この世界をゲームだと勘違いしてるオレっ娘がダンジョン攻略を始めたら? 配信でバズってダンジョンどころか現実さえも攻略するようですよ!?
ヒサギツキ(楸月)
第1話 バズって、オレっ娘は伝説になる
「ミズリ~ン、チャンネルぅ~♪」
人気アイドルの星瑞姫こと、ミズリンは元気よく、カメラに向かって挨拶した。
画面には多くの歓喜のコメントが寄せられる。
:おぉぉぉ!! ミズリンィィィン!!!
:【50000P】待ってました!
:【40000P】今日も推しが可愛い!
:【10000P】やったぁぁぁぁ!
:【5000P】尊いよぉぉぉ!
「投げ銭ありがとうみんな~、ミズリンも今日の配信楽しみだったよ~♪」
手を振って満点の笑顔を振りまくミズリン。
アイドルの返しとしても満点回答だろう。
コメントが凄い勢いで打ち込まれる。
:ミズリンのダンジョン配信全裸待機してました
:草
:服着てもろてwww
:企画とはいえ、よくアイドル系クランがOKしたよね
:ブルーバブルはそこんとこ寛容だし
:まぁD級ダンジョン程度なら子供でも倒せるし
:二年前とは大違いだよな?
:モンスターにびくびくしてた頃が懐かしいわw
:ほんと、クランさまさまだぜ
:今はダンジョン攻略も命懸けじゃなく娯楽レベルだし
:それな!
リスナー達は、人気アイドルのダンジョン配信という、珍しいイベントに大盛り上がりだ。
二年前、のちにダンジョン災害と呼ばれる事件。
世界各地にダンジョンと呼ばれる謎の建造物が突如発生し、その中から異形の怪物たちが這いより、町を、人を、国を蹂躙し、法も経済も全てを破壊した。
世界を大混乱に陥いらせたのだ。
だが、それも今は昔の話。
ダンジョン災害発生と同時に特殊な技能を扱う者たち。能力者と呼ばれる者たちが集まり。クランという自治組織を立ち上げ、ダンジョン災害発生から、わずか一年足らずで沈静化、復興までやってのける。
現在はダンジョン災害の沈静化に大きく貢献したクランが、何も出来なかった無能な政府に代わり、国を統治している。
ブルーバブルは日本を治めている七つの大クランの一つ。
ブルーヴァルキリーの傘下クランである。
主にこのクランはアイドル活動が主なクランなのだが、企画でダンジョンの配信をしているようだ。
今はダンジョンを散策する配信がトレンドなので、その流行りに乗ったというところだろう。
ミズリンの周りには、雇ったボディーガードとスタッフが慌ただしく動いているようだ。
その様子を特殊なドローンカメラの映像で確認できる。
「今回はスタッフさん達と一緒に、ミズリンがダンジョン内を散策していくよ。最後まで見ていってね!」
:もう余裕だろwww
:D級ダンジョン散策する人数じゃないwww
:万が一ミズリンにケガさせたら問題だからだろ
:それは絶対ダメだ!
:ケガしないように頑張ってね!
「は~い、ミズリンも今日は頑張るよぉ~!」
えいえいおーと可愛らしく片手をあげる。
:可愛い……
:神……
:ゴット!
:可愛さの天元突破!!
「みんなありがとう~♪ じゃあ、もっと奥の――」
「グルアァァァ!!!!!」
突如、ドローンのカメラがビリビリと揺れるほどの咆哮が、配信先から流れる。
:な、なんだ!?
:今の咆哮何!?
:D級にこんな吠えるモンスターいたか!?
:いや、いないだろう!
:えっ、もしかして……
:イレギュラーって、こと!?
ドローンのカメラが、音がした方向を向けられる。
そこには黒く大きな陰があった。
大きな巨体に、鋭い鉤爪と牙。
グルルルと喉を鳴らし、獲物を見定める黄色い瞳。
狼を彷彿させるこのモンスターは、
:ブラックフェンリル!?
:何でD級ダンジョンにA級モンスターがいんだよ!
:つか、そのA級モンスターの情報どこで手に入れた?
:金さえ出せば、いくらでも手に入る。
:そんなことより、今は何でそいつがいるかだよ!
:ありえない……
:ミズリンがヤバい!!
:逃げてミズリン!!!
黒狼は前足を振りかぶり、横薙ぎに振り下ろした。
鋭い爪に当たった人間が、まるでバターのように小間切れになる。
:やばいやばいやばいやばい!!?
:何で何もしねぇんだよ!!
:A級の攻撃に反応できる奴がいるわけねぇだろうが!
:ただの一般クランが戦える相手じゃないって!!
:お願いだから逃げてミズリン!!!
