第17話 恋愛宣言
黒川先輩に呪われてから一週間、とても濃密な一週間。
体感的には軽く一年以上だろうか? 単純計算だが俺の人生は、人の五十倍以上の密度という計算になる。
幼稚園児時代は当然ノーカンとして、女の子と手を繋いだことなんて、今まで一度たりともなかったぜ? 体育祭のフォークダンスもノーカンね、当然。
そんな俺が美人の先輩からラブレターを貰ったんだぜ? しかも結婚を前提での交際を迫られてさ、婚前交渉までしてくれるんだってよ。
そっからは、幼馴染と手を繋いだり、腕を組んだりしながら登校してさ、勝ち組としか言えないよな? 朝起きたら幼馴染が跨ってたとか、ギャルゲーとかラノベの世界でしかありえないと思ってたよ。
隣の席の美乳ギャルと幼馴染に弁当を作ってもらって、同級生の三人にオムツを履かせてもらい、名前も知らない素朴な美少女にパンツ見せてもらったり、路上キスをかわしたり……。
待ってくれよ、まだ回想の途中だってのに、イベントが渋滞を起こしてるぞ。
この時点で一週間の密度じゃないってばよ。内容も内容だし。なんだよオムツ履かせてもらうって。
透明な先輩が迫ってくるとか、それもうホラーですやん。
ギャルのお漏らしを背中に浴びたり、一緒にお風呂入ったり……。
俺って恵まれてるのか? それとも不幸なのか?
要所要所では勝ち組だけど、総合的に見ると不幸な気がする。
「柊木の服、ちっせぇなぁ。身長そんなに変わんねぇのに」
「ひどぉい! せっかく貸してあげたのにぃ」
「パンツは返せないかもしんねぇな。ヒップが違いすぎんよ」
「しょうがないなぁ、椛ちゃんは」
俺にとって幸運なのは、ヤンデレ同士で意外と仲がいいということだ。
俺をめぐって血で血を洗う争いになると思ってたんだけど、服を貸す程度に仲が良いようで、一安心だな。
……考えようによっては、徒党を組んで襲ってくるってことに他ならないんだが。
いや、これでいいんだ。俺の身の安全を考えれば、ヤンデレ同士で醜く潰し合ってくれるほうがありがたいんだが、こいつらも被害者って考えるとこれでいい。
このまま傷つけあうことなく、呪いを解いて……。
待って? 呪いが解けた後ってどうなるん?
さっき三人で一緒にお風呂に入ってしまったわけだが、呪いによる好感度上昇が無くなったら、殺されるんじゃないか?
楓は中学時代から俺を好いていたらしいけど、熊ノ郷はどうなんだ?
佐々木君もろとも蹴り殺されるんじゃ……。
「なぁ坂本? 柊木の服、アタシに似合うか?」
「……シャツのプリントが伸びて面白い」
犬らしき生物が、解像度ぐっちゃぐちゃになってるよ。おっぱいがでかいせいで。
にらめっこかい?
っていうかシャツは借りなくて良くね? お前の被害は下だけじゃないの? 俺はシャツごとやられたけど。
「小五郎、それって私が貧乳って言いたいの? さっきお風呂でおっぱいをジロジロ見てたよね? あの凝視は、バカにしてたってことなの?」
最近の楓、ちょっとネガティブ気味なんだよね。
でもこれって呪いのせいじゃないと思うんだよ。元から自分に自信がないっていうフシはあったと思う。
お経こそ唱えるものの、性格が一変したってわけじゃないのよな。
「いや、綺麗な形だなって……」
っていうか別に貧乳ではなくない? 熊ノ郷がでかいだけで。
「もぉ、小五郎ったらぁ」
一刻も早く呪いを解きたいけど、一概に悪いこととも言い切れんよな。
だって、頬ずりされるの気持ち良いもん。
「でもアタシのほうが良かったろ? アンタ、ビンビンだったじゃんか」
突くな、俺のジュニアを。またビンビンになるから。
クソ、どうせなら昨今のラノベみたいに、無償でハーレムにしてくれよ。
異様にモテるのに、手を出したら終わるって生殺しだぞ?
いや、待て、本当に終わるのか?
こいつら仲良いし、3Pとか4Pも……。いかんいかん、落ち着け。耐えろ。
それをやったら畜生だぞ? 人として終わりだぞ?
