第7話 レベル上げは痛すぎる
蝙蝠狩りを始めて丸一日が経過した。
レベルは順調に上がり、75になった。
世間一般では化物と言われる領域だ。
とはいえ、全てが順調だったかというとそうではない。
まず、蝙蝠のリポップには1~3時間程のインターバルが必要だった。
それを確かめるまでの間に俺は手首をグサグサ刺しまくってはエリクサーを飲んでを繰り返した。
おかげで一時期エリクサーの予備は3本まで減ってしまった。
後、蝙蝠が出ないと分かるたびに俺のメンタルがゴリゴリ削られた。
……だって、手首刺すのめちゃくちゃ痛いんだもん!!!
一回出血量が少ないから出てこないのかもしれないと思って手首を切り落とす勢いで追い刺しをしまくったのだが、その時は涙が止まらなかった。
というかレベル50を超えてから俺の肉体強度が上がりすぎてしまい、普通に刺しても血があまり出なくなってしまった。
なので、ギザギザの面でノコギリのようにギコギコしてようやく血を出していたのだが、これがまた痛い上に自分を自分でいたぶっているようで非常にメンタルがやられる。
今こそ、スーッと斬れる包丁が欲しいと心から思った。
とはいえ、苦痛にさえ目を瞑ればレベリングは順調といっていい。
それよりも一つ、俺の身に深刻な問題が起きていた。
「……やばい、腹減って死にそう」
そう、俺はここに落ちてから何も口にしていないのだ。
命の危機に腹減ってるくらい、と思うかもしれないが、餓死を舐めてはいけない。
空腹が進めば体温が下がったり、脳にエネルギーが行き届かず思考が朦朧としてきたりする。
山で遭難した人の死因も殆どが闇雲に動いてエネルギーを消費し過ぎた末の餓死だ。
世間では16時間断食とか流行っているが、あれも食事から摂取できなかった分のエネルギーを体内の脂肪から補完する事で成り立っているのだ。
残念ながら、エリクサーさんは眠気は消してくれるのだが空腹を満たしてはくれなかった。
というか失血して再生してを繰り返しているから、常人の何十倍ものエネルギーを消費している気がする。
……やばい、なんか考えてたら余計にクラクラしてきた。
「これはもう、動ける内にどうにかするしかないな」
本当は100でも200でもレベルを上げまくってから動きたいところだが、その前に死んでしまっては元も子もない。
俺はここまで溜め込んだボーナスポイントを割り振って、1日ぶりにダンジョンを進むことにした。
その内訳はこんな感じだ。
――――――――――
【名前】古瀬伴治
Lv:75(32→75)
HP : 1250
MP : 510
力 :110(+44)
守り :100(+24)
敏捷 :140(+60)
器用さ :80(+0)
知性 :76(+0
運 :88(+12)
【スキル】
・風奏術……音楽家のように美しく風を操り、使用者の望みを奏でる術。攻撃には不向き。
ボーナスポイント: 20
――――――――――
1レベルにつきボーナスポイントは2貰える。
ここまで一切振って来なかった分の150ポイントを少しだけ残して割り振った。
基本的には敏捷多めで次に力。いわゆるアジリティ-ストレングス型だ。
守りはエリクサーもあるし何となくキリがいいので100まで振り、残りを運に振った。
器用さは罠の解呪や攻撃の正確さに影響するが、今の俺には必要ない。
スキルの威力に影響すると言われている知力も、最弱スキルなので当然振らない。
残してあるボーナスポイントは万一敵が異常に固かったり、やばい相手と出くわして速攻逃げたい時に力か敏捷に振るつもりだ。
「さて、これで準備は整った。とりあえず狙うなら動物系のモンスター、それも出来るだけでかくて鈍い奴だな」
ダンジョンのモンスターは倒せば消えてしまうが、その特徴に見合った物をドロップする。
よくいるなんちゃらボアとかミノタウロスからは猪肉や牛肉がドロップし、それらはその辺の肉よりも数段美味い。
ダンジョンでしか獲れない珍味も数多く存在し、希少なものだとオークションで数百万の値が付いたりもする。
なので、例え深層だとしてもモンスターを倒す事さえできれば食料を得る事は可能である。
「でも食材って考えるとあの蝙蝠からエリクサーがドロップする理由は謎だよな。 蝙蝠は病原になりやすいというし、毒薬変じて薬となる、とかそういうことなんだろうか……」
などとどうでもいいことを呟けるくらいには、今の俺には余裕があった。
トップの冒険者と遜色ないレベルとステータス。
それにどれだけ死にかけの状態からでも復活できるエリクサーがポケットパンパンに詰まっている。
降り注ぐ黒灰も、例え吸い込んでしまってもエリクサーを飲めば回復するので最近はあまり気にしなくなっている。
というか正直痛みでそこを気にする余裕がなくて、蝙蝠でレベリングをしている最中もかなり吸い込んでしまった。
エリクサーに関しては正直持ちきれなくて拠点にしていた場所に結構な数を置いてあるので、無くなっても戻ればいいだけ。消費量を気にする必要もない。
ここまですれば、例え深層といえどそう簡単にやられはしないだろう。
むしろ、今ならあの黒い牡鹿が来ても倒せるかもしれない。
――なんて、分かりやすく調子に乗ったのが悪かった。
「フォーン……」
不意に背後から鳴り響いたのは、絶望の音。
それがあの黒い牡鹿のものだと認識するよりも先に、俺の身体は宙を舞っていた。
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