「あっ……あっ――」
その悲惨な光景を見たミズリンは、その場から動けなくなってしまう。そうしている間にも、ブラックフェンリルは攻撃は止まらない。
抗う者を容赦なく切り裂き。
逃げようとする者も切り捨てた。
その度にブラックフェンリルは喉を鳴らす。
まるで、こちらをいたぶって楽しんでるようにも見えた。
ついには、ボディーガードが全員殺され。
ミズリンの前にブラックフェンリルが佇む。
逃げられない……、その場にいる全員がそう覚悟した。
――その時だった。
「すっげぇぇぇっレアエネミーじゃんか! 経験値とかレア素材めっちゃ期待できそうだぜ!!」
この場に似つかわしくない。
ひどく興奮した少女の声が響いた。
その場にいる全てが声のした方へと視線を移す。
茶髪を一つにまとめ、ポニーテールにした勝気そうな、美少女。少しくたびれた初心者用防具とショーパンを装備し、手には使いこまれた水色の槍を持っている。
装備自体は古そうだが、それにしては年齢が若すぎる。
明らかにお古の装備をもらい、今日初めてダンジョンに潜りましたという格好だった。
:美少女キタ!
:いや、ただの状況分かってない初心者じゃんか!
:名も知らぬ美少女逃げて! 超逃げて!!
:美少女失うのは世界の損失!
コメント欄が突如現れた美少女を心配するコメントであふれる。
「に、逃げて! ミズリンたちのことはいいから、君だけでも!!」
ミズリンが震えながら頑張って声を張る。
だが、状況が分かっていないのか。
少女はキョトンとしている。
「逃げる? 何で?」
「何でって……」
:ヤバい、この子状況全く分かってない
:誰だこんなところに初心者置き去りにしたバカは!
:いや、こんな状況想像できるわけないって
少女が持っている槍を構えた。
「せっかくの経験値がもったいないじゃんか? レアエネミー相手に普通逃走するか? 是が非でも倒すだろうが!」
「君、ほんとに何の話してるのっ!!?」
:マジでなんの話だよ!
:ブラックフェンリルの前でしてる会話じゃねぇよ!
:ゲームやってんじゃねぇんだぞ!?
:この子頭のねじが飛んでる美少女だったか
:可愛いそうに
:誰かこの子の頭に絆創膏貼って!
:出来るだけ大きな! 人一人包みこめるくらいの!
ブラックフェンリルはミズリンから視線を外し、声の大きい少女に方向を変えた。
:あっ……
:やばい……
:タゲが少女の方に!
ブラックフェンリルが少女に爪を振り下ろす。
何も知らぬ少女は、ブラックフェンリルの餌食に――
「よっ、と!」
ならなかった。
槍を棒高跳びのように使い、ブラックフェンリルの攻撃をうまく回避した。
:はっ?
:えっ?
:ちょっ!? あの子、簡単そうに避けなかったか!?
:ありないだろ!
:A級モンスターの攻撃だぞ!?
:偶然か?
:槍が地面にたまたま引っかかって、浮いたってこと?
:ありえる……か?
:フェイク動画?
:いや、それだったら映像編集神がかり過ぎだろ
:技術クランの者だけど、この映像マジの生配信
:何度解析させてもリアルタイムの配信って出てる
:技術クランのお墨付きキタwww
:えっ!? じゃあマジで避けてんの?
:この少女何もんだよ!?
地面にくるりと着地し、嬉しそうにポーズを決める少女。
「やっぱ体が思った通りに動かせるっていいな。流石、最新のVRゲームだぜ! 技術の進歩ってすげぇ!!」
ぴょんぴょんと少女が喜び、跳ね周る。
:うん?
:何かわけわけめなこと言い出したぞ?
:VRゲーム?
:未来のお話してます?
:恐怖でおかしくなったの?
:美少女ちゃん現実に戻っておいで!
:何の話してるんだ?
:この子電波ちゃんだったか
「グルルル!!」
ブラックフェンリルは避けられたことに不快感を感じたのか、先程より早い横薙ぎを振り下ろす。
それを、少女は体を捻って回避する。
爪が空を切り、少女の前を通り過ぎる
「見てから回避、余裕だぜ!」
少女がブラックフェンリルにピースサインする。
:可愛い……ってそんなこと言ってる場合じゃねぇ!?
:やっぱ偶然じゃねぇなぁ!?
:この子、普通に反応して避けてやがる!?
:A級相手に見てからって、どんな反応速度だよ!?
:しかもなんちゅう、ギリギリ回避!
:命知らずかよ!?
ブラックフェンリルが煽られて事に腹を立てたのか。
バチバチと帯電し始める。
:やっばい雷魔法来るぞ!
:流石に雷の速度を回避は無理
:でも、避けてもミズリンに当たる!
:万事休すか……
:つうか、さっきまでいた美少女ちゃんいなくね?
:えっ?
先程までドローンカメラに映っていた少女が姿を消す。
ドローンカメラの自動追尾が全く反応せず。
先程の少女を見失う。
すると、どこからともなく少女の声が響く。
「兄ちゃんが言ってたんだよね。ゲームの大技ってさ? 初動早い技で、キャンセルできるんだって――こんな風に、な!!」
ドローンの追尾機能が声に反応して、少女の方にカメラを向ける。
ブラックフェンリルの真ん前に移動していた少女が、槍を両手で構えた瞬間、少女の手元から、三つの残像を作り出す。
ザシュッザシュッザシュッッ!!!
