確には陰キャの面影が若干ながら残っているだけの、ほとんど別人のイケメンの姿だった。思わず見惚れるほどの、究極の美形だった。
鏡の中の美形は、俺と同じ動作をする。
俺が顔に手を触れると、同じく鏡の中の美形は顔に手を触れる。俺が頬を引っ張ると、同じく鏡の中の美形も頬を引っ張る。
「もしかして、これ俺か?」
ひとつ、今思い出したことがある。
昨日、寝ている時に激痛が走ったのだった。
だが眠気には抗えず、すぐに寝たのだが。
意識を失う前にバキバキという、何かを折るような音が聞こえたのだが……まさか肉体が変容する音だったのか?
信じがたいことだが、信じる他ないだろう。
俺は確実に変わった、超絶美形に。
理由はおそらく……【身体強化】だろうな。
肉体が強化されたから、こんな身体に変容されたのだろう。知らないが。
「イケメンになったことは素直に嬉しいけれど、こんなに変化して……みんな俺のことを認識してくれるだろうか?」
前の俺の姿と、あまりにも違いすぎる。
その為、別人という扱いを受けるかもしれない。DNA鑑定や指紋鑑定を行えば同一人物だと証明できるだろうが、わざわざそこまでしないといけないことが億劫だ。はぁ……世知辛いな。
とりあえず、真っ先に解決しないといけないことは……衣服の問題だな。今着用しているパジャマもそうだが、身体が大きくなったことで丈が全然足りていない。横幅は問題ないのだが。
「志苑!! まだ歯を磨いてるの!!」
と、そんな時だった。
お母さんが、洗面台へと近づいてきた。
これは……マズい。
急いで隠れようと考えるも、既に遅かった。
洗面台のカーテンが開かれ、お母さんと目が合ってしまった。この姿の俺を、お母さんに見られてしまった。
「……」
見るからに絶句している。
明らかに驚愕している。
あぁ、これは……マズいぞ。
最悪の場合……通報されてしまうだろう。
息子の面影が、ほとんどないのだから。
なんて言い訳しようか。
どんな言葉を発しようか。
考えても考えても、脳内が散乱としている。
コミュ障故に、うまい言葉が見当たらない。
「あら、大きくなったわね」
しかし、お母さんの言葉は想像とは異なっていた。いかにも当然のように、ごく普通に言葉をかけてくれたのだ。
「え、あぁ、うん。……って、驚かないの?」
「成長期なんだから、急に大きくなっても驚かないわよ。そんなことよりも、朝ご飯は納豆パンで良い?」
「あ、うん」
嬉しい。
慌てふためくことも「親だから、どんな姿になってもわかるわよ」的な感動的な展開を行うことも、そのどちらにも当てはまらない普通の反応をしてくれたことが嬉しい。あくまでも普通の出来事として接してくれて、大げさに扱わないでくれてありがたい。
……女手ひとつで、ここまで育ててくれた母さんには、感謝してもしきれないな。思春期の頃は冷たい態度を取ってしまったし、最近は気恥ずかしくて会話も疎かになっていたが……今さらになって感謝の情が湧いてきた。こんな姿になっても気付いてくれたから、感謝の感情が火山のように爆発したのだろうか。
「それにしても、アンタ……服を買い替えないといけないわね」
「あぁ、そうだな。母さん、何でもいいから買ってきてくれるか?」
「中学生って、そういうの嫌がるものじゃないの……?」
普通はそうだろうな。
ただ俺は陰キャなので、嫌がりはしない。
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