第3話 定め

☆佐藤徹(さとうとおる)サイド☆


あっという間に翌日になってしまった。

ショックで寝込んでいた俺だが...まあその。

学校には行った方が良いかと思い起き上がる。

梓に「大丈夫?」と心配されてしまったがここまできたら登校しないとな。


「お兄。はい。お弁当」

「ああ。いつも御免な」

「いや。良いんだけど...お兄は大丈夫なの?」

「ああ俺か?俺は...まあ少なくとも大丈夫だ」

「なら良いけど...」


そんな言葉を口にしながら俺は梓に見送られて家から出る。

それから暫く歩いていると交差点の辺りで誰かに声を掛けられた。

顔を後ろに向けると...何故か山吹さんが。

え!?


「確か...佐藤君だよね?」

「あ、ああ。まあそうですけど」

「...えっと。昨日はゴメンね。中途半端に去ってしまって。ちょっと急いでたから」

「ああ。そうなんですね」

「そうなの」


俺は緊張して言葉が出てこなくなる。

そして信号が青になったので歩き出した。

すると山吹さんが「同じクラスメイトの男の子と知り合いになるって思わなかった」と笑みを浮かべる。

真っ赤になった。


「...いや。俺達は知り合いって程じゃ?」

「私は知り合いって思っているよ?」

「...そ、そうなんですか」

「そうだね。アハハ」

「...でもこんな俺と知り合いになっても楽しくないと思います」


「そうかなぁ。そうだとは思わないよ。君は歌でも格好良かったから」と切り出してくる...ふぁ!?

俺はまた真っ赤になってしまう。

それから「何でそれを!!!!?」と愕然とする。

すると「中学校の時に君は歌を歌っていたよね」と俺を見てくる。


「校舎裏で...弾き語りしていたよね」

「...そ、そうですね...」

「私、君の歌声は好きだなって思う」

「...え?」

「君は歌を歌うべきだと思う。こんな私が何を言ってんだって感じだけど」

「...!」


「あくまで君は君自身だけにって思っているかもだけど。だけど君の歌声で救われた人も居るって事を忘れないで」と俺に向いてくる。

俺はその言葉に「!」となる。

それから「...それはどういう?」と聞いてみるが。

山吹さんは首を振った。


「女の子に追及は禁止だよ」

「...あ。す、すいません」

「...だけど1つ言うなら君は君らしく居たら良いと思うって話だね」

「...山吹さん...」

「また君が素晴らしい歌を歌うのを期待してるよ。...いつかまた聴かせてね」

「...」


俺は考え込む。

その時のギターは今は埃を被っている状態であり人に見せれるものではない。

考えながら俺は(もう歌は歌えないな)と思う。

それから「そっか」と呟きながら横を歩く山吹さんは「じゃあ。また後でね。仕事があるから」と笑顔になって去って行った。


「...はい」


そんな山吹さんを静かに見送りながら俺は空を見上げる。

それから歩き出しているとスマホにメッセージが入る。

それは...浮気した彼女の成宮祥子(なるみやしょうこ)だった。

(昨日はゴメンね。学校の用事で)とメッセージが入っている。

嘘ばっかりだなコイツ。


「...目が覚めたな」


その言葉を呟きながら俺はメッセージを無視してからそのままポケットに仕舞う。

それから歩き出した。

もう嘘は十分だなって思う。

こりごりだ。


「...さてどうするか」


呟きながら歩いていると背後から声がまたした。

それは女子である。

友人の渦宮華(うずみやはな)だった。

少しだけハスキーなボイスをしている様な。

歌い友達だった女子である。


顔立ちは若干幼い感じだが可愛い顔をしている。

髪の毛の色は黒。

肩までの髪形。

そしてギターケースを持っている。

まあスカートが短い点を除けば一般的な可愛い女子高生って感じだ。


「やあやあ。どうしたんだい」

「...おはよう。華。今日も部活か」

「そうだね。軽音部のね」

「楽しそうで何よりだ」

「なあ。君はなんで入らないんだ?軽音部とか」

「高校デビューに失敗した野郎が入って楽しい訳無いだろ。お前な」


「それはどうかな。私視点から言うと君は失敗していないと思うが?」と俺を励ます事を言ってくる華。

俺は苦笑しながら「まさか」と肩をすくめる。

それから俺は「十分に失敗しているよ。俺はな」と苦笑いを浮かべる。


「お前から見ても失敗してない様に見えるけど。十分出来上がっているよ」

「...そうか」

「...俺は陰からお前を応援するよ」

「だけど私は...」

「だけど私は?」

「...いや。何でもない。すまないね」


そしてそのまま華は「じゃあ部活があるから先に行くよ」と話してくる。

俺は「ああ。気を付けてな」と手を振る。

すると華は途中で足を止める。

それから「...青春は時間が無いよ。本当に軽音部に入らないのか」と小さく呟いた。

俺は「...入れないよ。俺は」と言いながら苦笑いを浮かべた。


「...そうか」


華はがっかりした様な感じで去って行く。

何故あそこまでがっかりするのかがよく分からないが。

軽音部とかには入れない。

俺は一般人がお似合いだしな...。

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