第16話 復讐準備①
「うおおおおおおおお! これが、1億円……」
俺は目の前に積まれた札束の山に思わず叫び声を上げた。
俺は早速樋代さんに頼んでドロップアイテムの一部を換金した。
自分でやると悪目立ちしそうだし、何より合法なルートで売っているらしく税金もかからないそうなので実にお得だったのだ。
「言ってくださればまだまだお持ちしますのに」
残念そうに言う樋代さんを横目に、収納カバンに現金を詰め込んでいく。
一通り鑑定したところ、俺の持つドロップアイテムの全てを換金した場合少なくとも100億以上の価値があるらしい。
エリクサーや装備品を含めれば1000億を超えるんだとか。
「さて……それじゃあ行くか!」
俺は大金を手に、夜の街で豪遊する──!
というわけでもなく。
原宿には行ったが、服やら美容用品やらを買って、高い美容室に行って帰ってきた。
そして帰宅後、鏡に写っていたのはもう今までのような陰キャではなかった。
「これが、俺……」
パーマのかかったおしゃれな髪に、シンプルながら綺麗な服。
ステータスのおかげでがっしりした体型に、背筋の伸びた姿勢。
顔はまあそのままだが、普通のいけてる高校生として十分通用するレベルに仕上がっていた。
テレビで知り合ったスタイリストさんに全てのコーデをお願いしたのだが、その人曰くある程度のお金をかければ垢抜けたように見せるのは簡単なんだとか。
「……これでひとまず、舐められる心配はないな」
俺は変わった自分の姿が嬉しくて、そのまましばらく鏡を眺めていた。
***
そして翌日。
俺が地上に戻ってからちょうど1週間が経ったその日。
──俺は、今日から再び高校に通い出した。
昨日の買い物は今日を迎える為の準備だったのだ。
陰キャのままでいては舐められてしまい計画を上手く運べないかもしれないからな。
ガラッと扉を開け、見慣れた教室に入る。
まだ有原は来ていない。
クラスメイトたちは、全員気まずそうに目を逸らした。
(……ま、そういう態度にもなるわな)
彼らの気持ちは分かる。
――怖いのだ、俺が。
今教室にいる奴らも主犯ではないとはいえ、俺をいじめたり、いじめを見て見ぬふりをしていた連中だ。
そんな俺がダンジョンで力を付け、テレビに出て影響力まで持って戻って来たのだ。
そりゃ、何されるか分からなくて怖いだろう。
加えて、俺はまだ有原に突き落とされたということをまだテレビで告発していない。それどころかいじめの事にすら触れていない。
殺したと思っていた俺が生還し、発言の場があるのにだんまりを続けている……そんな不安定な状態の『暴君』有原淳也はこの一週間、さぞ不機嫌に当たり散らしていたことだろう。
「……おーっす」
そして、遂にその時が来た。
ガラッと勢いよく教室の前の扉が開き、有原が不機嫌そうな顔で教室に入って来る。
「あ……?」
そして教室内の不自然な空気を察し、中を見回して――俺と目が合った。
「——っ」
有原は一瞬顔を引きつらせて硬直した。
けれど、すぐに何事もなかったかのように自分の席へと歩いていく。
(……ククク。やっぱ、そういう態度しか取れないよなァ? 有原さんよ)
俺は有原のこの態度を事前に予測していた。
当初俺は、有原の人気を失墜させる策としていじめや突き落としたことをマスコミに暴露しようと考えていた。
――だが、調べているうちに有原の好感度予想以上に高いことがわかった。
今の有原は俺の死を踏み台にして、ヨーチューブの登録者60万人、Tektekのフォロワーはなんと100万人、加えてテレビへの出演も多数という、もはや大物といって差し支えないインフルエンサーになっていたのだ。
俺が奈落に落ちる前はどちらも10万人程度だったので、とんでもない伸び方である。
なので、仮に今俺が暴露したとしても世間は完全には信じてくれないだろう。
恐らく世論は二分され、有原は完全な悪者にはならない。
それどころか、俺の方が嘘つきだと糾弾される可能性すらある。
だがしかし、だからこそ俺は再びこの学校に戻って来た。
——あいつををこの学校の支配者から引きずり下ろし、世間の人気をも失墜させる証拠を手に入れる為に。
その後は普通に授業を受け、放課後を迎えた。
クラスメイトたちはみんな俺を避けていたから、誰にもいじめられない一日というのは新鮮だった。
事が動いたのは帰る前にトイレに寄った時だった。
「ふ、古瀬君……少し、時間良いかな」
トイレから出て来た俺に、そうクラスの女子の一人が声を掛けて来たのだ。
俺はそれに応じ、二人で人のいない非常階段へとやって来た。
