謎のアプリのおかげでダンジョンに挑めるようになりましたが、どうやらレベルアップできるのは俺だけみたいです
志鷹 志紀
第1話 便所飯と謎アプリ
「……最悪だ」
この俺、
高校に入学して、1ヶ月と少し。未だに……友人が1人もできない現状に。アンモニアと人糞の臭いに顔を歪ませながら、1人孤独に便所飯を嗜なければならない現状に。
「キラキラ青春ハッピーライフとは、ほど遠いな」
4月1日、俺は高校に入学した。
中学時代に結構勉強を頑張ったので、地元で最も頭の良い高校の『山優高校』に入学することができたのだ。
新鮮な高校生活、新たなスタート。
中学時代は陰キャな俺だったが、この機会に自分を変えようと思った。友人を作り彼女を作り、順風満帆な青春を謳歌しようと思った。
「だが……それらは叶わなかったな」
別に容姿が悪いわけではない。
165センチの身長に、55キロの体重。
黒い髪は少し長めで重いが、不潔というほどではなく悪印象は与えないだろう。顔立ちも別段悪くない。
中肉中背で少し雰囲気は暗いものの、別に際立って悪いわけではない容姿。それなのに俺には1人たりとも、友達がいない。何故かというと──
「……このコミュ障さえなければ、友達100人くらい楽勝なんだけどな」
俺は根っからの陰キャだったので、人とマトモに話すことができないのだ。クラスメイトに話しかけようとするも、オドオドしてしまい……マトモに言語を紡ぐことができなかったのだ。
その結果が、この便所飯だ。
クラスメイトのほとんどはキャッキャウフフと仲良く飯を食っているのに、俺だけが便所で握り飯を食う屈辱。同族だと思っていたオタク君たちでさえも、オタクグループを形成して彼らなりの青春を過ごしているというのに。
「悔しい……。俺も……青春を送りたい……」
握り飯を食いながら、ブツブツと呟く。
ハァ……このコミュ障さえなければ、友人だって作れただろうに。彼女だって作れて、最高の青春を送れただろうに。
コミュ障の改善……は難しいだろう。
5歳の頃に幼馴染の女の子にフラれたショックで、俺は人間が怖くなってしまった。その時から、俺はコミュ障なのだ。
「まぁ、今は一時期ほどは酷くないけどな」
ただ今となっては人間への恐れは、かなり改善されている。なんたって満員電車に乗れるし、人と2秒以上目を合わせることだってできるんだからな。かつては両方無理だったので、俺にしてはかなり改善された方だ。
だがしかし……口下手は一向に改善されない。人と話すとなったら、会話が詰まる。
脳内の引き出しを開けるも、微妙な内容しか出てこない。絶対に相手が興味を持たない、くだらない内容しか俺の引き出しには仕舞われていない。
「もっと会話デッキのバリエーションを増やすべきか……? だが……中々難しいからな」
興味のない話題に手を広げるのは、中々難しいものだ。俺も友人を作ろうと努力をして、アイドル番組をべらぼうに見ていた時期がある。だが……残念なことに、全くおもしろいとは思えなかった。
アニメも人並み以上に好きだが、クラスのオタク達の話す内容は声優や声優のラジオばかり。誰もアニメの内容自体を語ろうとしないし、俺は声優に興味が無い為……ここも難しかった。
「……悲しんでも仕方ないか。今は……ゴールデンウィーク明けにある、修学旅行をどう乗り切るかを考えないとな」
ボッチにとって、一番の地獄イベントである修学旅行。中学時代もボッチだったのでこのイベントには苦い思いでしかないが、今はそんなイベントをどう乗り切るかを考えなければならない。
「いや、これは……むしろチャンスか?」
中学時代に見たことがある。
修学旅行中に陽キャたちと仲良くなって、修学旅行明けから陽キャグループに入ったボッチの同士を。そんな彼らのことを血涙を流しながら、羨んだのでよく覚えている。
「修学旅行中におもしろいことをしたら、俺も陽キャグループに入れるのか……?」
おもしろいこと、ってなんだ?
裸になって、踊ればいいのか?
芸人の物まねをすればいいのか?
バク転しながら、コーラを一気飲みすればいいのか?
いや、それらはサムいな。
もっとインパクトが強くて、イカすことをしなければならない。俺の祖母は大阪人なので、関西の血がサムいことはするなと轟き叫んでいる。
「陰キャな俺が、実は超おもしろかったというギャップが欲しいんだ。もっと……愉快痛快、最高なことをしないとな」
そんなことを考えていると、あっという間に時間が過ぎた。昼休憩も残り5分という所まで、差し迫ってしまった。
「おっと、そろそろ帰るか」
肩をガックリと落とし、ため息を吐く。
ハァ……ボッチに教室はツラい。
花粉症にとっての、寝起きくらいツラい。
「……今のフレーズ、おもしろ──」
そんな時、スマホから通知音が響いた。
いつものスパムか、或いは広告か。
何はともあれ、スマホを開くと──
【新たなアプリをインストールしました】
という通知が、スマホに届いていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「……【ダンジョン・サバイブ】?」
ホーム画面の右下に、見知らぬアプリが鎮座していた。真っ白なアイコンに【ダンジョン・サバイブ】と記載された名前、当然こんなアプリをインストールした記憶はない。
「……怖いが開いてみるか」
アプリを開いた瞬間、スマホをハッキングされるかもしれない。スマホがショートする可能性も、ゼロではないだろう。
だが、好奇心が抑えられない。
ダンジョンという響きが、俺の心の中の中学2年生をくすぐる。理性ではやめておいた方が良いとわかっているのに、ワクワクが止められない。
そして──
──【ダンジョン・サバイブ】を開いた。
【おめでとうございます!!】
【あなたは最初のプレイヤーです!!】
【特典として、『F級スキル:身体能力強化』を譲渡します!!】
アプリを開いた瞬間、そんな文字列が表示された。
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