2024.09.20──虹を編む

 雨上がりに自動で虹が掛かるサービス期間が終了し、人類は虹を自分たちで作らなくてはならない時代へと突入した。

 雨が降り、それが止むほんの30分前くらいになると、しとど湿った地面やアスファルトに「色の糸」が出現する。色の糸は太陽光に照らされなければその姿を見せず、雨上がりの晴れた空の下以外では決して見つけることはできない。

 天に代わって虹を作る任を授かった虹之編師は、雨が上がる30分以内に色の糸を全て回収し、その糸を紡いで虹を作り出すのだ。

 仕事を始めたばかりの虹之編師は、時間内にオーソドックスな虹を作るので精いっぱいだが、仕事に慣れた熟練にもなると、糸の編み方を工夫して、独創的な形の虹を空一杯に広げる。虹之編師が作り出すオリジナルの虹は美術作品として多くの人々に親しまれているが、昔ながらの、天が自ら作り出した自然の形の虹を愛する人も未だ多く、アーティスティックな虹が掛かると空に向かってゴミを投げつけるような人々も中には存在する。

 虹之編師になって3年目の粉茎哀奈は、今日初めて、オーソドックスではない自分だけの形の虹を編み上げた。その虹の形は、通常のようにただの円弧のように見えるが、色の糸がその円弧に反発するように内部を直線的に駆け巡っていて、まるで壁に色とりどりのスプレーで吹き付けられたストリートアートを思わせる作品だ。

 哀奈の虹の評価は賛否両論、どちらかと言えば批判の声の方が大きかったが、先輩である虹之編師達は、哀奈がたった一人で虹を編み上げたことを大いに祝い、今後の活躍を後押しした。哀奈は段々と解れて消えていく自らの虹を眺めながら、これから空に掛ける新しい虹の形をいくつも思い浮かべるのだった。

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