第27話 謎の面倒女子

 雨降って地固まるとでもいうべきか、今日は比較的平和だなぁ。

 昼休みという魔の時間は、むしろリア充タイムだったよ。

 男子一人に対して女子三人だぜ? 弁当のおかずを交換しあったり、食べさせあったり、周りの目を気にしなければ最高の時間だったよ。

 ただ、この時間に幸せを感じすぎると、悲劇が再びやってくるんだよな。


「じゃあ、坂本君。私達は帰るけど……危ないことしちゃダメよ?」

「ははは、学校に残るぐらいで大げさな」


 某ホラーゲームの某マンモス校じゃないんだから、学校で危険な目に遭わんよ。

 呪術師とギャンブル部が存在する時点で、まともな学校に比べたら危険かもしれんけどね。


「一応オムツ持ってきたんだけど……念のため履いてく?」


 一応レベルで持ってくる物でもないし、念のためレベルで履く物でもない。

 勘弁してくれよ。オムツのせいで〝オムツァーの坂本〟ってアダ名ついてんだぞ?


「気持ちだけ受け取るよ。また明日ね」


 いやぁ、堂々と礼法室に行けるの嬉しいわ。

 本来ならここで出し抜くイベントが発生するからな。

 とりあえず、昨晩必死こいて一気見したドラマの内容を整理しながら向かうか。

 正直あんまり刺さらなかったけど、好きなシーンぐらいは即答できないといけないしな。主人公の名前とかも、パッと出せるようにしないと……。


「ちょっと待ちなさい」


 女性って、主演の俳優目当てでドラマを見るっていうけど、先輩はどうなんだろ。

 結構イケメンだったけど、俺なんかを好きになる先輩だしなぁ……単純に内容が好きなのかな?


「ちょっと! アンタよ、アンタ!」

「うおっ!? な、なんですか?」


 見知らぬ女子生徒に肩を掴まれる。

 えっと、緑色の上靴だから同学年か? まあ、この辺歩いてるってことはそうか。

 なんていうか、勝気っぽい顔だな。ママモードになる前の委員長を幼くしたような感じの……。


「アンタ、例の坂本よね?」


 俺、例の人になってんの? 件の人なの?

 まさか……オムツァー弄りか? だとしたら、たとえ女であろうと、俺の伝家の宝刀を出すしかないな。

 小学生の頃に同級生を泣かせて禁じられた渾身のアイアンクロー、その名もシャイニン……。


「黒川雅に会いに行くつもり?」


 あっ、そっち? オムツじゃなくて、黒川先輩絡み?

 危ない危ない。もう少しで、この子の頭部を破壊するところだった。


「なぜそう思う? ここは誰でも通る道だぞ?」

「アンタが呪われてるからよ」


 あ? 今、なんて言った? 呪いって言ったか?

 なんで知ってるんだ? 俺が礼法室に出入りするところを目撃したとしても、呪いうんぬんまではわからんだろ?


「キミ、呪いなんか信じてんの? 明るい顔してオカルト好きか?」

「どんな顔よ。皮肉?」


 そこ引っかかるところかね。

 気が強そうってのを、オブラートに表現したつもりなんだが、余計なことを言ったかな。


「天真爛漫で可愛いって意味だよ」

「……なんで初対面の男に皮肉言われなきゃいけないのよ」


 皮肉なんて言った覚えないんだけど、結局受け取り手次第ってことか。

 適当に褒めるってのも、考え物だな。


「悪口を言ったつもりはないんだ。許してくれ」


 なんで褒めたのに、許しを請わなきゃいけないんだろ。


「ふん……そうやって心にもないことばっかり言ってるから、女難になるのよ」


 女難だぁ? それはその……俺の呪いのことか?

 いや、俺の異常なモテ具合は学校中に広まってるだろうし、別におかしな発言ではない。

 俺が引っかかるのは一つ。なんでこの子は、俺が呪われていると確信しているのだろうか。ただそれだけが気になる。それ以外は、この子の名前含めてどうでもいい。


「正直者って言ってくれよ。とりあえず、もう行ってもいいかい?」

「だから待ちなさいって。この似非ハーレム」


 え、似非ハーレム?

 呪いでモテてるだけってことに気付いてるのか?


