第9話 丸くて白くて可愛いでしょ? 実質おっ○いじゃん
学生時代からいまに至るまで結構なインドア派である俺だが、もちろん……
っていうと恥ずかしいが、あっち方面の知識も相応にある。
二次元だろうと三次元だろうと分け隔てなく、彼女いない暦=年齢のぶんだけ動画も漫画も嗜んだ身だ。
心得がまったくない、とまではいかないつもりだ。
……が、いざ迎えた本番は、そんなもの全てお遊びだとい言わんばかりだった。
冗談を交え、照れ隠しに茶化しながらも互いに意識を高め合い、彼女がその身を包むものを取り払い。
彼女自身の全て。なめらかで美しい曲線美を露わにした途端、どうしようもなく身体が強ばってしまった。
改めて、女性の身体とはこうも綺麗な曲線で出来ているんだな、と……。
男とは全く異なる柔らかさで出来たそれに、まるで見てはいけない芸術品を目の当たりにしたかのような衝撃を受け、つい、緊張のあまりガチガチに強ばってしまう。
――まあ、平たくいえば。
見惚れていたんだ。
そりゃあ笑われても仕方ない。
「ガン見しすぎだし。ウケる」
「や、その。……見るだろ。誰だって」
「まあ、相手の行動パターンを観察するのは戦闘の基本だからねぇ。でもこれ、結構恥ずかしいかも。防御力ゼロだし? ……あのさ」
「ん」
「消していい? 電気」
「付けてちゃダメか」
「嗜みというやつだよ、タク君」
「でも相手の観察は大事だろ。てか、見たいし……」
珍しく押すと、彼女はちょっとだけ瞼を上げ「仕方ないなあ」と、まどろむように笑った。
その笑みが、友達にも関わらず愛おしく見えてしまうのは、たぶん、男と女の間に漂う色香のせいだろう。
「友達同士でも恥ずかしいね。てか、あたしもっと照れた方がいい?」
「自分で言ったらダメじゃないか? あと、言うまでもなく照れてるし」
「……分かっちゃうよねぇ」
「そんだけ早口なら、鈍い俺でもわかる」
「じゃあその焦りをさくっと解消しちゃおう、ささ、どうぞ」
彼女がそっと両腕を伸ばして誘いをかける。
抗うことなく彼女に身を寄せ、もう一度、なるだけ優しく労るように口づけを下ろした。
その先のことは、正直、夢中になっていてよく覚えていない。
……って、誤魔化せれば良かったんだが、結果だけをいうとめちゃくちゃ覚えてるし苦戦した。
漫画やエロ本の世界では男女ともにあっさり達するらしいが、お互いレベル1の未経験男女がうまくいくはずもなく。
試行錯誤しつつ、あれこれ試すこと、まあ、イタズラ好きな彼女も笑えてくるわけで。
「んふっ。なんか、ゲームと同じだね。どんなに動画や攻略サイトで勉強してても、実践でボコボコにされるやつだ」
「そこまでゲームに例えなくても……つか、ごめん。マジで」
「まあまあ。時間はまだ大丈夫だし、ゆっくりやろ? 初心者なんだし、地道に攻略法を探していこうっ」
ルミィさんが初めての相手で、本当に良かった。
恋人相手なら男として格好付けなきゃ、っていう下手なプライドを拗らせていたし、実際さっきまで思ってたんだが、幸い彼女はゲーマー仲間であり気心知れた間柄だ。
お互いのコツは理解している。
というより。
失敗しても、別にいいよね?