「あの、古瀬君……今までの事、あなたに謝りたくて……」
開口一番、女子は申し訳なさそうにそう言った。
夕暮れの非常階段。
俺に頭を下げている女子。
傍から見れば告白にしか見えない素晴らしいシチュエーションだ。
ま、こいつも俺の事それなりにいじめてた一人なので、ときめくとかは全くないんだが。
「虫がいいとは思わないのか? 状況が変わったらさっさと手のひら返しをするってのは」
「ず、ずっと悪いとは思ってたの! でも、有原君やクラスのみんなが怖くて……でも、その事をあなたが死んだって聞いてからずっと後悔していて……」
そうだろうか。
結構ノリノリで古瀬って「ほんと生理的に無理な典型だよね~」とかって聞こえよがしに言ってた気がするんだけど。
後ロッカーを水浸しにされたりもしたな。
「……まあでも、そうだな。一回きちんと謝ってくれるならお前に関しては許してもいい」
「ほ、ほんと?」
彼女は目を見開いて驚く。
そう簡単に俺が許すとは思っていなかったんだろう。
「ああ。だから、なんで俺をいじめてしまったのか、それをもう一度はっきり言って、ちゃんと謝ってくれないか?」
少し含みのある口調。
けれど、罪悪感から逃れたい一心の今の彼女はそのことに気付かない。
「分かった……わ、私は、あなたをいじめていた有原君や、他のクラスメイトの矛先が自分に向くのが怖くて、古瀬君のいじめに加担してしまっていました。本当にごめんなさい……」
女子は深々と頭を下げて、嗚咽混じりの声で謝罪を告げた。
——その瞬間。
「はいお疲れ。証言どうも」
俺は胸ポケットに刺していたペン型ビデオカメラの録画スイッチを切った。
「え……?」
困惑する彼女に、スマホに転送された今の謝罪映像を再生して見せる。
「騙して悪かったな。……まあでも、俺がお前らの事をそう簡単に許すわけないだろ? 自分たちが何をしたのかよく思い返してみろよ」
思い返せば、本当に色々なことをやられた。
陰口は当たり前。暴行や、持ち物をめちゃくちゃにされたり、酷いのだとプールの授業後に水着をはぎ取られ、着替えの服ごと持ち去られたりもした。
一番復讐したいのは有原だが、別にクラスの奴らに容赦する気もないのだ。
「という訳で、お前に残された選択肢は一つ。更なる証言を集める為に俺に協力しろ。お前みたいに罪悪感を持ってそうな奴を連れて来てくれればいい。でなきゃ俺はこれを校内に流す。一人分の証言じゃ有原を破滅させるには足りないが……お前一人の学校生活を終わらせるには十分だろうよ」
「そんな……」
「ま、俺も鬼じゃないからな。タダとは言わない。報酬は……そうだな、こんなもんでどうだ?」
怯える彼女に、俺は腰の収納カバンを探って諭吉さんを5枚取り出し渡す。
「ダンジョンがどれだけ儲かるかはお前も知ってるだろ? これは今のあんたの証言分。勧誘以外にも、もしメディアに証言してくれるならこれだけだそう」
俺はさらに、100万円の札束を見せつけるように取り出しひらひらと振って見せる。
「そんなに……!?」
分厚い札束を見て、明らかの彼女の目の色が変わった。
ま、要は飴と鞭だ。
脅すだけでは、不満が溜まれば裏切られるかもしれない。
だが彼女にも相応のメリットを与えてやれば、共犯意識が芽生えその可能性はグッと低くなる。
昨日脱陰キャに使ったのは、あくまでついで。
これこそが、本当の1億円の使い道なのだ。
「さて……どっちに付くのが正解か、いい加減分かるだろ?」
整えた見た目と身体つきも相まって、俺の言葉はそれなりの迫力を生んでいる……と思う。
そのおかげもあってか、結局彼女は「分かった……私、古瀬君に協力するわ」と頷いてくれた。
とはいえ相手は元いじめ加担者。もう少しくらい脅しておいてもいいだろう。
瞬間、俺は全身から殺気を放ち、彼女の首元目掛けて無造作に手を振う。
「裏切ったら、こうなるからね?」
俺は彼女の髪を2センチ程切り落とし、落ちた髪を指差し悪い笑みを浮かべた。
装備補正がなくとも、レベル87の俺のステータスは一般人からすれば化物でしかない。
彼女は涙目になりながら無言でぶんぶんと首を縦に振り、少しよろめきながら去って行った。
「ふぅ……」
俺は短く息を吐きだして、身体を壁に預ける。
彼女はそれなりに顔も広い。後は時間が経つごとに証言が増えていくだろう。
ひとまずこれで第一段階はクリア。
大掛かりな準備としては、残すところ後1つ。
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