【The last page】〜それぞれの事情〜

神樹にまきつく毒の花

第一章 Where was the real ?

…*…Prologue…*…

 

 十九歳になるとしの夏、ぼくは事故にった。

 ……いや、〝遭った〟というよりも〝まねいてしまった〟のだと、今ならそう思う。


 めちゃくちゃになったぼくの体は、緊急搬送された先の病院で、医者が手をつくしてくれたけど、ダメだった。意識不明が続いたらしく、数日後、ついに医者が口ごもりながらかあさんにげた。


「息子さんは、おそらくこのまま……植物状態です」


 母さんは手離てばなしで叫び声をあげて泣き崩れた。


 ……このとき誰も気づいてくれていなかったけど、ぼくにはハッキリ聞こえていたし、見えてもいたんだ。


 だからさ、告げられた張本人のぼくだって、心がズタボロに引き裂かれたし、混乱もした。


意識はちゃんとあるのに、いったいぜんたい、どうなっているんだよ! って。


 かといって泣くに泣けない。頭をきむしって、さけんで途方に暮れたいのに、それもできない。


すごくイライラしたなぁ。できることなら発狂したいとも、本気で思った。


 二十歳はたちむかえたらしい初夏、ぼくの生命維持装置のスイッチは切られて、すみやかにはずされていった。


怖くはない。どちらかと云えば、安堵あんど感がまさってる。やっとラクになれるんだ……。


 母さんがぼくの瘦せ細った手を握りしめ続けてくれてるし、兄さんも父さんもそばにいる。


 こんなかたちの死にぎわだけど、きみを想わずにはいられない。というか、ずっと考えていたんだ。

医療用ベッドで長いこと横になりっぱなしだったからさ、あらゆる事をあれこれ考えた。……なにがいけなかったのか? とか。


 意味の無い答え合わせをしたり、自分と向き合ったりして、きみとの違った未来を想像していたんだ。


 はぁーあ、……紫穂しほは今、なにしてる?


 紫穂が笑って幸せな毎日をすごしているなら、ぼくはそれだけで満足なんだ。きみの笑顔は最高に──綺麗だから。


 ああ、ヤバいなっ!

もうその時がせまってきた! ──心臓がもたない! 早すぎるだろう……!


 ……できるなら、もう一回だけでいいから、紫穂の笑顔が見たかったのに!

 ぼくはずっとここで待っていたのに!


卒業式の日みたいに、最後の最後には走って来てくれるんじゃないかって、期待して待っていたのに、なんだよ、ちくしょうっ!


きみはぼくの最期に間に合わなかったのか、

それとも、そもそもぼくの死をおこって看取みとる気なんてなかったのか。


(ぼくの、心臓が、停止した音が聞こえる……)



 ──だけど、まあ、そういうのも、もういいや。つべこべ弱音をはいたり、考えたりする苦しみは、もういやってほど味わった。


だからさ、ごちゃごちゃしたもん全部ひっくるめて、飛び越えたうえで、ぼくの願いがたった一つだけでいいから、きみに届けばいい。



 記憶のなかにぼくは生きつづけているから、


きみが苦しくなったら、その時は


ぼくを思い出のなかからさがして


いつでも逢いに来たらいい



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