っていう気安さがあるお陰で、俺もだいぶ楽になれたと思う。
「……けど、ガチ勢はもっと上手いんだろうな、こういうの」
「まあまあ。あたし達はエンジョイ勢だし。あたし達なりにやっていこう」
「だな。てことで、その。そろそろ本番いきたいんだけど、いいか、ルミィさん」
その意味がわからないほど、彼女は鈍い女ではない。
互いにうっすらと汗ばみ、吐息に興奮を交えながら、彼女はいいよと小さく頷いた。
「許す! 光栄に思うがいい勇者よ」
「なんで偉そうなんだ……ルミィさんってあれだな、常に上から目線でないと緊張で死んじゃう女の子なのかな」
「それは言わないお約束~」
しーっ、と唇に人差し指を当てて微笑むルミィさん。
けど、それ以上の言葉は必要ない。
後はもう、いくところまでいくのみだ。
暗にそう伝えつつ口づけを交わし、彼女の緊張を解きながらゆるりと前へ進むと、ん、と彼女はちいさな痛みを伴いつつも甘い声をあげ、俺はお互いにきちんと結ばれたことを理解した。
――夜は長く。
けれど、様々な初めてのことに夢中になっている間に、あっという間に過ぎていった。
*
「……なんかさ、あんまり実感ないねぇ。いや、あるにはあるんだけどさ」
「満足感はあるけど、俺もまだふわーっとしてる感じ」
「だねぇ。でもなんか不思議と嬉しい。あと結構、気持ちいいねこれ」
ようやく一度ことを終え、ベッドの上で寝転がっていると彼女がころんと俺にすり寄ってきた。
成した後なのでお互い恥ずかしい姿のままであり、俺としてはまだ彼女を直視するだけで頬が熱くなるんだが、ルミィさんはお構いなしに犬みたく寄ってくる。
余韻でまだ興奮してるのかもしれない。
「でも、やったからって何かが変わるもんでもないんだね」
「そりゃあ、人間関係が変わるわけじゃないからなぁ。……可愛いな、とは思ったけど」
「それは許そう。あたし本当に可愛いからね。でも、そこで変わらないのがタク君らしくていいよね」
「なんだそれ」
「抱いたんだから俺と結婚しよう! とか言い出さないって、信頼できるからさ」
「まあなぁ。俺もこれで、責任取れって言われたらどうしようって悩むかも」
「あ、もしかして、責任取れって言われたかった? タク君、あたしとは遊びだったの!? ひどいっ」
「遊びだろ」
「ですよね~」
男女の関係になりつつも、お互いに面倒くさくない――それが俺達のいいところだし。
と、彼女に笑うと、ルミィさんが布団の中でもぞもぞさせつつ、はにかんで。
「あ」
「どした?」
「なんか一息ついたら急に思い出した。ちょっと待ってね」
がさがさと手を伸ばし、スマホを掴む彼女。
電源を入れ、すぐにSNSをチェックするなり「これこれ」と俺にスクショを見せてきた。
内容は今晩SNS上で発表された、インディーズゲームの最新情報だ。
ルミィさんは俺以上にオンラインもオフラインも楽しむ二刀流ゲーマーであり、特に高難易度インディーズゲームを好む生粋のプレイヤーである。
一部ソフトにおいては、界隈でも上位1%に入る実力者なのだとか。
「これねえ、インディーズ界隈で超売れた有名メトロイドヴァニア系の新作なんだよねぇ~」
「ホント、ルミィさんはマイペースだな。やった後だっていうのに」
「エロも遊びも全力。これルミィ教なのだ」
「入信しようかな」
「私が教祖で、タク君が大幹部ね」
「信者一人もいないし」
ぐっと親指を立てる彼女。
その拍子にふるりと大きなものが揺れ、俺はつい視線を逸らしつつも彼女らしいなあと思う。
「あ、ごめん。空気読めてなかった?」
「いや。つか、今さらだよ。抱いた後でゲームの話しするくらいが丁度いいって」
「んふっ。タクくんと話してるとホント楽ぅ。そこで空気読め~とか言われるの苦手だからさ……ほんと、学校とか仕事とか窮屈でさぁ」
彼女がけらけらと笑い、その薄い唇を、にこ~っ、と満面の笑みにしたところで――
ぐぅ~、と。
彼女のお腹が、突然の空腹を訴え始めた。
さすがに恥ずかしかったのか、わわ、と布団でお腹を隠す彼女。
その仕草がまだ小心者っぽくて、なんかおかしい。
「や~……いまのは、恥ずかしかったかも」
「本番に備えてあんまご飯食べてなかったしな。何か食べる? 自宅にあるの、カップ麺くらいだけど」
「ゆで卵も欲しい」
「なんで卵?」
「丸くて白くて可愛いでしょ? 実質おっぱいじゃん」
要するに卵を食べたいんだということだけは理解した。
まあ俺もちょうど小腹が空いてたし、一緒に作ればそう時間は変わらない。ゆで卵は時間かかるけど。
戦のあとは、旨い飯。
実に雑でいいじゃないかと笑いながらベッドを降りると、彼女も続いて降りてきて、
「あたしも着替えるから見ないでね」
「さっき沢山見たけど」
「それはそれ、これはこれ。ね?」
可愛くはにかむ彼女にまた顔が熱を持つのを自覚しつつ、キッチンに立つ。
火照った身体を冷まそうと思ったのに、茹で始めたラーメンのせいか、なかなか熱は冷めなかった。
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