第5話 隣国到着とこれからの方針
ミカル殿下の目が、目が……!
真っ青になってる……!
というか、これって私の瞳と同じ色だわ!
ミカル殿下は意識が戻ったばかりでぼんやりしているのか、目は開いているものの反応はない。
ただ焦点の合わない青い瞳がこちらに無感情に向けられている。
そのまままたゆっくりと瞼が閉じていき、すぐにすうすうと寝息が聞こえ始めた。
「と、とりあえず、命の危険はなくなったってことでいいのかしら?」
白に近い灰色にまで色が抜け落ちてしまっていたミカル殿下の瞳。
カラカラに乾涸びているところを私の魔力でいっぱいにしたから、瞳の色が私の魔力に干渉されて変わってしまった……とか?
髪の色が私の魔力に干渉されなかったのは、まだ色が抜けきっていなかったからだろうか。
シルバーグレーに落ち着いた髪の毛を撫でる。
美しい黒髪黒目が失われて、少しだけ申し訳ない気持ちになる。なんだろう。私のせいじゃない。私のせいじゃないんだけれど……どうしても、もう少し早く助けてあげられていればと思ってしまう。
そのままミカル殿下を寝かせて私も仮眠をとり、まだ夜が明けきる前に起きて、食べられそうなものを探しに出た。
少しだけ木の実を拾ってすぐに戻ってくると、眠り続けていたミカル殿下が目を覚まし、体を起こしていた。
私が戻ってきた音に気がついてゆっくりと振り返る。
やっぱり青。鏡でよく見慣れた色だわ。
その青い瞳は私を映すと溢れんばかりに見開かれた。
「はっ、な、あっ……」
状況が飲み込めず、言葉にならない様子だ。
……ミカル殿下、動いている姿もすごく可愛いわね。
◆
日が上り切る前に岩場を出て、馬に乗り、森を抜ける。このまま隣国アマルニアに渡るのだ。
あのあと目を覚ましたミカル殿下に私が誘拐したわけではないことを分かってもらうためにことの経緯を全て説明した。
『レナ様が僕を誘拐しただなんて、そんなこと思ったりしません……』
もじもじと上目づかいでそう言ってきたミカル殿下、ものすごく可愛かったな……。
そんなミカル殿下は今も私の前で、一緒に馬に跨っている。
殿下は自分が男だからと後ろに乗りたがったけれど、少しとはいえ殿下の方が背も小さいし、体の方もまだ本調子ではない。今回だけは我慢してほしいと言うと恥ずかしそうに頬を染めてやっと納得してくれた。
本当にいちいち可愛い……。
結局ミカル殿下はこのまま私とアマルニアへ渡る決断をした。
まあ当然だと思う。私が勇者召喚に必要な水晶を破壊したとはいえ、生贄にされかけたミカル殿下がシメイズ王国で普通に生きていけるとは思えない。
魔法まで使ってまで2度シメイズ王国に入れないようにされた私はもちろん、ミカル殿下ももうよほどのことがない限り祖国に戻ることはないだろう。
やがて馬はアマルニアの王都外れの街に入った。
なんだかんだとシメイズ王国の方がアマルニアよりは状況が落ち着いているから、シメイズとの国境が近いこの街に人々は集まり、かなり活気づいているようだ。
とりあえずこっそり持ち出した銅貨を使い、道沿いの屋台でミカル殿下と軽い食事をとる。
串焼きのお肉を前に少し戸惑いながらもかぶりつくミカル殿下。離宮にこもりきりだった彼は、こうして街に降りることもなかったのかもしれない。
そんな様子を微笑ましく見ながら、私は考えていた。
……これから、どうやって動くべきか。
私は決意を固めていた。
勇者召喚を阻止した以上、責任は取る。文句ばかり言って自分では何もしないなんて性に合わないし、そんなのは卑怯者のすること。
いつか必ず、私がこの手で核を持つ魔物を倒して見せる!
けれど、核を持つ魔物はそう簡単には現れない。
過去の記録を遡っても、まず魔物の活性化が進み、そのうちにどんどん魔物が狂暴に、そして強力になっていき、やがて信じられないほど強い、核を持つ魔物が姿を現し始める……。
今がどのくらいの段階なのかは分からないけれど、すぐに核を持つ魔物が現れるとはあまり思えなかった。
それまでは冒険者にでもなって魔の物との戦いの場に出るのが現実的かな……。
私も戦いに慣れなくてはいけないし。
勇者召喚に踏み切った時代では、その後無事に世界は平和な時代を迎えている。
「核を持つ魔物が現れるまで、なんとか乗り切らなくちゃ……」
ぽつりと独り言を零す私に気付いたミカル殿下が、不思議そうに首を傾げる。
「レナ様? 食べないのですか?」
「いいえ、いただきます! ミカル殿下、美味しいですか?」
「はい! こんなに美味しいものは初めて食べました!」
にこにこと笑う殿下に癒される。
こんなに美味しいものは初めてだなんて。
城でもっとおいしいものをいくらでも召し上がっていたはずなのに、やはり城暮らししか知らない殿下にとってはこんな街中で何かを食べるのが新鮮でおいしく感じるのかもしれない。
――何はともあれ、まずはミカル殿下を安全な場所にお連れしないとね。
私には、彼をここまで連れてきた責任がある。
ミカル殿下のお母様、シメイズ国王の亡くなった第二側妃様の出身は確か西の国ロミアで、このアマルニアとは友好国だ。
アマルニア王国の王族へ橋渡しを頼めば、きっとロミアに安全に連れて行ってくださるだろう。
ロミアは小さいながらも穏やかな国だから、きっとそこまでいけば無下には扱われないはずだ。
「ミカル殿下、これを食べたらとりあえず王都を目指して出発しましょう。疲れていると思いますが今度は馬車に乗ります。いけますか?」
「はい、大丈夫です。王都へ行った後はどうするのですか?」
「とりあえずアマルニア王族に謁見を申し込みます。こちらにはミカル殿下がいますし、おそらく会ってもらえるかと」
「王都で、王族に……!」
私が考えていることが分かったのか、ミカル殿下の表情がパッと明るくなった。
可愛い。
ロミアに送っていただけるようになるまでは、絶対に私がお守りしないと……!
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