第33話ティアと傷4

 光も届かない水底で再会したティアとシスティナは問題に直面していた。


 「...」


 「...」


 2人は無言になった後、ポツリとティアが溢した。


 「どう、やって?」


 そう、戻り方が分からないのだ!!!システィナはティアに尋ねた。


 「分からない...わよね?」


 「ん...ぶくぶく、沈んだ。」


 ティアは真顔で頷く。水面は嵐の時の様に荒波となっており、碌に泳いだ事のないティアは為すすべなく沈むしかなかったので、浮かぶなどもっての外だ。システィナは気になって更に尋ねる。


 「そういえば、ティア...貴方、泳げるの?」


 「泳、ぐ?...ない。」 


 ティアはキョトンとして首を傾けた。システィナは屋敷にプールがあり、水泳も学んでいた。それに対してティア全く経験がなかった。そもそも彼女水が多くあるところと言えば川か湖しか見た事がない。王都には小さな川があり、ティアにとって水のある身近な所はそこであった。その川はティアが誰にも邪魔されることなく使える場所だった。水浴び、飲水、偶に食料...ティアにとっては欠かせない場所だった。しかし、その川は水深が浅く、一番深くても小柄なティアの膝下より低かった。流石に川なので雨の日は流れが激しくなるが、そういう時ティアは本能的に恐怖を感じて近づかなかった。結果、ティアは泳いだ経験が全くないのだ。


 「なら、どうすれば...何とか浮かべばいいんだけど...」


 システィナの呟きにティアは腕を組んで考えた。今、ティア達は水?の底にいる。2人は何も持っていない。そして、おそらくティアは泳げない。そういえば...ふとティアは周りを見ていた。


 「ここ、だけ、明るい...」


 ティアはシスティナを見つめる。システィナはキョトンとしている。


 (システィナ、いる、周り、明るく、なった?...)


 ティアはシスティナに会うまで真っ暗な闇の中にいた。しかし、システィナがここに来た時はティナとシスティナの周りだけ明るくなったのだ。


 (システィナ、いる。嬉しい、気持ち?っ!)


 ティアはハッとしてシスティナに伝えた。


 「ここ、私、の、気持ち、受ける。これ、使える。」


 「?」


 「ここ、明るい。それ、私、システィナ、会った、嬉しい。」


 「確かにここは明るいわね...っ!つまり、ティアの気持ちなのね!」


 ティアはうんうんと嬉しそうに頷いた。システィナもそれに吊られて笑顔になる。すると、周囲が更に明るくなった。


 「本当に明るくなったわ。すごい!ティアの言う通りね。」


 システィナはティアの頭を撫で、ティアは気持ち良さそうに目を細めていた。


 「なら、浮かぶ気持ちとか試してみましょう?」


 「ん。」


 ティアは目を閉じて、自分を浮かべるように念じてみるが...何も起こらない。


 「い、色々試しましょう!」


 「ん、なら...」


 ティアは色々試すことにした。鳥の様に羽ばたく、背伸びをする、更に空に拳を突き上げる(シュワッチ!)、足りないならと両手を突き上げる(シュワッチ!)とにかく色々試した。それを見たシスティナは...