「なぁ? アタシのも形が綺麗だったって言ってくれよ?」
急に弱気になる熊ノ郷。
その顔と声やめてくれよ、言うことを聞いてあげたくなるから。
「……なぜ?」
「大きさは測定できるけど、形までは測定できねぇだろ? なぁ、アンタが一言、保証してくれるだけでいいんだよ。頼むよ」
これは呪いをかけられるまで知らなかったことなんだが、熊ノ郷は意外と自信がないというか、甘えん坊? なんていうか、すがってくるんだよな。
俺さ、イケイケな子が上目遣いで迫ってくるの……しゅきっ……。
「綺麗だったし、柔らかかったよ」
うん、触ったんだよな。
触ったというか、洗わされたんだよ。あかん、思い出したら……。
「そーかそーか! 好きなんだな!」
そこまで言ったつもりはないが、決して嫌いではない。
そりゃ、去年はこいつのことを良く思ってなかったよ。陰キャに絡んでくる、鬱陶しいギャルだって思ってた。
でも実際は、ただのかまってちゃんだったらしい。そういうのに弱いんだよ、俺。
そもそも昔、楓と仲が良かったのは、おっとりしているところや、人懐っこいところが好きだったというか……いや、好きってのは語弊があるな。
気が合ったんだよ、陰キャ同士の波長というか、なんていうか。
「こらぁ、もっとかまえぇ。幼馴染様だぞぉ」
コアラのようにしがみついてくる楓。なんか懐かしいぞ。
そういえば、小学生の頃ってこんな感じだったな。
六年生ぐらいから少しずつ距離感が開いてきたけど、低学年の頃とかは常に密着してた気がする。
もしもだけどさ、中学生の頃に置いていかなかったら、どうなってたんだろうな?
俺は単なる気まぐれで早く登校しただけなんだけど、楓の中では裏切り行為ってことになってるんだよな? それがなければ、今頃カップルだったりしてな。
「柊木、男ってのは成長するとギャルが好きになるんだよ」
どこ情報だよ、それ。
ギャル向けのファッション雑誌か? 当てにしちゃいかんぞ、そういうの。
苦手な人はとことん苦手だからな?
「私も金髪にしたほうがいいかな?」
やめとけ、絶対に似合わんから。
そもそも、熊ノ郷も別に金髪じゃないしな。
「そういや熊ノ郷って茶髪っぽいけど、校則とか大丈夫なん?」
「地毛だし」
「へぇ、地毛でそこまで綺麗な色になんだな」
地毛か、日本じゃ苦労するだろうな。
いや、女性ってそうでもないのか? 学生の間ぐらい?
茶髪が地毛の男って、社会人になると苦労するイメージがあるんだけど。
「私の髪も綺麗でしょ? ほめろぉ」
頭をこすりつけるなって。
将来ハゲても知らんぞ?
「そういや、ずっとその髪型だよな? セミロングっていうの? 伸ばしたり短くしたり、色々と試さんの?」
男に比べて髪型の校則甘いし、今のうちに楽しんだほうがいいんじゃねえの?
社会人になると、常識がどうとか言われるだろうし。
そう考えるとつまんねぇ国だな、本当に。不快感与えなきゃ自由だろ。
別にいいじゃねえか、三十代がツインテールでも。本人が可愛いと思ってるなら、他人が口出すことじゃねえよ。
「何を言ってるのかな? この長さが好きだって、小五郎が言ったんだよ? 小学生時代のことなんて覚えてませんって? 男の子ってそういうところあるよねぇ。小五郎以外の男なんて知らないけど、少なくとも小五郎はダメダメだねぇ。どんな髪型が好きだって聞いたら、ロングとショートの中間ぐらいっていうからさ、大事なロングヘアをバッサリと切ったんだよ? 伸ばすのが密かな楽しみだったけど、小五郎の好みに合わせるために断腸の思いで断髪したんだよ? なのに小五郎は一切褒めてくれなかった上に、言うに事欠いて……」
いかん、地雷を踏んだらしい。
なんでだよ、さっきまで和気あいあいとしてたじゃないか。ここまで多くの地雷が点在してたら、日常会話もままならないわ。
いや、ちょっと待てよ? 小学生の時点でそれ?
幼馴染が適当に言った髪型に合わせたの?
髪の縛り方を変えるとかならまだしも、切ったの? 思い切りがよすぎない?
「待て待て、別に髪型に文句つけたわけじゃ……」
「アタシもセミロングにすっかなぁ」
髪を弄りながら、そんなことを呟く熊ノ郷。
ややこしくなるから余計なことを言わないでくれ。ちょっと見たいけどさ。
「小五郎っていっつもそうだよね? 大人っぽい子が好きだって言ってたから、抱き着くのを我慢してたんだよ? それなのにさ、男勝りな女の子が肩を組んできた時にデレデレしてたよね? 『別に意識してませんけど?』みたいな態度を取ってたつもりだろうけど、傍から見ればわかるもんだよ? スケベなことを考えてるなって、丸わかりだったよ。ねぇ、気付いてるかな? あの子はメスの顔をしてたよ。ただの男友達みたいな雰囲気出してたけど、あれは小五郎を狙ってたね。まあ、中学の学区が違ったから、もう小五郎のことは忘れてると信じたいけど。それでもちょっとだけ不安なんだよね。今からでも闇討ちを……」
よく見てるなぁ、コイツ。
メスの顔うんぬんは言いがかりというか勘違いだろうけど、スケベなことを考えていたってのは多分正解だわ。
ん? 今、闇討ちするとか言わんかった? やめろよ?