三回の強烈な刺突音が鳴り響くと、ブラックフェンリルの体に三つの傷跡が刻まれる。
「グガァァ!!?」
攻撃を受けたブラックフェンリルが帯電を止め、怯む。
:ブラックフェンリルが怯んだぞ!?
:何が起こった!?
:あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!
:少女の腕が六本に増えたように見えた瞬間!
:三回の攻撃がブラックフェンリルに当たっていた
:何を言ってるか分からねぇと思うが俺も分からねぇ
:幻覚とかそんなちゃちなもんじゃねぇぜ!
:もっと恐ろしい化物の片鱗を見たぜ!
:いや、ほんとに見えなかったぞ!?
:しかもちゃんと攻撃が通じてる!
:まさか……勝てるのか!?
:噓だろ!?
ブラックフェンリルからは、もう先程の余裕はない。
少女を己を害する敵だと、今の攻撃で判断したようだ。
態勢を低くし、戦闘態勢をとった。
「やっと本気になってくれたか! そうじゃなきゃ、ゲームは面白くないよな? オレをもっと楽しませてくれよ!」
少女は槍をくるくると回し、ニヒルに笑う。
:完全に言い回しが魔王のそれなんですが!?
:というか、このお嬢、オレっ娘なの!?
:オレっ娘大好物です!
:↑聞いてないwww
:立場が逆転してて草
:ミズリン完全に置いてけぼりwww
:もう、口がポカンとしちゃってるw
ブラックフェンリルが爪を高速で複数回振るうと、少女は、その攻撃の間を糸を縫うように避け続ける。
ブンブンと爪が空を切り続けたブラックフェンリルは、苛立ち始める。
もう一度、体を帯電しようとするが……
「攻撃がワンパターンだぜ!」
ザシュッザシュッザシュッッ!!!
少女の三連撃がブラックフェンリルの帯電を阻止する。
それを煩わしそうにブラックフェンリルは体を震わせた。
「ちまちま、やってても埒が明かねぇな?」
自分の持っている槍を、あろうことか少女は上空に放る。
:何やってんのこの子!?
:武器手放すのおバカ過ぎる!
:勝負捨てたんか!?
:このタイミングで何故!?
ブラックフェンリルはそれを好機と見たのか、爪を少女に素早く振るう。
少女は足に力を込め、爪を軽く飛び越す程、天高く跳躍する。
「両腕がダメなら、足を使えばいいんだ、ぜッ!!」
空中で一回転し、槍をブラックフェンリルへと蹴り落とし、強力なオーバーヘッドシュートを決める。
ズガァァァァン!!!
流星の如くぶっ飛んだ槍が、ブラックフェンリルは容赦なく、降り注ぎ轟音を響かせる。
ブラックフェンリルを穿ち、槍が地面に突き刺さった。
「グ……ガァ……」
ドォン!!! という巨体が倒れた重い音が響く。
:倒した!!!!
:マジでぇ!?
:やっばぁぁぁ!!!!!
:七大クランメンバーレベルだろ!?
:何でそんな子の情報ないの!
:まさか、無所属って、こと?
:ほんとに!?
:この強さっだったら、引く手、数多だろうに……
ブラックフェンリルを倒した事に沸くコメント欄。
それだけでも確かに凄い事ではあるのだろう。
だが、ブラックフェンリルの討伐――だけでは、終わらなかった。
突如、ブラックフェンリルが光だす。
:何だ!?
:いきなり光りだしたぞ!
:爆発か!!
:ブラックフェンリルが自爆するなんて聞いたことない
:じゃあ、一体何が起こるんだ!?
瞬間、ブラックフェンリルが光の粒子となって消える。
それは、さながらゲームの消失エフェクトのようだった。
:はっ?
:えっ……何で?
:普通モンスターの死体残るよな
:何が起こってる!?
目を疑うような光景はそれだけではない。
先程バラバラにされ、死亡したボディーガードに、回復エフェクトのような、キラキラとした霧が包む。
その霧に死体が触れるとバラバラだった体が修復され、全員がふらふらと立ち上がったのだ。
「「「「「あれ、俺達死んだはずじゃ……」」」」」
:喋ったぁぁぁ!!?
:死者蘇生!?
:そんな能力者いたっけ?
:いねぇよ!!!
:ネクロ能力でも、ここまで意識がはっきりしたのは、いないって!!
:つまり……未確認の能力って、こと!?
:これ日本どころか、世界中が荒れるぞ!!
:まじでこのオレっ娘何もんだよ!?
:この配信拡散しろ! 拡散!!
そう、死者が蘇るという奇跡を、この配信で視聴者全員が目撃することになった。
A級モンスターを倒したという事実が小さく見えるほどに、その映像は衝撃的過ぎた。
だが、この配信はただの始まりに過ぎない。
この世界をゲームの世界だと勘違いしているオレっ娘が、ダンジョンのある現実世界を、ゲームのように攻略する。
そんな物語の序章に過ぎなかったのだ。
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