 「か、可愛い」ナデナデ


 「んっ!?むぅ〜〜!!!」


 システィナはティアの姿に思わず頭を撫でてしまい、ティアは嬉しいやら恥ずかしいやら馬鹿にされているやらで顔を真っ赤にして頬を膨らまして唸った。


 「ふふっ。ごめんなさい...つい。」 


 「むぅ...恥ずか、しぃ...」


 しかし、浮かぶことは出来なかった。システィナは腕を組んで考え始めた。ティアも吊られて腕を組む。


 「どうしたら上手く行くのかしら?何か合図とかあるのかしら?」


 「合図...」


 ティアは形を前に出して見る。そして、親指を空に向ける...反応なし。なら、人差し指、駄目。なかゆ...ガシッ!システィナは寸前でティアの腕を抑えた。


 「ティア...それは駄目な気がする...」


 「?」


 ティアは不思議そうにしながらもう一度...システィナが防ぐ。


 「ちょっと」


 「...」


 「ちょ...」


 「...」


 「だから〜」


 「♪〜」


 このやりとりは暫く続き、やがて怒ったシスティナがティアを叱った。


 「駄目!めっ!」


 「うっ...ごめん、なさい」


 ティアは俯いて謝った。ティアはシスティナに何となく逆らえない。システィナはティアが謝ったのでティアを許した。


 「分かったならいいの。他を考えましょう?」


 「ん。分かった。」


 再び2人は考え始めたが、やはりいい案は浮かばない。やはりなかゆ…はシスティナに睨まれる。ふと、ティアは足元を見て気が付いた。


 「沈む、ない。浮いて、る...」


 「ええ、そうね。」


 「システィナ、会う、前、沈ん、でた。」


 「あっ!」


 システィナも思い出した。システィナが暗闇でティアを見つけた時、ティアは虚ろな表情で沈んでいた。それを止めたのは...


 「私が魔力を使ったから?」


 「っ!それ!」


 ティアはシスティナの手を両手で包み込んだ。 


 「魔法...魔力!」


 「でも...」


 システィナは何か言いづらそうにしている。


 「?」


 「私、魔法が得意じゃないの...魔力もそんなに...」


 実はシスティナは魔力が多い方ではない。不思議な事に使いすぎても貧血等魔力欠乏による不調になったことはないが、魔法が発動しなくなるのだ。落ち込むシスティナにティアは首を振った。


 「気に、しない。答え、分かった、から。私、やる。」


 「ティア...でも、貴方魔力が...」


 「ん。やって、みる。」


 ティアは目を閉じて魔力を両手に集中させる。魔力は勢いよくティアに流れ込み、ティアの体温は一瞬で低下した。ティアの魔力は未だに暴走しており、ティアが制御出来ないくらいの量が一気に襲いかかってきたのだ。ティアの顔色は直ぐに白くなる。


 「...」


 「ティア!」


 ティアの異変に気付いたシスティナは直ぐにティアに魔法を使い温め始める。僅かだがティアの顔色が戻る。


 「!何て勢いなの!?追いつかない...」


 システィナの魔法は加減を間違えればティアの命に危険であるので、システィナの魔法は弱くせざるを得ない。しかし、ティアの魔力はそれ以上に勢いがありとても追いつかないのだ。


 「...っ」


 ティアは必死に魔力の暴走に抗う。ティアの冷たい魔力はティアに孤独感を伝えてくるが、もう1つ優しく流れてくる魔力は暖かく側にシスティナがいることを教えてくれた。ティアはその暖かさを頼りに暴走に抗う。


 (勢い、強い!!冷たい、怖い、寂しい、でも!システィナ、いる!皆、いる!私、1人、違う!)


 ティアは少しずつ魔力を支配下に置いていく。ティアは魔力の動きを感じるようになり、暴走して荒ぶる魔力に反発するように制御した魔力をぶつけた。反発し合う波は互いに打ち消し合う、それに乗じてティアは魔力の支配を進めた。だが、支配を進める内に新たな問題が生じた。


 (魔力が暴れて...溢れそう。)


 今度はティアの中で強い衝動に駆られ始めた。何かを破壊した滅ぼしたい…そんな破壊衝動に駆られた。


 「っ...魔力、が、暴れ...」


 ティアは一緒にいるシスティナのためにも必死で喰らいついた。


 誰もいない水面では波同士が互いに打ち消し合う様子が至るところで見られる。ここには主であるティアの姿もなく誰もいない。そんな中、声がした。


 「波が打ち消し合ってる...ティアが抗っているのね。」


 その声はティアに幾度も助言を与えた声だ。


 「でも暴走を静めるには魔力全てを支配ないと...でも、ティア達に干渉出来ないわ...」


 実はこれまで何回かティアに助言しようと試みたが何かに防がれて失敗していたのだ。


 「暴走しているから...というわけではないようね。」


 ふと、水面に小さな影が写った。その姿は半透明ではっきりしない。しかし、ふんわりとしたフリルの付いたスカートを着ているようなので少女のようだ。


 「貴方は?」


 「...」


 聞こえているのかいないのか少女はすす〜と沈んでいった。

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