「楓!」
「たしかあの子の家は……ん? なぁに?」
「俺はお前以外の同級生なんて覚えてねぇ!」
うん、嘘だよ。
楓が言ってるあの子って、男子グループとつるんでたあの子だろ?
正直、当時は結構気になってた。今でもたまに自慰の時に顔を思い浮かべる。
活発だからさ、パンチラとか結構あったし、六年生になると胸とかも……。
「でも髪型褒めてくれなかった……切ったのに……」
「照れくさかったんだよ。男子小学生だからさ、可愛いなんて言えなかったんだよ」
これはまあ、ギリギリ嘘じゃないと思う。多分。
仮に柊木のことを可愛いと思ってたとしても、小学生ってそういうことを口に出さんだろ? 可愛いとか好きとか言わんだろ?
うん、多分っていうのは、予想にすぎないってことね。
好きな髪型とか適当に答えたと思うし、こいつが髪を切ったことも覚えてない。
当時の俺がどう思ったかも知らん。覚えてるわけない。
「俺のためにありがとうな、可愛いぞ」
「こごろぉ……」
俺も手慣れたもんよな、こいつらの扱いに。
皮肉なことに、呪いのおかげで女心がわかってきたような気がする。
「坂本、ハサミ貸してくんね?」
あっ、二人以上いる場合ってどう捌けばいいんだ?
あっちを立てればこっちが立たず、ままならんな。
「アンタがビンビンだったのは、柊木のセミロングにビンビンだったんだな。待ってろよ、すぐ終わるから」
いや、そこまで極まってないから、性癖。
髪だけでビンビンって、上級者だぞ。
「いや、お前の裸体でビンビンに……」
「私を見てなったんじゃないの? 幼馴染と念願の混浴ができたことに対する喜びじゃなかったの? ついに初めてを……」
「いや、お前にも勿論……」
「なんだよ……アタシ、結構頑張ったんだぞ? この前、言ったろ? アタシは胸元ゆるくするだけでもドキドキしてたんだぞ? もしかして、アタシのことビッチだと思ってんのか? アンタのあれ、直視するのさえ恥ずかしかったんだぞ?」
どうすりゃいいんだよ!
どっちとかねえから! 両方だから! 健全な男子高生が耐えられる状況じゃねえから! 手を出さなかっただけでも聖人だから!
「とにかく髪は切るな、今の髪型が好きだから」
「ホントに? ロン毛うざくない? パーマうざくない?」
パーマかけてんのかよ、やっぱ。女子の校則甘すぎだろ。
いや、そんなことはいいんだ。素早く楓もフォローしないと、挟み撃ちになる。
「髪型なんて似合うかどうかだし、その人次第だろ? 一概にこの長さがいいとかないから。お前ら、どっちも可愛いから」
「それで? 小五郎はどっちを見て大きくなったの?」
「両方だよ。今も我慢してるんだよ。恥ずかしいから言わせんな」
正解なのだろうか、これは。
でも他に打つ手ないだろ? 片方を選ぶわけにはいかんし。
「とにかくこの話はおしまいだ、ゲームでもやろうぜ。せっかく家に来たんだから」
こいつらのお経に負けないぐらい早口で、流れを変える。
もうね、これしかないのよ。
こっち系の話になると、勢いで流されちまうからさ。
気付いたら童貞失ってるとか、じゅうぶんにありうる話よ。
「おい、なんか誤魔化そうとしてねーか?」
「大きくしたってことはエッチしたいってことだよね? ほら、早く……」
クソ、薄々わかっちゃいたが、楓が思ったよりもピンクだ。
これ生理現象だからな、言っとくが。嫌いな相手でも大きくなる時はなるんだよ。
「まだ高校二年だろ? お前らとは、時間をかけてゆっくりと恋愛をしたいんだよ」
「恋愛? 恋愛って言ったのかアンタ?」
「好きってことでいいんだよね? 本気で私達のことを考えてくれるんだよね?」
「ああ、勿論だ! だから今は友達として遊ぼうぜ!」
呪いが解けた後、どうなるんだろ……。
記憶とか好感度はどうなるんだろうか。引継ぎなのかな?
だとしたら刺されんか? 多分だけど、呪いのおかげでこいつら徒党を組んでるんだろ? 浮気者として刺されん?
もういっそのこと黒川家の一族入りして、引きこもったほうがいいのか?
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