「アンタと黒川雅の関係は知らないけど、強力な呪いがかけられてることは一目でわかるわ」

「……なぜ? ただ純粋にモテてるだけかもしれないだろ?」

「仮にそうだとしても、なんらかの呪いをかけられてるのは確定よ。で、その異常なレベルの呪いをかけられるのは、黒川家ぐらいなもんよ」


 えっと、つまり……。

 俺が異常なモテ方をしてるから呪いを確信したっていうより、呪いそのものが見えてるってことか?

 なんか疑わしいな。適当こいてんじゃねえのか?


「俺以外に呪われてる人いんの? この学校で」

「結構いるわよ? 野球部の吉田とか、教頭先生とか、学年主任の中川とか」


 おいおい、マジかよ。野球部の吉田って、多分あれだよな? ピッチャー返しで片金になったヤツだよな?

 で、教頭。そういや教頭に呪いかけるとか言ってたけど……本当にかけてたのか。


「中川って、俺らの学年主任のことか?」

「ええ、あのババアよ」


 口悪いな、こいつ。

 それはさておき、あの先生も呪われてたなんて初耳だな。後で黒川先輩に聞いてみるか。それで答え合わせができる。


「教頭先生にかけられた呪いは大したことないから、黒川雅が犯人とは限らないけど、吉田と中川、そしてアンタは黒川家で確定ね」


 一体なんなんだ? この女は……。

 まさかこいつも呪術師なのか?


「……キミは何者なんだ? 俺になんの用なんだ?」

「教える気もなくなったし、用もなくなったわ」

「は?」


 なんで? なんで急に気が変わったの? 女心は秋の空ってヤツかい?


「せっかくアンタのためになることを、してあげようと思ったんだけどなぁ。急に皮肉言われたしなぁ」


 め、めんどくせぇ……。

 あれを皮肉と捉えるのもめんどくせぇし、引っ張り続けるのもめんどくせぇ。


「俺がいつ皮肉を……」

「可愛いだの天真爛漫だの言ってきたじゃない」

「事実だろ。セクハラと捉えたなら謝るよ」


 こいつの正体はわからないが、ここで縁を切っちゃいけない気がする。

 呪いを解く足がかりになる可能性がある……かもしれない。ワンチャン、本当に薄い目だが、ゼロではないはず。

 どうする? 伝家の宝刀、土下座を出すか? それとも武力行使で、禁断のシャイニングフィ……。


「謝るぐらいなら訂正しなさいよ」

「訂正って……褒め言葉を?」

「当たり前でしょ。機嫌を取ったつもりなんでしょうけど、不愉快よ」


 本当に面倒な女だな。呪い抜きで面倒な女と接するの、久々かもしれん。


「本音を言ったに過ぎないんだが、嫌ならもう二度と言わない。これでいいか?」

「……本当に本音なの? 私を利用するためのご機嫌取りじゃないの?」

「苗字すら知らない相手をどう利用しろと」


 俺の正論を受け、『そう言われてみればそうだ』という顔をする。

 訂正するよ。ただの面倒な女だと思ってたけど、面倒だけど面白い女だわ。


「本音だって言うなら、アンタの拙い褒め言葉を受け取ってあげるわ」


 なんで上から目線なんだろう。

 褒めるという行為は、お伺いを立てなきゃいけないものなのか?


「……ありがとう」


 下手に言い返すと話が進まないので、俺のほうから折れる。

 どこでも土下座できる男は、いつでも折れることができる。プライドは母親の腹の中に置いてきた。ついでにいうと男気も置いてきた。母親の腹の中は、俺が残したものでパンパンだよ。


「それで……キミは誰? 呪いについて何を知ってる? 黒川先輩とどういう関係なんだ? 黒川家とか言ってたけど、他にも呪術師の家系が……」

「待った。無駄に時間を使いすぎたわ」


 マシンガントークのように質問を投げかけたが、一つも答えてもらえない。それどころか、お開きしそうな空気感だ。


「黒川雅と会う約束なんでしょ? 早く行きなさい」


 呼び止めておいて何を言ってんだ?


「あの、キミの名前だけでも……」

「いいから行きなさい。私のことは、黒川雅に話しちゃダメよ。絶対によ」


 なんだあいつ? 絡むだけ絡んで、足早に去っていきやがって。

 謎だけ残して消えやがって……。

 だが、一つだけわかったことがある。いや、あくまでもなんとなくなんだが、あの女の子は、黒川先輩と対立しているような気がする。

 黒川先輩に気付かれずにコンタクトを取らなきゃいけない系か……時間かかりそうだなぁ……。

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