第29話 スキルレベルアップ!


 中央に巨塔のそびえ立つ、黒い灰の降る世界。

 そこには森や平原、滝壺に繋ぐ道以外にも洞窟があり、まるで異国の湖畔のような美しい風景だ。

 ……尤もそこら中に触れた者を溶かす黒灰が積もっていなければの話だが。


「前は生き残る事に必死で気付かなかったが、あの塔以外にも色々あるなここ……てか広い」


 洞窟を抜け、再びこの世界へとやって来た俺は辺りを見回して呟く。

 この世界をこんな風に余裕を持って見られる日が来るとは……ちょっと感動する。

 

「さて……それじゃ、始めるか」


 俺は収納カバンから一振りの短刀を取り出す。

 ダンジョン省に飾ってあったのだが、切れ味がそこそこよさそうだったのでパクって来た。

 

「……せいっ!」


 大きく振りかぶり、自分の右手首を斬り付ける。

 切り口は静脈に及び、ぶしゃーっと勢いよく血が噴き出す。 


「いったぁ……久々にやったけどやっぱこれ嫌だなぁ」


 ぼやきながらしばらく待っていると、甲高い羽音が響きだす。

 どこからともなく現れたのは、羽だけがやたらとデカい蝙蝠〈スカベンジ・ヴァンプ〉。


『スカベンジ・ヴァンプの討伐を確認しました。レベルが95から96に上がりました。スカベンジ・ヴァンプの討伐を確認しました。レベルが――』


 蝙蝠たちは俺を喰う為に黒風に突っ込んできて、一瞬で全滅した。

 一気にレベルが3つも上がる。


「しかもエリクサー4本! ありがたい……」


 俺はエリクサーを丁寧に収納カバンにしまい、持参した塗り薬を傷口に塗り込む。

 エリクサーのように完全回復はしないが、一瞬で傷口が塞がるダンジョン産アイテムだ。

 収納カバンで無限にエリクサーを持てるようになった以上、一回呼び出すごとにエリクサーを消費するのは勿体ないからな。


「エリクサー持ってるのとそうじゃないのが安心感が段違いだからなぁ。マジで1000本くらいストックして帰りたい」


 そうは言っても、あの蝙蝠たちは出現にインターバルがある。

 100本くらいストックできるかどうかっていうのが現実的なラインだろう。


 というわけで、羽でか蝙蝠のリポップまで2時間くらい暇になってしまった。





「さて……いよいよ、あれをやる時が来たか」

 

 ここまで来れた事で、レベルアップとエリクサー確保の目途は立った。

 俺はワクワクとそわそわの入り混じった気持ちでステータスを開く。


―――――――――――――――

【名前】古瀬伴治


Lv:98(95→98)

HP : 1560

MP : 1060/1060(640) 装備+400


力   :298(198)(+6) 装備+100

守り  :238(168)(+6) 装備+70

敏捷  :208    (+6)

器用さ :151    (+6)

知性  :246(146) (+6) 装備+110

運   :238(168) (+6) 装備+70


※括弧内が装備補正無しのステータス、(+6)はレベルアップによる上昇値


・ボーナスポイント: 96



【スキル】

Lv150

・暗視の魔眼

・鳳凰の雄叫び


【装備】

・《魔帝のマント》MP+200、守り+30、知性+50

・《魔帝の王冠》MP+200、守り+10、知性+10、運+50

・《深秘の宝剣》力+100、守り+20、知性+50、運+20、武器スキル『鳳凰の雄叫び』

・《賢者の親愛》


【セット効果】

・《魔帝セット》2/5 ……スキルの効果を2倍にする

――――――――――――


 ポイント自体は足りていたが、地上では有事に備えて温存していた。

 だが、思う存分レベルアップ出来る環境が整った今、もはや俺を止めるものはなにもない。

 今こそ黒風さんのスキルレベルを上げる時——!

 と思ったところで、


「あれ……てかボーナスポイント増えてね? ドロップも経験値もないと思ったが、四騎士もどきの討伐報酬はポイントだったか」


 レベルアップしてなかったのでしばらくステータスを確認していなかったが、思わぬ報酬だ。

 

「こうなると、正直ダンジョン崩壊させてポイント稼ぎたくなるな……」


 レベルアップで得られるボーナスポイントは僅か2。 

 これでは《神滅の黒風奏》のレベル上げは気の遠くなる作業だと思っていたが、四騎士もどきからボーナスポイントが得られるとなれば話は変わって来る。


「まあポイントの為に街一個破壊するのは流石に悪役すぎるからやらないけどさ」


 なんにせよ、準備は整った。

 俺はステータス画面の《神滅の黒風奏》に触れる。そして浮かび上がった『神滅の黒風奏をLv2に上げますか?(必要ボーナスポイント50)』の画面で『はい』を選択。

 すると……


――――――———


・神滅の黒風奏(仮)Lv2……神滅スキルの成り損ない。瘴気を変換した黒き風は触れることで万物全てを浄滅する。(使用者、使)。効果範囲は使用者から50cm


―――――――——


「おお……なんというか、正統派能力アップって感じだな! 範囲はまあ、相変わらず突進が一番強そうな感じだけど、消す対象を選べるようになったの滅茶苦茶ありがたい……!」


 今までの黒風さんは、俺が明確に装備しているもの以外全てを消し去っていた。

 うっかり手に持っていたエリクサーを消してしまったり、地上だと使う度に道路や建物を抉ったり、起こした被害は数知れず。

 それが解消されるのはかなり嬉しいことだった。


「にしてもこの進化、まるで誰かを守れと言わんばかりだよな……」


 なんだか誰かの作為を感じる気がするのは気のせいだろうか。

 具体的には俺を勇者とか呼んだ人とか。

 このスキル俺に与えたのフレアだしな。まじであり得そうだ。


「んで、次の進化に必要なポイントが……60ポイントか」


 なるほど、10ずつ増えていく感じか。

 こういうのは大抵5か10くらいの区切りのいい数字で爆発的な進化をするのがお約束だが、レベル5まで進化させるとなると必要なボーナスポイントは210。

 レベルにするとおよそ100くらいか。

 なんというか、ギリギリ行けなくもないが結局手持ちのポイント全部突っ込まないといけない絶妙なラインだな……


「よし! それじゃ、用事も終わった事だし……リポップまでの間探検するか!」


 魔眼のおかげで視界は良好。黒風を手にして以来黒い灰の影響も消えた。収納カバンの中には一月分の食料が詰まっている。

 もはや、俺の行く手を阻む要素は何もない。この世界を隅々まで調べ尽くしてやろうじゃないか。

 

 そうして俺は意気揚々と、黒い灰の降る世界を闊歩し始めたのだった。

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